「村上華岳ー京都画壇の画家たち」 山種美術館

山種美術館
「村上華岳ー京都画壇の画家たち」 
10/31-12/23



山種美術館で開催中の「村上華岳ー京都画壇の画家たち」のプレスプレビューに参加してきました。

昨年、重要文化財の指定を受けた村上華岳の「裸婦図」。画家本人が「久遠の女性」を表したとした傑作です。インドの神仏や菩薩像、あるいは西洋のルネサンス絵画などを踏まえながら、独自の神秘的な女性像を描きました。

指定後初の公開です。「裸婦図」を頂点にした華岳の画業を展観。あわせて華岳と同時代、ないしは先人の画家たちを紹介しています。


竹内栖鳳「班描」 1924(大正13)年 山種美術館

はじまりは先人や学友。つまり京都画壇です。華岳が京都市美術工芸学校に入学した明治36年、教壇にはかの竹内栖鳳や菊池芳文、山元春挙らが立っていました。栖鳳では人気の「班描」もお目見え。意外や意外、同館では何と3年ぶりの展示だそうです。


右:山元春挙「火口の水」 山種美術館 1912-26年頃(大正時代)
左:都路華香「帆舟」 山種美術館 1925(大正14)年


山元春挙の「火口の水」には感心しました。写実性という言葉が相応しいかもしれません。いわゆる火山湖を描いた一枚、とりわけ山肌、溶岩などを精緻に表現しています。とはいえ単に写実だけではなく、たとえば遠くにかかる月や煙の様子はどこか幻想的です。洋画を思わせる遠近感覚も興味深いのではないでしょうか。春挙は登山と写真の愛好家でした。山へ出かけては風景を撮影、制作に取り入れていきます。鹿が描かれていることに気がつきました。湖の際です。たったの2頭、水を呑んでいます。しかしながら見落としてしまうほどに小さい。だからこそ山の雄大な姿が際立っても見えます。

美術工芸学校を卒業した華岳は次いで京都市立絵画専門学校へ入学。ここで同期だったのは入江波光に榊原紫峰、そして土田麦僊に小野竹喬らです。また彼らは大正7年に国画創作協会を結成。(波光は翌年に同人となります。)「創作の自由」(キャプションより)を謳っては絵画を制作していきます。


入江波光「志ぐれ」 1937(昭和12)年 山種美術館

波光の「志ぐれ」が魅惑的です。山の竹林が風で揺れています。しぐれ、すなわち時雨でしょうか。ちょうどこの時期に降る通り雨。右方向から墨で雨が落ちる様子が表されています。さも鳥が慌てたのように羽を休めていました。ほぼ墨一色ですが、良く見ると背後の山に淡い色彩が交じっています。情緒的です。雨の匂い、風の音を感じ取れるのではないでしょうか。


村上華岳「驢馬に夏草」 1908(明治41)年 さいたま市立漫画会館

さて華岳です。最初期の「驢馬に夏草」。20歳の時の作品です。文字通り夏草に囲まれた三頭の驢馬、皆穏やかな表情をしています。驢馬の顔面や肉付きの描写も細かい。たらしこみを用いているのでしょうか。ニュアンスに富んだ色彩です。また葉などの立体的な表現にも注目です。一部には西洋画への関心の表れとも言われています。


村上華岳「四季草花之図」 1912(明治45)年 京都国立近代美術館 *前期展示

キャプションがなければ華岳とは分かりませんでした。金地の屏風絵の「四季草花之図」です。これも20代の時に描いた一枚、左に紅葉に松に秋草、右は燕子花でしょうか。小鳥もいます。春夏秋冬の草花を描いたもの。元は京都の徳正寺を飾る襖絵でした。いわば注文を受けての作品です。桃山の障壁画、あるいは琳派や土佐派に倣ったことが見て取れます。


左:村上華岳「裸婦図」 1920(大正9)年 山種美術館
右:村上華岳「裸婦図(下図)」 1920(大正9)年 京都市立芸術大学芸術資料館


「裸婦図」は下図とあわせての公開です。左に本画で右に下図。所蔵館が異なることもあるのか、2点同時に展示されるのは何と16年ぶりのことです。優美でかつ甘美、しかしながらどことなく官能的でもある裸婦の姿。下図と見比べて感じるのは華岳がいかに線に対して細かな意識を払っているかということです。

「東洋の叡智に深い関係を持つ線は一言にしていえば、全という感じを秘めている。」 *村上華岳のことば(キャプションより)


村上華岳「裸婦図」 1920(大正9)年 山種美術館

うっすらと桃色を帯びた身体、右手を胸の前に添えています。着衣は透けていました。髪は黒く艶やか。肩まで垂れ下がっています。やや斜めの構図です。それにしても品のある穏やかな笑み、中性的とも言えるのではないでしょうか。下絵には本画にはない白鳥が描き込まれていました。やはり西洋画の文脈を意識したのかもしれません。「久遠の女性」は「性を超越した中性と称すべきもの」(キャプションより)であるとした華岳。確かにモナリザを連想させる面はあります。


