都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「カリエール展」 東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館
東郷青児記念損保ジャパン日本興亜美術館
「没後110年 カリエール展」
9/10~11/20

東郷青児記念損保ジャパン日本興亜美術館で開催中の「没後110年 カリエール展」へ行ってきました。
今回の展示に協力し、カタログ・レゾネの編集も務める美術史家のヴェロニク・ノラ=ミランは、カリエールのひ孫にあたるそうです。
出品は90点弱。フランスの個人のコレクションが多数を占めています。日本初公開の作品も少なくありません。
1849年、パリ近郊に生まれたカリエール。一時はストラスブールに移るも、画家を志してパリに戻り、アレクサンドル・カバネルのもとで学びます。一時は普仏戦争にも従軍します。その後、1880年頃から、茶褐色、ないしセピア色の画面が支配する自らの様式を確立しました。

ウジェーヌ・カリエール「自画像」 1872年 個人蔵
若き画家を自ら描いた一枚です。「自画像」です。まだ23歳です。目鼻立ちはくっきりしていて凛々しい。淡々と前を見据えています。顔面は白く、まるで大理石像のようです。背後こそ僅かに茶色を帯びていますが、カリエールに独特な靄のような表現は見られません。

ウジェーヌ・カリエール「羊飼いと羊の群れ」 1877~80年頃 新潟市美術館
しかしその5〜8年後に描かれた「羊飼いと羊の群れ」はどうでしょうか。確かに羊と羊飼いの姿はありますが、全体は暗く、また朧げで、判然としません。早くもカリエールの様式の萌芽を見ることが出来ます。羊飼いのモチーフはミレー、夕暮れの光はターナーに影響されているそうです。実際にこの頃、カリエールはロンドンに半年ほど滞在していました。
1878年に妻とゾフィーと結婚。7人の子をもうけます。カリエールは身近な日常を舞台に、妻、そして子の姿を繰り返し描きました。母性はカリエールの画業の一つの大きなテーマでもあります。
チラシの表紙を飾る「手紙」もモデルはカリエールの子です。座って静かに手紙を読むのが長女のエリーズ。9歳です。そばに寄り添いながら、こちらを見やるのが、次女マルグリットだと言われています。5歳です。笑みを浮かべながら、あどけない表情をしています。

ウジェーヌ・カリエール「母性」 1892年頃 個人蔵
美しいのは「母性」でした。一人の母親が幼子を顔にすり寄せています。下方に僅かに腕が見えるものの、闇に捉えられたのは2人の顔と手しかありません。その点では際立っています。口付けの姿は劇的です。母の強い愛を思わせるものがあります。
1890年、カリエールは新しい「サロン・ナショナル」の設立に参画。翌年にはパリで初個展を開きます。この頃から身近な家族だけではなく、著名人の肖像や装飾画の仕事を手がけるようになりました。
カリエールと親しかったのがロダンです。もちろん肖像のモデルも努めます。2人の関係はかつて国立西洋美術館の「ロダンとカリエール」展でも紹介されたことがありました。

ウジェーヌ・カリエール「ポール・ガリマール夫人の肖像」 1889年 個人蔵
茶褐色の靄から時に驚くほど鮮やかに色彩が浮かび上がるのも興味深いところです。「ポール・ガリマール夫人の肖像」はどうでしょうか。背後は茶褐色というよりも、黒が強く、闇が深い。朧げな様はいつものカリエールです。とは言え、ここで何よりも際立つのが、夫人の顔と手、それにドレスでした。輝かしいほどに白い。またドレスにはピンクも混じり合っています。綿あめか雲のように軽やかな白。背後が暗ければ暗いほど、より鮮やかに浮かび上がってきます。
なおモデルの夫は絵画や希少本のコレクターでした。後に妻と息子でフランスを代表する出版社、ガリマール社を設立したことでも知られています。
1900年のパリ万博ではポスターを制作し、その後はサロン・ドートンヌの設立にメンバーに加わります。また市や区からの壁画の発注も受けました。

ウジェーヌ・カリエール「誕生のための習作 No.1」 1903〜05年頃 新潟市美術館
壁画に関しては習作が何点かやって来ています。うち一枚が「誕生のための習作」です。これはパリ12区の庁舎の部屋を飾るためのもの。4連作でしたが、カリエールの死によって未完に終わってしまいます。
1905年に2度目の癌手術を受けた後は、体調が回復せず、声も出なくなってしまったそうです。翌年に57歳で生涯を閉じました。

ウジェーヌ・カリエール「風景、樹木」 1898~1902年頃 個人蔵
小品や習作が多く、件の色調しかり、いささか地味な印象も否めませんが、カリエールの画業を時間軸で追うことが出来ます。そもそもこれほどのカリエール作品を前にしたのは初めてです。あまり見慣れない風景画も目を引きました。
「美術の窓2016年10月号/カリエール特集/生活の友社」
会場内、空いていました。じっくり観覧出来ます。

11月20日まで開催されています。
「没後110年 カリエール展」 東郷青児記念損保ジャパン日本興亜美術館
会期:9月10日(土)~11月20日(日)
休館:月曜日。但し9月19日、10月10日は開館。翌火曜日も開館
時間:10:00~18:00
*入館は閉館の30分前まで。
*毎週金曜日は20時まで開館。
料金:一般1300(1100)円、大学・高校生800(650)円、中学生以下無料。65歳以上1100円。
*( )は20名以上の団体料金。
*10月1日(土)はお客様感謝デーのため無料。
住所:新宿区西新宿1-26-1 損保ジャパン日本興亜本社ビル42階
交通:JR線新宿駅西口、東京メトロ丸ノ内線新宿駅・西新宿駅、都営大江戸線新宿西口駅より徒歩5分。
「没後110年 カリエール展」
9/10~11/20

