「キャプテン・クック探検航海とバンクス花譜集展」 Bunkamura ザ・ミュージアム

Bunkamura ザ・ミュージアム
「キャプテン・クック探検航海と『バンクス花譜集』展」
2014/12/23-2015/3/1



Bunkamura ザ・ミュージアムで開催中の「キャプテン・クック探検航海と『バンクス花譜集』展」を見てきました。

「英国自然科学界の巨人」(展覧会サイトより)ことジョゼフ・バンクス(1743-1820)。1768年からのキャプテン・クックによる太平洋航海に同行します。科学班のリーダーとしてオーストラリアや南太平洋の島々で様々な植物を採集し、後に「バンクス花譜集」と呼ばれる植物画集を残しました。

ちらし表紙の「バンクシア・セラータ」からして精緻極まりない描写が目を引くもの。特に葉脈の立体感、細かなテクスチャーは目を見張ります。出品は花譜集より選ばれた120点です。南の島の草花を描いた植物画がBunkamuraのスペースを美しく彩っていました。

ところで私自身、実は展覧会を見る前は花譜集のみの展示、それがひたすらに並んでいるのだろうと思い込んでいました。


「腰布(更紗)」 インドネシア共和国、ジャワ 国立民族学博物館

大きな誤解でした。何も花譜集だけではありません。ここにはクックやバンクスらが探検航海で辿ったストーリーがあります。さらには彼らの滞在したポリネシア諸島やオーストラリアの先住民族についての資料もあるのです。

いきなり世界地図こと「万国全図」がお目見えします。そして「船上ベル」や「携帯用地球儀」、「星図」と並ぶ。いずれも航海用の用具です。クック船長一行が乗り込んだのはエンデヴァー号。模型も展示されています。乗組員は90名でした。表向きの目的はタヒチ島での金星観測(太陽面通過)だったそうです。結果的に航海は3年にも及びました。

イギリスのプリマスを出て南米を経由、ホーン岬を経由して最初に到達したのはソサエティ・アイランズ。いわゆるタヒチ島を中心とした太平洋上の群島です。


「テスペシア・ポプルネア 『バンクス花譜集』より(ソサエティ・アイランズ)」 Bunkamuraザ・ミュージアム

そこで採取された植物画です。一例は「ガルデニア・タイテンシス」、ゴーギャンの絵画にも描かれた植物です。ちなみに花譜集の原画のスケッチを行ったのは画家のシドニー・パーキンソン。もちろん花譜集の刊行に尽力したのはバンクス自身ですが、そもそもパーキンソンが草花をスケッチしなくては生まれなかったものでもあります。船長クックとバンクス、そして画家パーキンソン。この3名が展覧会の主人公と言えるかもしれません。

注目すべきは民族資料です。ポリネシアの神像やカヌーの模型、また先住民の使用していた籠や釣り針、それに腰布などがずらり。貝製の美しい首飾りも目を引きます。

花譜集と資料を見比べられるのもポイントです。例えばタヒチで戦いのシンボルとされていた「カスアリーナ・エクィセティフォリア」、その硬い木材は武器やこん棒として利用されていたそうですが、会場には元の植物画とこん棒が並んで展示されています。


「クリアントゥス・プニケウス 『バンクス花譜集』(ニュージーランド)」 Bunkamuraザ・ミュージアム
 
タヒチの次に向かったのは、ニュージーランド、そしてオーストラリアでした。ニュージーランドではクックが初めて詳細な地図を作成。そしてオーストラリアでは東海岸を初めて「発見」したヨーロッパ人となります。


「デプランケア・テトラピュラ」 『バンクス花譜集』より(オーストラリア)」Bunkamuraザ・ミュージアム

パーキンソンはニュージーランドで200点もの植物画を描きます。うち180点が花譜集に採用されました。ちなみに花譜集は全部で743点。その半分がオーストラリアで描いた植物画だそうです。

それにしても登場する植物、様々な謂れがあるのも興味深いところです。例えばニュージーランドの「ブラキュグロッテッス・レパンダ」、これは薬用植物として葉をトイレットペーパーとして用いたとか。また後に滞在するジャワの「サルコロブス・グロボースス」はデング熱の治療に利用されました。草花は単に愛でられるだけでなく、採取されては、人々の生活の道具としても用いられます。


「樹皮画」 オーストラリア、アボリジニ 野外民族博物館リトルワールド

マオリ、アボリジニの民族資料も面白いもの。特に細かな線刻が美しいマオリのオールをはじめ、アボリジニの「樹皮画」が印象に残りました。パーキンソン自身もマオリの装身具に魅了されたそうです。

さて3年にも及ぶ航海。皆が全て帰還出来たわけではありません。何とパーキンソンもこの後のジャワで亡くなります。というのも当時のバタヴィアの衛生状況は劣悪で、乗組員に赤痢やマラリアが流行。30名以上もの死者を出します。そこでパーキンソンも命を落としてしまうのです。


「クレロデンドルム・パニクラートゥム 『バンクス花譜集』より(ジャワ)」 Bunkamuraザ・ミュージアム

よって花譜集におさめられた最後の植物画はジャワで描かれたものでした。一方でバンクスはクックとともに無事帰国。直ぐさま花譜集の出版を計画しますが、資金の欠乏などにより挫折。結果的に生前に花譜集が発行されることはありませんでした。

花譜集が発行されたのは最近、何と1980年代になってからのことです。大英博物館に残されていた銅版を元に100部限定で出版。クックの太平洋探検航海から約250年、ようやく「バンクス花譜集」が完成しました。


「戦闘用カヌー(模型)」ニュージーランド、マオリ 国立民族学博物館

なお資料に関しては大阪の国立民俗学博物館からも多く作品がやって来ています。植物好きの方はもちろん、民族学に関心のある方にも楽しめるのではないでしょうか。


「ミュージアムカフェマガジン」2月号 特集「さあ、植物旅行に出かけよう」

ミュージアムカフェマガジン2月号の特集がバンクス花譜集でした。かの荒俣宏さんが花譜集の魅力はもちろん、バンクスやパーキンソンらの探検について熱く語っています。こちらも要チェックです。

思いがけないほど面白い展示でした。3月1日までの開催です。おすすめします。

「キャプテン・クック探検航海と『バンクス花譜集』展」 Bunkamura ザ・ミュージアム
会期:2014年12月23日(火・祝)~2015年3月1日(日)
休館:1月1日(木・祝)、1月26日(月)。
時間:10:00~19:00。毎週金・土は21:00まで開館。入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1300(1100)円、大学・高校生900(700)円、中学・小学生600(400)円。
 *( )内は20名以上の団体料金。
住所:渋谷区道玄坂2-24-1
交通:JR線渋谷駅ハチ公口より徒歩7分。東急東横線・東京メトロ銀座線・京王井の頭線渋谷駅より徒歩7分。東急田園都市線・東京メトロ半蔵門線・東京メトロ副都心線渋谷駅3a出口より徒歩5分。
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