都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「つくる・つながる・ポール・コックス展」 板橋区立美術館
板橋区立美術館
「つくる・つながる・ポール・コックス展」
2021/11/20~2022/1/10
板橋区立美術館で開催中の「つくる・つながる・ポール・コックス展」を見てきました。
1958年にパリに生まれたポール・コックスは、グラフィックデザインや絵本、舞台美術などを手掛け、近年は風景画を描くなど幅広く活動してきました。
そのコックスは2006年、イラストレーター向けのワークショップ「夏のアトリエ」の講師として板橋区立美術館へと招かれ、以来、2015年には同館の展覧会のポスターを描くなど交流を続けてきました。
「本の仕事」展示風景
まず冒頭に展開するのは絵本をはじめとした本の仕事で、過去から現在にまで出版された私家版を含む50点の作品が並んでいました。
「古事記」の絵本のためのスケッチ
いずれもポップな色彩をともなった親しみやすいイラストが描かれていて、日本語としても出版された「日本神話えほん」では絵本のためのスケッチも紹介されていました。
「本の仕事」展示風景
コックスの絵本で興味深いのは、私家版を中心に実験的とも呼べる制作がなされていることでした。このうち「夢見がちな小説全集」ではリングファイル綴じのためにページを入れ替えることができて、偶然組み合わされた文章と絵を楽しむ趣向がとられていました。
「本の仕事」展示風景
この他にも各ページの絵柄の中に書かれた数字を解読すると文ができる「暗号メッセージ」や、テキストに含まれる数字や記号をヒントに内容を楽しむ「これを読みなさい」など独創的な絵本も少なくありませんでした。また私家版のハンドメイドな風合いも魅力的だったかもしれません。
「グラフィックデザインとイラストの仕事」展示風景
グラフィックデザインの仕事で多くを占めるのは、オペラ座といった劇場のためのポスターでした。そもそも音楽家に生まれ、音楽に造形の深かったコックスは、1996年にナンシー・オペラ座のポスターを依頼されたことをきっかけに、現在のナンテール・アマンディエ劇場に至るまでの多くの劇場ポスターを手がけてきました。
「グラフィックデザインとイラストの仕事」展示風景
それらはいずれも絵本と同じように明るい色彩と軽やかなイラストを特徴としていましたが、中には象徴的とも暗示的ともいえるデザインや抽象的なイメージを伴う作品もあり、必ずしも具象というわけではありませんでした。単にわかりやすいだけではない、いわば知性を感じさせるのもコックスの作品の醍醐味なのかもしれません。
「グラフィックデザインとイラストの仕事」展示風景
コックスが本格的に風景画を手がけたのは2011年の頃で、住まいを南フランスのアルルに移したことをきっかけに、同地の風景をスケッチしては絵画を描きました。
「無題」 2019年
それらは川辺の館から緑に覆われた野山、あるいは空の雲などさまざまな場所を描いていて、一度見たかのような郷愁を呼び覚ますような作品も少なくありませんでした。
「無題」 2001年
その一方で音楽的なリズムを伴うような抽象的な作品もあり、線や色が自然のかたちを超えて自由に展開しているようにも思えました。
「レ・ボ=ド=プロヴァンスの庭」 2021年
今回の展覧会に合わせて制作されたのが「レ・ボ=ド=プロヴァンスの庭」で、横幅6.8メートル、高さ3.2メートルもの大画面にアルル近くにある庭から着想した光景を表していました。一見、抽象的でもありますが、しばらく目にしているとモネが晩年に描いた睡蓮のイメージも思い浮びました。
「えひらがな」展示コーナー
「えひらがな」とは、ひらがなを人や動物に置き換えて表現し、自由に言葉を生み出すことができる参加型のインスタレーションで、実際にイラストを手にとっては文字列を作ることができました。
「えひらがな」展示コーナーよりイラストを「はろるど」と表示
これは元々、1996年頃からアルファベットにて取り組まれた作品で、今回の展覧会のために新たな日本語のバージョンとして作られました。
「手探りすること、試みること」に焦点を置いたとのことでしたが、完成作とともにスケッチなどから制作のプロセスを辿ることができるような内容だったかもしれません。おもちゃ箱をひっくり返したような遊び心にも満ち溢れた展示でした。
「グラフィックデザインとイラストの仕事」展示風景
コックス自身、子どもの頃から日本の美術に深い影響を受けていたそうです。今回は残念ながらコロナ禍のために来日は叶いませんでしたが、今後も日本でもさまざまな制作を見ることができるのではないでしょうか。
会場内の撮影が可能でした。2022年1月10日まで開催されています。
「つくる・つながる・ポール・コックス展」 板橋区立美術館(@itabashi_art_m)
会期:2021年11月20日(土)~2022年1月10日(月・祝)
休館:月曜日(ただし1月10日は開館)。年末年始(12月29日~1月3日)。
時間:9:30~17:00 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般650円、高・大生450円、小・中学生200円。
*毎週土曜日は高校生以下無料。
住所:板橋区赤塚5-34-27
交通:都営地下鉄三田線西高島平駅下車徒歩13分。東武東上線・東京メトロ有楽町線成増駅北口2番のりばより増17系統「高島平操車場」行き、「区立美術館」下車。
「つくる・つながる・ポール・コックス展」
2021/11/20~2022/1/10
