「描かれたチャイナドレス」 ブリヂストン美術館

ブリヂストン美術館
「描かれたチャイナドレスー藤島武二から梅原龍三郎まで」
4/26-7/21



ブリヂストン美術館で開催中の「描かれたチャイナドレスー藤島武二から梅原龍三郎まで」を見て来ました。

明治末から大正期にかけて興ったという中国趣味。また美術においても中国をモチーフとした作品が作られた。その一つだったのでしょうか。チャイナドレスです。時にモデルに着せては描いている。日本人画家の描いたチャイナドレスの人物画、約30点ほどが展示されていました。

さて興味深いのはチャイナドレスのモチーフを何処に求めるのかということです。


小出楢重「周秋蘭立像」1928年 リーガロイヤルホテル

つまりチャイナドレスを求めて画家が実際に中国へ渡っているのか、あるいは日本で見て描いたのか。例えば梅原や藤田に児玉虎次郎は前者、そして藤島や劉生、安井曾太郎は後者である。その辺に留意して見るのもポイントかもしれません。


藤島武二「匂い」1915年 東京国立近代美術館

トップバッターは藤島武二。「匂い」(1915)。油彩で最も早くチャイナドレスを描いたとされる作品です。花柄のクロスがかかった丸いテーブル。その上には花瓶。中国服を纏った女性が右肘をつき、手を顎と耳にやりながら正面を向いている。目鼻立ちの整った顔つき。左手をそっとテーブルに添えています。タイトルの匂いとは嗅ぎ煙草のことでしょうか。女性の前に小瓶が置かれていました。


藤島武二「女の横顔」1926-27年 ポーラ美術館

藤島は全部で6点出ていました。うち女性を真横から描いた作品が目立つ。「東洋振り」(1924)や「女の横顔」(1926-27)です。とりわけ「女の横顔」、例えるとボッティチェリを連想する。何でも藤島は留学先のヨーロッパで見たルネサンス絵画を忘れられず、このように横顔のモチーフを取り込んで描いたのだとか。また「東洋振り」は背後に漢字の看板も見え、いかにも中国風ではありますが、「女の横顔」の舞台は場所も特定出来ない岩山です。やはりこれもルネサンス絵画に倣ってのことなのかもしれません。

ちなみに藤島、1910年代からチャイナドレスに没頭し、全部で60着まで集めるに至ったそうです。日本の画家におけるチャイナドレス受容の言わば先駆者。まさかそのような役割を果たしていたとは知りませんでした。


児島虎次郎「西湖の画舫」1921年  高梁市成羽美術館

続いては中国へと渡ってチャイナドレスを描いた画家です。児玉虎次郎。出品は4点。目立つのが「西湖の画舫」(1921)です。湖を望む楼閣で寛ぐ人たち。胡弓を演奏し、踊りを披露する。もちろん中国人でしょう。振り返れば本展、殆どのモデルが女性ですが、ここでは男性も中国服を着用している。やはり現地に取材したからなのかもしれません。

岡田謙三は当時の満州を訪れています。時代は下って1941年のことです。「満人の家族」(1942)は満州の風俗を捉えた一枚。細い輪郭線で人物を象る。さながらフジタ風。そこに色の強い絵具を塗り込める。どこか抽象的な色面構成。カラフルな作品でもあります。

面白いのが正宗得三郎です。彼は日本でチャイナドレスを見て描いた画家の一人。しかしながら経緯が少し変わっています。というのも「赤い支那服」(1925)、モデルは画家の妻だそうですが、着ている服も妻が作ったもの。しかも布地は土産のフランス製というから驚きです。ただそれでもそれっぽく見える。何でも彼女は夫の要求にもこたえ、チャイナドレスを一生懸命に制作したそうです。


久米民十郎「支那の踊り」1920年 個人蔵

久米民十郎の「支那の踊り」(1920)が出ていました。まるで何かに取り憑かれたかのように踊る女性の姿。トランス状態としたら言い過ぎでしょうか。イギリスのヴォーティシズム(渦巻派)の影響下にある作品とは言われるものの、どこかプリミティブでかつ奇怪。ただならぬ妖しい雰囲気を漂わせている。何度か見たことのある作品ですが、その都度に強いインパクトを与えられます。


安井曾太郎「金蓉」1934年 東京国立近代美術館 *展示期間:6/10~7/21

安井曾太郎の代表作「金蓉」のモデルが着ているのも青いチャイナドレスです。セザンヌ云々でも語られる作品、チャイナドレスのみに着目すると新たな面が見えてくるかもしれない。西洋画の技法を日本人が修得して中国服を描くことの意味とは何なのか。大正で沸いた中国趣味から昭和への展開。長い日中戦争もありました。戦争画を描くために中国へ渡り、結果的にチャイナドレスを描いた画家もいます。ちなみに「金蓉」は期間限定です。6月10日より公開されます。

なお会場には実際のチャイナドレスも6点ほど並んでいました。効果的な演出です。絵画上のドレスと見比べるのも楽しいのではないでしょうか。

本展は特別展ではなくテーマ展。全10室あるうちの1、2室を用いての展覧会です。ということで、本展以降はお馴染みのコレクション展が続きます。そちらは130点。ラストはお馴染みのザオ・ウーキーの傑作が待ち構えている。いつもながらに充足感がありました。

チャイナドレスで来館すると入館料が団体割引扱いになります。実際ところ着る機会はなかなかなさそうですが、もし着て観覧すれば一際注目を浴びること間違いありません。

7月21日まで開催されています。

「描かれたチャイナドレスー藤島武二から梅原龍三郎まで」 ブリヂストン美術館
会期:4月26日(土)~7月21日(月)
時間:10:00~18:00(毎週金曜日は20:00まで)*入館は閉館の30分前まで
休館:月曜日。
料金:一般800(600)円、65歳以上600(500)円、大・高生500(400)円、中学生以下無料
 *( )内は15名以上団体料金。
 *100円割引券
 *チャイナドレス割引あり。
住所:中央区京橋1-10-1
交通:JR線東京駅八重洲中央口徒歩5分。東京メトロ銀座線京橋駅6番出口徒歩5分。東京メトロ銀座線・東西線、都営浅草線日本橋駅B1出口徒歩5分。
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