「写真芸術展 CHIBA FOTO」(前編) 旧神谷伝兵衛稲毛別荘、千葉市ゆかりの家・いなげ、千葉市中央コミュニティセンター松波分室

千葉市内13会場
「写真芸術展 CHIBA FOTO」
2021/8/21~9/12



12名の作家による写真芸術展「CHIBA FOTO」@sennoha_art_fes)が、千葉市内の13の会場にて開かれています。

会場は旧神谷伝兵衛稲毛別荘や千葉公園、それに千葉市美術館などで、おおむね稲毛区と中央区エリアに分かれていました。

回遊型の展示だけに順路はありませんが、まず私は市内西部の稲毛区にある旧神谷伝兵衛稲毛別荘と千葉市ゆかりの家・いなげを目指すことにしました。



京成千葉線の京成稲毛駅を下車し、黒松が立ち並ぶ稲毛公園を抜けると姿を見せるのが旧神谷伝兵衛稲毛別荘でした。これは大正7年に、神谷バーや牛久シャトーの創設者として知られる神谷伝兵衛が建てた別荘で、ロマネスク様式のアーチを特徴としたコンクリート造りの地上2階、地下1階の建物でした。



1階にはベランダと洋間、2階は和室や床間があり、葡萄のレリーフや透彫などのワインに因んだ室内意匠も残されていて、現在は国の登録有形文化財に指定されています。



その旧別荘にて行われているのが、金川晋吾の『他人の記憶』と横湯久美の『時間 家の中で 家の外で』でした。



金川は1階の洋間と地下のワインセラー跡の空間を用い、古写真やポートレイトなどを展示していて、いずれも別荘の過去を探る中で出会った女性、花光志津の写真や日記を素材としていました。そのうち古写真には稲毛の海や黒松なども写り込んでいて、別荘地の面影を今に知ることができました。



ワインセラー跡の地下を用いたポートレイトも迫力があったかもしれません。コンクリートの柱と梁が剥き出しとなった空間には9つの小部屋が築かれていて、現在の稲毛における複数の「わたし」が写し出されていました。



地下と地上にて新旧の稲毛が交差しているような印象を与えられるのではないでしょうか。



続く2階の和室では、横山が祖母の死に向かい合う中で生まれたという写真を展示していて、どこか悲哀を感じさせるプライベートな空間が築かれていました。



ここで面白いのは1面が鏡となった壁が築かれていることで、室内の装飾や畳、窓の外の景色などが写り込んでいました。また時には鑑賞者の姿も写し出されるため、作品の中へ入りこむような錯覚に囚われるかもしれません。



旧神谷伝兵衛稲毛別荘に隣接する千葉市民ギャラリー・いなげでは、「海の記憶を伝える稲毛アーカイブ展」が行われていて、明治や大正時代から昭和60年代と至る稲毛の歴史を伝える写真や資料が数多く展示されていました。



今でこそ別荘とギャラリーの向こうにもマンションが立ち並んでいますが、かつての稲毛は海辺の保養地として栄えていて、多くの小説家や文化人が集っていました。病気療養や健康増進を目的とした千葉県初の海水浴場も稲毛の地に開設されました。



一通り稲毛別荘と市民ギャラリーの展示を見た後は、稲毛区エリアのもう1つの会場である千葉市ゆかりの家・いなげへ向かいました。



千葉市ゆかりの家・いなげとは、かつて海岸線だった地にあった別荘で、昭和12年には清朝最後の皇帝の溥儀の弟、愛新覚羅溥傑と妻の浩が新婚時代に半年ほど生活を送りました。先ほどの旧神谷伝兵衛別荘とは近く、歩いてせいぜい5~6分ほどでした。



この旧宅にて展示を行うのは、水中から眺めた写真で知られる楢橋朝子で、稲毛や千葉みなと、それに検見川といった千葉市内の海と風景をモチーフとしていました。



いずれも中庭に面したスペースに展示された写真は、戸外の明かりを受けて光るだけでなく、外の緑も写し込んでいて、千葉の海と目の前の景色が互いに重なって見えるかのようでした。

またここでも鏡の板を用いて作品を演出していて、銀色の表面へ写真の海が反射していました。眩い光景ではないではないでしょうか。


旧神谷伝兵衛稲毛別荘と千葉市ゆかりの家・いなげの展示を見た後は、京成稲毛駅へと戻り、京成線に乗って西登戸駅へと移動しました。



そして西登戸駅から総武線の高架を潜り、中央区エリアで最も西に位置する千葉市中央コミュニティセンター松波分室へと歩いて向かいました。



千葉市中央コミュニティセンター松波分室とは、長く地元に住んでいた人が残した和風の邸宅で、千葉市に遺贈されては市民のサークル活動の場として利用されてきました。コミュニティセンターとあるため公民館のような施設を想像していましたが、意外にも大変に趣きの深い家屋でした。



ここでは2017年に千葉県へ移住した写真家の川内倫子が展示を行なっていて、出産と子育てをする中で巡り合ったという千葉での生活を捉えた写真や映像を公開していました。



それらは子どもであったり、身近な自然、それにツバメなどをモチーフとしていて、幾つもの廊下を経て連なった小さな部屋に散りばめられるように展示されていました。



エントランスから連なる廊下に設置された鏡のような壁などの空間構成も面白いのではないでしょうか。明るい部屋と暗い部屋に展開する写真を追っていくと、川内が千葉の地で子どもと育んだ物語を読むかのようでした。



「写真芸術展 CHIBA FOTO」(後編)に続きます。

「CHIBA FOTO 金川晋吾『他人の記憶』、横湯久美『時間 家の中で 家の外で』」 旧神谷伝兵衛稲毛別荘
会期:2021年8月21日(土)~9月12日(日)
休館:8月23日、8月30日、9月6日
時間:9:00~17:15
料金:無料
住所:千葉市稲毛区稲毛1-8-35
交通:京成線京成稲毛駅より徒歩7分。

「CHIBA FOTO 楢橋朝子『SEA SIDE LINE』」 千葉市ゆかりの家・いなげ
会期:2021年8月21日(土)~9月12日(日)
休館:8月23日、8月30日、9月6日
時間:9:00~16:30
料金:無料
住所:千葉市稲毛区稲毛1-16-12
交通:京成線京成稲毛駅より徒歩7分。

「CHIBA FOTO 川内倫子『AS IT IS』」 千葉市中央コミュニティセンター松波分室
会期:2021年8月21日(土)~9月12日(日)
休館:8月30日
時間:9:00~17:00
料金:無料
住所:千葉市中央区松波2-14-8
交通:京成線京成稲毛駅より徒歩7分。
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