板橋区立美術館で開催中の「つくる・つながる・ポール・コックス展」を見てきました。
1958年にパリに生まれたポール・コックスは、グラフィックデザインや絵本、舞台美術などを手掛け、近年は風景画を描くなど幅広く活動してきました。
そのコックスは2006年、イラストレーター向けのワークショップ「夏のアトリエ」の講師として板橋区立美術館へと招かれ、以来、2015年には同館の展覧会のポスターを描くなど交流を続けてきました。
「本の仕事」展示風景
まず冒頭に展開するのは絵本をはじめとした本の仕事で、過去から現在にまで出版された私家版を含む50点の作品が並んでいました。
「古事記」の絵本のためのスケッチ
いずれもポップな色彩をともなった親しみやすいイラストが描かれていて、日本語としても出版された「日本神話えほん」では絵本のためのスケッチも紹介されていました。
「本の仕事」展示風景
コックスの絵本で興味深いのは、私家版を中心に実験的とも呼べる制作がなされていることでした。このうち「夢見がちな小説全集」ではリングファイル綴じのためにページを入れ替えることができて、偶然組み合わされた文章と絵を楽しむ趣向がとられていました。
「本の仕事」展示風景
この他にも各ページの絵柄の中に書かれた数字を解読すると文ができる「暗号メッセージ」や、テキストに含まれる数字や記号をヒントに内容を楽しむ「これを読みなさい」など独創的な絵本も少なくありませんでした。また私家版のハンドメイドな風合いも魅力的だったかもしれません。
「グラフィックデザインとイラストの仕事」展示風景
グラフィックデザインの仕事で多くを占めるのは、オペラ座といった劇場のためのポスターでした。そもそも音楽家に生まれ、音楽に造形の深かったコックスは、1996年にナンシー・オペラ座のポスターを依頼されたことをきっかけに、現在のナンテール・アマンディエ劇場に至るまでの多くの劇場ポスターを手がけてきました。
「グラフィックデザインとイラストの仕事」展示風景
それらはいずれも絵本と同じように明るい色彩と軽やかなイラストを特徴としていましたが、中には象徴的とも暗示的ともいえるデザインや抽象的なイメージを伴う作品もあり、必ずしも具象というわけではありませんでした。単にわかりやすいだけではない、いわば知性を感じさせるのもコックスの作品の醍醐味なのかもしれません。
「グラフィックデザインとイラストの仕事」展示風景
コックスが本格的に風景画を手がけたのは2011年の頃で、住まいを南フランスのアルルに移したことをきっかけに、同地の風景をスケッチしては絵画を描きました。
「無題」 2019年
それらは川辺の館から緑に覆われた野山、あるいは空の雲などさまざまな場所を描いていて、一度見たかのような郷愁を呼び覚ますような作品も少なくありませんでした。
「無題」 2001年
その一方で音楽的なリズムを伴うような抽象的な作品もあり、線や色が自然のかたちを超えて自由に展開しているようにも思えました。
「レ・ボ=ド=プロヴァンスの庭」 2021年
今回の展覧会に合わせて制作されたのが「レ・ボ=ド=プロヴァンスの庭」で、横幅6.8メートル、高さ3.2メートルもの大画面にアルル近くにある庭から着想した光景を表していました。一見、抽象的でもありますが、しばらく目にしているとモネが晩年に描いた睡蓮のイメージも思い浮びました。
「えひらがな」展示コーナー
「えひらがな」とは、ひらがなを人や動物に置き換えて表現し、自由に言葉を生み出すことができる参加型のインスタレーションで、実際にイラストを手にとっては文字列を作ることができました。
「えひらがな」展示コーナーよりイラストを「はろるど」と表示
これは元々、1996年頃からアルファベットにて取り組まれた作品で、今回の展覧会のために新たな日本語のバージョンとして作られました。
「手探りすること、試みること」に焦点を置いたとのことでしたが、完成作とともにスケッチなどから制作のプロセスを辿ることができるような内容だったかもしれません。おもちゃ箱をひっくり返したような遊び心にも満ち溢れた展示でした。
「グラフィックデザインとイラストの仕事」展示風景
コックス自身、子どもの頃から日本の美術に深い影響を受けていたそうです。今回は残念ながらコロナ禍のために来日は叶いませんでしたが、今後も日本でもさまざまな制作を見ることができるのではないでしょうか。
【新着】「あそび」と「自由」がなくてはならない大切なもの。日本とも関わりが深いフランスのアーティスト、ポール・コックスの魅力 https://t.co/xMZpcuLWlN
— Pen Magazine (@Pen_magazine) December 11, 2021
会場内の撮影が可能でした。2022年1月10日まで開催されています。
「つくる・つながる・ポール・コックス展」 板橋区立美術館(@itabashi_art_m)
会期:2021年11月20日(土)~2022年1月10日(月・祝)
休館:月曜日(ただし1月10日は開館)。年末年始(12月29日~1月3日)。
時間:9:30~17:00 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般650円、高・大生450円、小・中学生200円。
*毎週土曜日は高校生以下無料。
住所:板橋区赤塚5-34-27
交通:都営地下鉄三田線西高島平駅下車徒歩13分。東武東上線・東京メトロ有楽町線成増駅北口2番のりばより増17系統「高島平操車場」行き、「区立美術館」下車。
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