右:村上華岳「椎の木」 1919(大正8)年 山種美術館
左:村上華岳「海潮」 1918(大正7)年 京都国立近代美術館 *前期展示


それにしても華岳、画風を一括りに出来ません。郊外の風景を表した「椎の林」はまるで油絵のようです。しかし「墨牡丹之図」はさも御舟の牡丹図を思わせるほどに瑞々しい。そして「冬之山」。いささか抽象的としたら言い過ぎでしょうか。小刻みに線を置いては山の全景を正面から描いています。


左:村上華岳「冬之山」 1919(昭和4)年 山種美術館

なお華岳の作品は会場のレイアウトの都合上、二カ所に分かれて展示されていました。「裸婦図」は第二会場です。ご注意下さい。


土田麦僊「髪」 1911(明治44)年 京都市立芸術大学芸術資料館 *前期展示
 
ラストでは「京都画壇の女性表現」と題し、主に同時代の画家の描いた女性像を紹介しています。上村松園に菊池契月、そして再び土田麦僊。人気の松園は「蛍」に「夕照」に「夕べ」の3点が出ていました。麦僊の「髪」は立ち振る舞いは美しい。女性が鏡台の前に座って髪を結っています。真横から見ているため顔の表情は伺えません。鏡台の描写も緻密。引き出しが一つだけ出ています。一瞬の様子を描きとめたのでしょう。着衣の描線も流麗です。澱みがありません。

衝撃的な一枚に出合いました。甲斐庄楠音の「春宵」です。何たる奇怪、おどろおどろしい表現なのでしょうか、モデルは遊女、太夫と禿ですが、もはや卑猥なまでの笑みを浮かべた太夫の肉々しい顔面描写しかり、どこか蛍光色を帯びたかのような飾り物の表現など、全てに異様な雰囲気が漂っています。

禿の下の部分が塗り残されていることに気がつきました。いわゆる未完成なのでしょうか。しかしながら一目で脳裏に焼き付くかのような凄まじいビジュアルです。キャプションに「情念」とありましたが、もはや「怨念」を表したかのような気配さえあります。放たれた妖気。打ちのめされました。図版はあえて挙げません。是非、会場で確かめてみて下さい。(*「春宵」の展示は11/23まで。)


右:伊藤小坡「虫売り」 1932(昭和7)年頃 山種美術館
左:上村松園「夕べ」1935(昭和10)年 山種美術館


展示替えの情報です。前後期で約4割の作品が入れ替わります。

「村上華岳ー京都画壇の画家たち」出品リスト(PDF)
前期:10/31(土)~11/23(月・祝)
後期:11/25(水)~12/23(水・祝)

特に華岳は7割ほどが入れ替わります。(「裸婦図」は通期展示。)なお「リピーター割引」として有料の使用済半券を提示すると、2回目は団体割引が適用されます。(一人1枚につき1回のみ有効。)

山種美術館の来年度の展示スケジュールが発表されました。なお同館は来年、開館50周年を迎えるそうです。

「山種美術館 2016年度 開館50周年記念特別展開催のお知らせ」(PDF)

人気の土牛、御舟の回顧展のほか、浮世絵から近代日本画へと至るコレクション名品選シリーズ、そして新設される公募展、「山種美術館日本画アワード2016」などが開催されます。


村上華岳「墨牡丹之図」 1930(昭和5)年 京都国立近代美術館 *前期展示

全74点のうち華岳は19点。単独の回顧展ではありません。よって「村上華岳と京都画壇の画家たち」と捉えても良いかもしれません。ただ少なくとも都内で華岳に関する展覧会が行われることが自体が稀です。周辺の画家を含め、京都からも多く作品がやって来ています。その意味では関東で華岳を知る良い機会だと言えそうです。

12月23日まで開催されています。

「村上華岳ー京都画壇の画家たち」 山種美術館@yamatanemuseum
会期:10月31日(土)~12月23日(水・祝)
 前期:10/31(土)~11/23(月・祝)、後期:11/25(水)~12/23(水・祝)
休館:月曜日。但し11/23は開館、11/24は休館。
時間:10:00~17:00 *入館は16時半まで。
料金:一般1200(1000)円、大・高生900(800)円、中学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *リピーター割引:本展の有料使用済入場券を提出すると、団体割引料金を適用。(一人1枚につき1回のみ有効)
 *きもの・ゆかた割引:きもの・ゆかたで来館すると団体割引料金を適用。
住所:渋谷区広尾3-12-36
交通:JR恵比寿駅西口・東京メトロ日比谷線恵比寿駅2番出口より徒歩約10分。恵比寿駅前より都バス学06番「日赤医療センター前」行きに乗車、「広尾高校前」下車。

注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
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