東郷青児記念損保ジャパン日本興亜美術館で開催中の「没後110年 カリエール展」へ行ってきました。
今回の展示に協力し、カタログ・レゾネの編集も務める美術史家のヴェロニク・ノラ=ミランは、カリエールのひ孫にあたるそうです。
出品は90点弱。フランスの個人のコレクションが多数を占めています。日本初公開の作品も少なくありません。
1849年、パリ近郊に生まれたカリエール。一時はストラスブールに移るも、画家を志してパリに戻り、アレクサンドル・カバネルのもとで学びます。一時は普仏戦争にも従軍します。その後、1880年頃から、茶褐色、ないしセピア色の画面が支配する自らの様式を確立しました。

ウジェーヌ・カリエール「自画像」 1872年 個人蔵
若き画家を自ら描いた一枚です。「自画像」です。まだ23歳です。目鼻立ちはくっきりしていて凛々しい。淡々と前を見据えています。顔面は白く、まるで大理石像のようです。背後こそ僅かに茶色を帯びていますが、カリエールに独特な靄のような表現は見られません。

ウジェーヌ・カリエール「羊飼いと羊の群れ」 1877~80年頃 新潟市美術館
しかしその5〜8年後に描かれた「羊飼いと羊の群れ」はどうでしょうか。確かに羊と羊飼いの姿はありますが、全体は暗く、また朧げで、判然としません。早くもカリエールの様式の萌芽を見ることが出来ます。羊飼いのモチーフはミレー、夕暮れの光はターナーに影響されているそうです。実際にこの頃、カリエールはロンドンに半年ほど滞在していました。
1878年に妻とゾフィーと結婚。7人の子をもうけます。カリエールは身近な日常を舞台に、妻、そして子の姿を繰り返し描きました。母性はカリエールの画業の一つの大きなテーマでもあります。
チラシの表紙を飾る「手紙」もモデルはカリエールの子です。座って静かに手紙を読むのが長女のエリーズ。9歳です。そばに寄り添いながら、こちらを見やるのが、次女マルグリットだと言われています。5歳です。笑みを浮かべながら、あどけない表情をしています。

ウジェーヌ・カリエール「母性」 1892年頃 個人蔵
美しいのは「母性」でした。一人の母親が幼子を顔にすり寄せています。下方に僅かに腕が見えるものの、闇に捉えられたのは2人の顔と手しかありません。その点では際立っています。口付けの姿は劇的です。母の強い愛を思わせるものがあります。
1890年、カリエールは新しい「サロン・ナショナル」の設立に参画。翌年にはパリで初個展を開きます。この頃から身近な家族だけではなく、著名人の肖像や装飾画の仕事を手がけるようになりました。
カリエールと親しかったのがロダンです。もちろん肖像のモデルも努めます。2人の関係はかつて国立西洋美術館の「ロダンとカリエール」展でも紹介されたことがありました。

ウジェーヌ・カリエール「ポール・ガリマール夫人の肖像」 1889年 個人蔵
茶褐色の靄から時に驚くほど鮮やかに色彩が浮かび上がるのも興味深いところです。「ポール・ガリマール夫人の肖像」はどうでしょうか。背後は茶褐色というよりも、黒が強く、闇が深い。朧げな様はいつものカリエールです。とは言え、ここで何よりも際立つのが、夫人の顔と手、それにドレスでした。輝かしいほどに白い。またドレスにはピンクも混じり合っています。綿あめか雲のように軽やかな白。背後が暗ければ暗いほど、より鮮やかに浮かび上がってきます。
なおモデルの夫は絵画や希少本のコレクターでした。後に妻と息子でフランスを代表する出版社、ガリマール社を設立したことでも知られています。
1900年のパリ万博ではポスターを制作し、その後はサロン・ドートンヌの設立にメンバーに加わります。また市や区からの壁画の発注も受けました。

ウジェーヌ・カリエール「誕生のための習作 No.1」 1903〜05年頃 新潟市美術館
壁画に関しては習作が何点かやって来ています。うち一枚が「誕生のための習作」です。これはパリ12区の庁舎の部屋を飾るためのもの。4連作でしたが、カリエールの死によって未完に終わってしまいます。
1905年に2度目の癌手術を受けた後は、体調が回復せず、声も出なくなってしまったそうです。翌年に57歳で生涯を閉じました。

ウジェーヌ・カリエール「風景、樹木」 1898~1902年頃 個人蔵
小品や習作が多く、件の色調しかり、いささか地味な印象も否めませんが、カリエールの画業を時間軸で追うことが出来ます。そもそもこれほどのカリエール作品を前にしたのは初めてです。あまり見慣れない風景画も目を引きました。

会場内、空いていました。じっくり観覧出来ます。

11月20日まで開催されています。
「没後110年 カリエール展」 東郷青児記念損保ジャパン日本興亜美術館
会期:9月10日(土)~11月20日(日)
休館:月曜日。但し9月19日、10月10日は開館。翌火曜日も開館
時間:10:00~18:00
*入館は閉館の30分前まで。
*毎週金曜日は20時まで開館。
料金:一般1300(1100)円、大学・高校生800(650)円、中学生以下無料。65歳以上1100円。
*( )は20名以上の団体料金。
*10月1日(土)はお客様感謝デーのため無料。
住所:新宿区西新宿1-26-1 損保ジャパン日本興亜本社ビル42階
交通:JR線新宿駅西口、東京メトロ丸ノ内線新宿駅・西新宿駅、都営大江戸線新宿西口駅より徒歩5分。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
« 「Digital Pro... | トークイベン... » |
コメント |
コメントはありません。 |
![]() |
コメントを投稿する |
![]() |
ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません |