「国吉康雄展」 そごう美術館

そごう美術館
「国吉康雄展」 
6/3~7/10



そごう美術館で開催中の「国吉康雄展」を見てきました。

岡山で生まれ、10代にして渡米。2度の世界大戦をアメリカで経験した画家、国吉康雄。首都圏では2012年の横須賀美術館以来の回顧展かもしれません。

初めの展示室のみ撮影が可能でした。


「少女よ、お前の命のために走れ」 1946年 福武コレクション

冒頭、ぽつんとに掲げられた一枚が目を引きます。「少女よ、お前の命のために走れ」です。制作したのは終戦1年後の1946年。全くをもって不思議な作品です。少女は巨大なバッタに追っかけられています。後ろ手をあげてさも慌てたように駈け出していました。このバッタ、一体何物なのでしょうか。

この少女が展示の案内役でした。というのも、少女とともに国吉の半生を辿っているのです。かなり物語性の高い展示です。まるで国吉の人生を追体験しているかのようでした。


「制作中のミスターエース」/「イーゼル」/「回転椅子」 福武コレクション

アトリエを模した再現展示がありました。イーゼルや回転椅子はもちろん国吉自身が使ったものです。さらにスケッチやミニ画集なども並んでいます。遺物から在りし日の国吉の姿も浮かび上がってきます。


「逆さのテーブルとマスク」制作中の国吉康雄

絵画制作中の国吉を捉えた写真も興味深い。アトリエはマンションの一室にあったのでしょうか。キャンバスを前に絵筆を持ってポーズをとる国吉の姿が写し出されていました。

16歳で渡米した国吉はまずシアトルで生活を送ります。当初は掃除夫やホテルのボーイ、さらには果樹園の収穫員などで生計を立てていたそうです。後、ロサンゼルスへ移り、画才を見出されます。辿り着いたのはニューヨークです。5つの画学校を渡りながら絵を学びました。

最初期、1919年の「ピクニック」はセザンヌ風です。かの「水浴」を思わせます。さらに「果物のある静物」も面白い。白いクッションに果実、そして花瓶の花などが描かれています。タッチはやや印象派風です。実際にも当初やルノワールやセザンヌに影響されていたそうです。

1922年に画廊で個展デビュー。「エキゾチックな魅力」(キャプションより)として注目を集めます。「幸福な島」はどうでしょうか。横たわる裸婦。仰向けで目を閉じています。周囲は暗い。島というよりも巨大な貝殻の中で眠っているかのようです。一瞬、シャガールが思い浮かびました。また国吉は牛を描く画家としても人気がありました。牛モチーフは4点。リトグラフが出ています。デフォルメしたかのような表現が印象的でした。

エコール・ド・パリの時期にはパリに滞在したこともありました。導いたのはパスキン。既にニューヨーク時代から親交があったそうです。「踊り」はカフェに集う踊り子でしょうか。かの時代のパリの熱気を表しています。

1930年頃には一定の評価を得ていたそうです。ニューヨーク近代美術館でのグループ展にも参加。雑誌ではホッパーと並び全米トップ10の画家として紹介されたこともありました。1931年、父の見舞いのために一時帰国するも、再びアメリカへと舞い戻ります。母校の美術学校の教授などを務めていたそうです。

静物画に特化したセクションがありました。中でも「西瓜」が個性的です。木のテーブルの上の西瓜。白いクロスが半分めくれています。西瓜は2きれ。ちょうど割った直後かもしれません。黒ずんでいるのは種の部分なのでしょう。やや熟れすぎている感もあります。瑞々しいというよりも生々しい。まるで動物の肉体のようでした。

国吉は女性を描く際、一度デッサンをした後、半年ほど放置し、モデルの印象を忘れてから、再び仕上げることがあったそうです。「休んでいるサーカスの女」は健康的で美しい。大きな椅子に肘をついては女性が深く腰掛けています。右手にはタバコ。一服しているのでしょう。赤いタイツと群青のタンクトップの色彩も目に付きます。

太平洋戦争がはじまると国吉は戦時情報局の指示によりポスターを制作します。いわゆる戦争画です。「殺人者」では日本の兵隊が女性に危害を加えようとする様子を描いています。また「敵を殲滅せよ」も勇ましい。モデルは何故か甲冑に身を包んだ武将です。旗じるしは鬼大将。そこに「DESTROY THIS NENACE」の標語があります。ただし本ポスターには採用されなかったそうです。いわゆる敵性外国人としての扱いを受けながらも、対日戦争のプロパガンダに協力して過ごした国吉。心中はいかなるものだったのでしょうか。


「安眠を妨げる夢」 1948年 福武コレクション

戦後は非政治的な美術家団体の組織に参加します。画風も初期の頃とは変化しました。例えば「安眠を妨げる夢」です。おそらくはサーカスの一場面。背景に見えるのはテントでしょうか。二人の軽業師がちょうど空中で手を取り合おうとしています。しかしながら危うい。右の女性はバランスを崩しているようにも見えます。色は明るく、透明感がありました。タイトルに夢と記されていますが、確かに幻を前にしているようでもあります。


「鯉のぼり」 1950年 福武コレクション

より明度が高いのは「鯉のぼり」です。ともかく大きな鯉のぼり。二人の人物が手にしては掲げようとしています。赤、朱色、ないしオレンジにイエロー。初期作の薄暗く、厚塗りで、なおかつ土色を帯びた色調とは一変していました。

今回の目玉といえるのが「クラウン」です。なんと日本初公開。テーマは道化師です。強制収容された日本人のためのチャリティーとして描きました。


「クラウン」 1948年 福武コレクション

縦は2メートル。大きな作品です。道化の顔のアップ。化粧ゆえか顔色はほぼ白。薄いピンクも混じります。鼻の部分が緑に塗られています。一方で口元は黒い。赤い帽子とは対比的です。目を垂らしながら笑っています。

長らく行方不明だったそうです。公開に際しては修復も実施。このプロセスが実に細かく紹介されています。作業の映像はもちろん、実際に使われたヘラから補彩用の絵具、鏡なども展示されていました。


「二人の赤ん坊」 1923年 福武コレクション

作品資料は全200点。油彩は50点です。一部に展示替えがあります。多くは国吉画の収集で知られる福武コレクションでした。


「制作中」 福武コレクション

国吉の画業を顕彰し、世に広める国吉康雄プロジェクトが深く関わっているようです。「もの思う女」では広島市立大学による模写も合わせて展示。先の修復しかり、最新の国吉研究を反映させながら、教育活用の現場までにも触れています。いわば引き出しの多い展覧会でした。



7月10日まで開催されています。

「国吉康雄展」 そごう美術館
会期:6月3日(金)~7月10日(日)
休館:会期中無休。
時間:10:00~20:00 *入館は閉館の30分前まで。
料金:大人1000(800)円、大学・高校生800(600)円、中学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
住所:横浜市西区高島2-18-1 そごう横浜店6階
交通:JR線横浜駅東口よりポルタ地下街通路にて徒歩5分。
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