「ゴー・ビトゥイーンズ展」 森美術館

森美術館
「ゴー・ビトゥイーンズ展:こどもを通して見る世界」
5/31~8/31



森美術館で開催中の「ゴー・ビトゥイーンズ展:こどもを通して見る世界」を見て来ました。

19世紀後半のニューヨークで貧しい移民の暮らしを取材した写真家ジェイコブ・A・リースは、英語が不自由な両親の橋渡しとしてさまざまな用務をこなす移民の子どもたちを「ゴー・ビトゥイーンズ(媒介者)」と呼びました。 *展覧会公式サイト

いわゆる子どもをテーマとした現代美術表現を紹介する展覧会です。出展は国内外26組のアーティスト。ジャンルは絵画にインスタレーションと様々です。写真や映像が目立っていました。

一部撮影が出来ました。会場の様子とあわせて少し追ってみます。

初めに紹介したテキスト「ゴー・ビュイーンズ」、早速、冒頭の展示で引用されます。ジェイコブ・A・リースです。スラム街に住む移民の子どもの姿。ルイス・W・ハインは炭鉱などで働く子どもを捉えています。今も変わらず貧困の問題は誰に一番影を落とすのか。ともにフォトジャーナリストとして社会に訴えかけた写真家でもあります。

第二次大戦中にカリフォルニアにあった日系人収容所を写した宮武東洋の写真も目を引きました。彼は収容所公認のカメラマン、所内での様子を記録しています。大人たちの事情に振り回される子どもたち。しかしながらそれでも逞しく生活している。時には日米両国の大人たちの間を行き来することもあったかもしれません。これも媒介者の一つの形なのでしょうか。

 
金仁淑「SAIESEO:はざまから」シリーズより 2008年 デジタルCプリント 作家蔵

異なるコミュニティでの媒介者としての子どもの立場、金仁淑やジャン・オーの写真作品でも見られるかもしれません。

 
ジャン・オー「パパとわたし」2006年 タイプCプリント 森美術館

金が写すのは在日コリアン社会に暮らし、朝鮮学校に通う子どもたちです。ジャン・オーのテーマは異なる国での養子縁組です。アメリカへ渡って養子縁組を受けた中国人の女の子。父はアメリカ人です。チャイナドレスに身を包んだ娘と一緒に楽しそうにポーズをとる父の姿。ここで新たな生活が切り開かれていくのでしょう。

 
小西淳也「子供の時間」2006年 インクジェット・プリント 作家蔵

一人遊びの経験が懐かしくも甦ります。小西淳也の「子供の時間」シリーズ。言うまでもなく被写体は子ども、自宅でテレビゲームを夢中でしたり、また寝転がったりしている。他人の介入し得ない一人の時間。確かに孤独ではある。それでも不思議と無性に楽しかったことを思い出しました。

 
照屋勇賢「未来達」2014年 ビデオ・インスタレーション 作家蔵

大人たちの作った「境界」の理不尽さを示唆しているかもしれません。照屋勇賢です。舞台は沖縄、基地や練習場の近くのために自由に立ち入り出来ない場所がある。また展示室も同様です。モニターそのものが行く手を阻む境界の如く置かれている。その狭い空間の中に映し出された子どもたちの姿。跨ぐにも跨げない。「立ち入り禁止」が重くのしかかります。

 
山本高之「どんなじごくへいくのかな、東京」2014年 ビデオ・インスタレーション 作家蔵

子どもたちが地獄を作り上げました。山本高之の「どんなじごくへいくのかな」です。子どもに地獄のアイデアを募っては、それをスタッフともに立体物に制作するというワークショップ。鬼のような生き物が勇ましく立つ一方で、可愛らしい人形の姿も見られる。また作品に赤が多いのは地獄、血のイメージに近いからなのでしょうか。正面のモニターでは子どもたちが思い思いに地獄を語っていました。

テリーサ・ハバード/アレクサンダー・ビルヒラーの「エイト」、これは惹き付けます。3分ほどの映像。庭でのホームパーティでしょうか。大きなロウソクの立ったケーキに一人の少女がナイフを入れる。周囲には色とりどりのバルーン。そしてお皿には食べ残しのごちそうも見える。二、三のある出来事を除けば、一見、普通の誕生日の様子が描かれているようにも見ます。

しかしながらその出来事、もはや全てを台無しにしてしまうほどに特異なのです。では何か。雨です。しかも凄まじい土砂降り。ずぶ濡れです。そしてもう一点、少女の他に誰もいません。ただ一人、屋内と屋外を行き来しては水浸しのケーキにナイフを入れる女の子。現実と夢の狭間を彷徨ってもいるのでしょうか。そして不思議と戸外の出来事の方が現実のようにも映る。仲間から外れた時の疎外感。何とも惨めで辛い。程度の差はあれ、誰しもが経験したことかもしれません。

塩田千春が興味深いプロジェクトを展開しています。「どうやってこの世にやってきたの?」です。何台かのモニターによる映像作品。映っているのは子ども。三歳以下だそうです。何かを一生懸命に語っています。

それが面白い。と言うのも、子どもたちに生まれる前の胎内の様子の記憶を訪ねているのです。「ピンクの絨毯があったよ。」とにこやかに話こもいれば、滑り台で遊んだ経験を話す子もいる。いずれもさも見て、まさに覚えているような臨場感です。安易に戯言だと片付けられません。

 
リネカ・ダイクストラ「女の人が泣いています」2009年 ビデオ・インスタレーション 作家蔵

ラストのリネカ・ダイクストラの「女の人が泣いています(泣く女)」も秀逸です。スクリーン上で何やら意見をする小学生たち。何を語っているのか。女性について議論しているようにも見える。あえてここではネタバレを避けます。それにしても意見を通して垣間見える類い稀な発想力と感性。子どもは驚くほど鋭敏な感覚で世界を見据えているのかもしれない。振り返って我々大人はどうなのか。必ずしも相対化して捉えるべきものではないかもしれませんが、考えさせられる面は多分にありました。

 
サンテリ・トゥオリ「赤いTシャツ」2003年 作家蔵

本展は巡回展です。東京展終了後、以下のスケジュールで巡回します。

名古屋市美術館:2014年11月8日(土)~12月23日(火)
沖縄県立博物館・美術館:2015年1月16日(金)~3月15日(日)
高知県立美術館:2015年4月5日(日)~6月7日(日)

社会的、政治的メッセージを持ちえた作品も少なくありません。腰を据えて構えたい展示です。


「えほんのとしょかん」(協力:株式会社偕成社、福音館書店)

8月31日まで開催されています。

「ゴー・ビトゥイーンズ展:こどもを通して見る世界」 森美術館@mori_art_museum
会期:5月31日(土)~8月31日(日)
休館:会期中無休。
時間:10:00~22:00 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1500円、大学・高校生1000円、中学生以下(4歳まで)500円。
 *入館料で展望台「東京シティビュー」にも入場可。
場所:港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー53階
交通:東京メトロ日比谷線六本木駅より地下コンコースにて直結。都営大江戸線六本木駅より徒歩10分。都営地下鉄大江戸線麻布十番駅より徒歩10分。

注)掲載写真はいずれも「クリエイティブ・コモンズ表示・非営利 - 改変禁止 2.1 日本」ライセンスでライセンスされています。
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