都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「野口小蘋-女性南画家の近代」 実践女子大学香雪記念資料館
実践女子大学香雪記念資料館
「野口小蘋-女性南画家の近代」
10/8~12/1
実践女子大学香雪記念資料館で開催中の「野口小蘋-女性南画家の近代」をみてきました。
明治から大正にかけて活動した南画家の野口小蘋は、女性初の帝室技芸員も担い、美人画に山水画、それに花鳥画に多くの優品を残しました。
大阪で医師の長女として生まれた小蘋は、一時、関西の南画家に師事するも、ほぼ独学で画技を磨きました。明治10年代の頃までは美人画を多く描き、20年代に入ると山水画を手がけるようになりました。
小蘋の美人画は、浮世絵の影響を濃く反映していました。その一例が「設色美人図」で、黒い和装をまとった女性が、桜の花を手にして立っていました。面長の顔はいかにも浮世絵風で、帯には紅葉の模様があり、裾には梅や桜、それに桔梗や牡丹などの四季の花々が描かれていました。
野口小蘋「美人招涼図」 明治20(1887)年 山梨県立美術館
2人の女性が柳の下で行き交う「柳下二美人図」は、墨の軽やかな線を特徴としていて、おそらくは宴席で即興的に描かれたと考えられています。一方で、朱色の机の横で扇子を持つ女性を描いた「美人招涼図」は、顔の陰影が立体的で、かつての浮世絵風の美人画とは一線を画していました。また水色の着物の透けた描写も魅惑的で、身体の白い肌の質感なども細かに表していました。
「西園雅集図」は、小蘋が南画家としての地位を確立した作品で、明治29年の日本美術協会の秋期展覧会で、実質の最優秀賞を受賞しました。中国の北宋時代の「西園雅集図記」の記述をモチーフにしていて、多くの文人が集う光景を表していました。人物、風景を問わず、細密な表現を特徴としていて、筆をとる文人らの宴の賑やかな様子が伝わってきました。
野口小蘋「春秋山水図屏風」(右隻) 明治41(1908)年頃 東京国立博物館 *11/3まで展示
山水画では「春秋山水図屏風」が圧巻でした。右に紅白の梅の咲く春、左に秋色に染まる山々を描いた作品で、おそらくは結婚の調度品として宮中へ収められたと考えられています、山の岩肌や樹木、そして東屋などは大変に細かく描かれていて、静けさに包まれながらも、水辺の周りを歩く人の姿も垣間見えました。
野口小蘋「甲州御嶽図」 明治26 (1893)年 八百竹美術品店
「甲州御嶽図」は、山梨の名勝、昇仙峡を描いた作品で、画面右側に覚円峰が突き出し、右手に天狗岩のせり出す光景を、ほぼ正面から捉えていました。やはり緻密な線描が際立っていて、群青などの色を塗り分けることにより、山や岩の量感を表していました。
花鳥画では「海棠小禽図」に魅せられました。淡いピンク色に染まる海棠に、青い羽をのばした尾長鳥がとまる様子を表現していて、鮮やかな色彩が目にしみました。また海棠は絵具を盛り上げて描くなど、随所に小蘋の巧みな画技が見られました。
ほかにも、菊を見物する人々を描いた、「菊花見物図」も目を引くのではないでしょうか。広い庭園の中に菊小屋が並んでいて、行き交う人は、どこか楽しそうに菊を愛でていました。金砂子の蒔かれた画面は、僅かに黄金色に染まり、空間に光を与えていました。小蘋の款記に「日本」と入る珍しいものであることから、富裕層など、特別な注文によって制作したとされています。
ラストには、小蘋と関わりのある画家の作品も何点か展示されていました。そのうち、小蘋に師事した都鳥雪香の「花鳥図」が力作で、視線の鋭い雄の鶏や可愛らしい雛、さらに美しい芥子を淡い色彩で表現していました。
野口小蘋「美人読書図」 明治5(1872)年 実践女子大学香雪記念資料館
なお小蘋は、実践女子大学の学祖、下田歌子とともに、当時の華族女学校で教鞭をとっていたこともあり、同大学でも早い段階から作品の収集や研究を行なってきたそうです。必ずしも良く知られた画家とは言えないかもしれませんが、思いがけないほど魅惑的な作品ばかりでした。
「野口小蘋-女性南画家の近代」
1期:10月8日(月・祝)~10月18日(木)
2期:10月19日(金)~11月3日(土・祝)
3期:11月6日(火)~12月1日(土)
会期は3期制です。ただし展示替えは少なく、作品の入れ替えはごく一部でした。
受付でアンケートに答えると、クリアファイルか絵葉書を頂戴することが出来ます。また詳細な解説の付いたパンフレットもいただけました。
資料館は大学構内にあります。よって、観覧に際しては、正門右の警備室で受付をする必要があります。また日曜は休館日です。ご注意下さい。
入場は無料です。12月1日まで開催されています。おすすめします。
「野口小蘋-女性南画家の近代」 実践女子大学香雪記念資料館
会期:10月8日(月・祝)~10月18日(木)、10月19日(金)~11月3日(土・祝)、11月6日(火)~12月1日(土)
休館:日曜日。但し10月14日、21日は開館。11月5日(月)は展示替えのため休館。
時間:11:00~17:00。
*10月26日(金)、11月9日(金)は18時まで開館。
料金:無料
住所:渋谷区東1-1-49 実践女子大学渋谷キャンパス内
交通:JR線、東京メトロ銀座線・半蔵門線・副都心線、東急線、京王井の頭線渋谷駅東口から徒歩約10分。
「野口小蘋-女性南画家の近代」
10/8~12/1
実践女子大学香雪記念資料館で開催中の「野口小蘋-女性南画家の近代」をみてきました。
明治から大正にかけて活動した南画家の野口小蘋は、女性初の帝室技芸員も担い、美人画に山水画、それに花鳥画に多くの優品を残しました。
大阪で医師の長女として生まれた小蘋は、一時、関西の南画家に師事するも、ほぼ独学で画技を磨きました。明治10年代の頃までは美人画を多く描き、20年代に入ると山水画を手がけるようになりました。
小蘋の美人画は、浮世絵の影響を濃く反映していました。その一例が「設色美人図」で、黒い和装をまとった女性が、桜の花を手にして立っていました。面長の顔はいかにも浮世絵風で、帯には紅葉の模様があり、裾には梅や桜、それに桔梗や牡丹などの四季の花々が描かれていました。
野口小蘋「美人招涼図」 明治20(1887)年 山梨県立美術館
2人の女性が柳の下で行き交う「柳下二美人図」は、墨の軽やかな線を特徴としていて、おそらくは宴席で即興的に描かれたと考えられています。一方で、朱色の机の横で扇子を持つ女性を描いた「美人招涼図」は、顔の陰影が立体的で、かつての浮世絵風の美人画とは一線を画していました。また水色の着物の透けた描写も魅惑的で、身体の白い肌の質感なども細かに表していました。
「西園雅集図」は、小蘋が南画家としての地位を確立した作品で、明治29年の日本美術協会の秋期展覧会で、実質の最優秀賞を受賞しました。中国の北宋時代の「西園雅集図記」の記述をモチーフにしていて、多くの文人が集う光景を表していました。人物、風景を問わず、細密な表現を特徴としていて、筆をとる文人らの宴の賑やかな様子が伝わってきました。
野口小蘋「春秋山水図屏風」(右隻) 明治41(1908)年頃 東京国立博物館 *11/3まで展示
山水画では「春秋山水図屏風」が圧巻でした。右に紅白の梅の咲く春、左に秋色に染まる山々を描いた作品で、おそらくは結婚の調度品として宮中へ収められたと考えられています、山の岩肌や樹木、そして東屋などは大変に細かく描かれていて、静けさに包まれながらも、水辺の周りを歩く人の姿も垣間見えました。
野口小蘋「甲州御嶽図」 明治26 (1893)年 八百竹美術品店
「甲州御嶽図」は、山梨の名勝、昇仙峡を描いた作品で、画面右側に覚円峰が突き出し、右手に天狗岩のせり出す光景を、ほぼ正面から捉えていました。やはり緻密な線描が際立っていて、群青などの色を塗り分けることにより、山や岩の量感を表していました。
花鳥画では「海棠小禽図」に魅せられました。淡いピンク色に染まる海棠に、青い羽をのばした尾長鳥がとまる様子を表現していて、鮮やかな色彩が目にしみました。また海棠は絵具を盛り上げて描くなど、随所に小蘋の巧みな画技が見られました。
ほかにも、菊を見物する人々を描いた、「菊花見物図」も目を引くのではないでしょうか。広い庭園の中に菊小屋が並んでいて、行き交う人は、どこか楽しそうに菊を愛でていました。金砂子の蒔かれた画面は、僅かに黄金色に染まり、空間に光を与えていました。小蘋の款記に「日本」と入る珍しいものであることから、富裕層など、特別な注文によって制作したとされています。
ラストには、小蘋と関わりのある画家の作品も何点か展示されていました。そのうち、小蘋に師事した都鳥雪香の「花鳥図」が力作で、視線の鋭い雄の鶏や可愛らしい雛、さらに美しい芥子を淡い色彩で表現していました。
野口小蘋「美人読書図」 明治5(1872)年 実践女子大学香雪記念資料館
なお小蘋は、実践女子大学の学祖、下田歌子とともに、当時の華族女学校で教鞭をとっていたこともあり、同大学でも早い段階から作品の収集や研究を行なってきたそうです。必ずしも良く知られた画家とは言えないかもしれませんが、思いがけないほど魅惑的な作品ばかりでした。
「野口小蘋-女性南画家の近代」
1期:10月8日(月・祝)~10月18日(木)
2期:10月19日(金)~11月3日(土・祝)
3期:11月6日(火)~12月1日(土)
会期は3期制です。ただし展示替えは少なく、作品の入れ替えはごく一部でした。
【展覧会情報】実践女子大学香雪記念資料館(渋谷駅より徒歩約10分)では、「野口小蘋-女性南画家の近代」展を12/1まで開催中。明治・大正期に活躍した女性画家、野口小蘋の画業のあゆみをふりかえる。シンポジウムも開催。詳しくはhttps://t.co/kmZMaSL7rf pic.twitter.com/pE77umijgq
— 太田記念美術館 (@ukiyoeota) 2018年10月14日
受付でアンケートに答えると、クリアファイルか絵葉書を頂戴することが出来ます。また詳細な解説の付いたパンフレットもいただけました。
資料館は大学構内にあります。よって、観覧に際しては、正門右の警備室で受付をする必要があります。また日曜は休館日です。ご注意下さい。
入場は無料です。12月1日まで開催されています。おすすめします。
「野口小蘋-女性南画家の近代」 実践女子大学香雪記念資料館
会期:10月8日(月・祝)~10月18日(木)、10月19日(金)~11月3日(土・祝)、11月6日(火)~12月1日(土)
休館:日曜日。但し10月14日、21日は開館。11月5日(月)は展示替えのため休館。
時間:11:00~17:00。
*10月26日(金)、11月9日(金)は18時まで開館。
料金:無料
住所:渋谷区東1-1-49 実践女子大学渋谷キャンパス内
交通:JR線、東京メトロ銀座線・半蔵門線・副都心線、東急線、京王井の頭線渋谷駅東口から徒歩約10分。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
« 「リー・キッ... | 「日本画の挑... » |
コメント |
コメントはありません。 |
コメントを投稿する |
ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません |