トーマスは中庭へ出ていき、自動車のトランクを開けた。そして、バターを半ポンド、罐入りのクリームチーズと肉エキスとコーンビーフをひと罐ずつ持って戻ってきた。
「ひとつ、私にやらせてください、フラウ・ヘルプリヒト」と言って、さっそく調理台の脇に立って仕事にかかった。(中略)
「おお」と言うなり、ヘルプリヒトの細君は泣き出した。
「コーンビーフ! 夢にまで見たものです。でもまだいちども、本物を見たことがないんです!」
J・M・ジンメル『白い国籍のスパイ』訳/中西和雄
これは「トイレに行く間も惜しいほど面白い」と開高健氏が絶賛した、ドイツのスパイ小説である。
ユーモアがたっぷりと詰まっていて、それでいて息もつかせぬ冒険が続く。さらには人間賛歌が高らかに謳われ、読後の心に暖かい潮が満ちてくるような小説なのだ。私は実際、トイレに行く際にも持ち込んで読み続けたものだ。
さて、当ブログのことである。
この6月で、ついに5年目突入と相成った。
よくここまで続いたなァと、自分でも感心する。
(ネタが切れなくてヨカッター!)
と、幸運を噛みしめる。
これも読者諸賢のみなさんが応援してくださったおかげなのである。感謝多謝であります。
さ、その記念すべき本記事は、前述した小説に出てくるコンビーフ料理を作ってみたいと思う。
その名も『魔法のコーンビーフ』であります。
紙で巻いてあるだけのパッケージ
分別がラクでリサイクルしやすい
缶詰業界も低炭素時代に突入である
やっ、巻取部分が千切れてしまった
これは初めての経験である
しかし、我恐れるまじ
道具さえあれば、こういった事態は解決するんであります。
もはや何者も開缶作業を妨げることは不可能であろう。
しかし金属片が混入しないように、細心の注意を払って開缶したのであった。
タマネギの輪切りはなぜか楽しい
包丁はようっく研いでおきましょう
タマネギはバターでじっくりと炒める。
今年の3月から、バターは非常に入手困難であります。生乳生産量の調整失敗と、穀物飼料の高騰が原因なんであります。
そんな折りもおり、こうしてバターを使った料理はいかがなものか。
しかも分量大さじ2くらいの量を使用するのは、いかがなものか。
しかし、本日は記念すべき5年目突入の日なのだ。普段はそんなにバターを使わないんだし、よしとする。
透き通ったタマネギにコンビーフを投入
タマネギが茶色に染まっていく
昔の曲で「あなた色に染められ...」ってのがあったっけ
別のフライパンでオリーブオイルを熱し、
じゃがいも半量を入れて広げる
その上にタマネギ&コンビーフを投入
この辺、小説のレシピとは異なる
ガレットという料理をミックスしたのだ
残りのじゃがいもを上に広げて、程よく焦げ目がつくまで焼いてからひっくり返す。
フライパンを2つ重ね合わせて、うまいこと返そうとしたのだけれど...。
失敗して、中身をこぼしてしまった。
心うきうきと作業していたのが一転、暗澹たる気持ちがこみあげてきた。
いつしか涙もボーダと流れる。
折しも、外では沛然たる雨が降り出した。
なんとかせねばなるまい。40歳過ぎた大人が「料理がこぼれたので泣きました」ではイケナイ(当たり前だけど)。
かくのごとし。
最後はオーブンで焼いて事なきを得た。
ところで小説のオリジナルレシピだと、じゃがいもはピュレーにして使うことになっている。
しかし筆者は細切りのじゃがいもが好きなんであります。だからその部分だけ、変更させていただきました。
では、失敬して一口...。
おう、思いのほか甘い。ゆっくりとバターで炒めたたまねぎの甘さが、相当に利いている。
その甘みをまとったコンビーフ&じゃがいものゴールデンコンビ。不味かろうはずがない。
味付けはコショウとローズマリーのみ。コンビーフがかなり塩辛いので塩は不要でありました。
というわけで、読者諸賢よ。これからも缶詰blogをヨロシクヨロシクなのだ!
内容量:340g
原材料名:牛肉、食塩、砂糖、発色剤(亜硫酸Na)
原産国:ブラジル
(経営再建中のハナマサの缶詰を使用しました。ハナマサ本部よ、がんばれよー!)