「ギメ東洋美術館所蔵 浮世絵名品展」 太田記念美術館

太田記念美術館渋谷区神宮前1-10-10
「ギメ東洋美術館所蔵 浮世絵名品展」
1/3-2/25



会期初日に行ってきました。世界屈指の浮世絵コレクションを誇る、フランス国立ギメ美術館の所蔵品を紹介する展覧会です。中でも、何と100年ぶりに初めて対幅で展示されたという、北斎の「龍図」と「虎図」の共演が目立っていました。



虎が鋭い目つきでハッキリと龍を見据えているのに対して、龍は我関せずとでも言ったように何くわぬ顔で泰然と構えています。地面へグサリと突き刺さるように伸びた爪が凶暴な虎の逞しさを伝え、漆黒の闇より不気味に浮かび上がる様子が龍の神性を思わせていました。ただし両作品とも、北斎にしては随分と造形に堅さがあるような印象も受けます。龍を象るメタリックな感覚と、平面的でありながらも首を大きく曲げた虎の描写が独特です。また、カーテンが靡くように流れる雨の表現と、龍を取り囲む黒煙のような雲も興味深い表現でした。一世紀ぶりのご対面ということで、それぞれが力を誇示するかのように対峙しているというよりも、やや控えめに見合っているように思えるのも面白いところです。



北斎では「千絵の海 総州銚子」が優れています。例の大浪を思わせる荒々しい海の描かれた作品ですが、海岸を襲うその波からは、ザザーッという水の音が聞こえてくるような感覚さえ受けました。上からも下からも押し寄せる波が山の稜線を描くように合わり、そこからはまるで珊瑚のような泡が湧き上がっています。ダイナミックでありながらも、精緻に計算された構図の妙が冴える作品です。

北尾重政の「野葡萄を食べる兎」には驚きました。擬人化されたような兎が、目を赤らませて、卑しそうに野葡萄をがぶりついています。これほどおどろどろしい、化け物姿の兎もあまりありません。この不気味さには、北斎の「百物語/お岩さん」も真っ青です。



一番感銘を受けたのは、河鍋暁斎の「釈迦如来図」でした。真っ赤な衣を無造作に纏う釈迦が、足を無造作に組んで堂々と座っています。この釈迦はキリストに見立てられた姿とのことですが、私には例えば野武士のような逞しさと、浮世を器用に渡り行く俗っぽさ(決して悪い意味ではありません。)を感じました。有難い作品に大変失礼ではありますが、これでは聖人というよりもまるで剣豪かギャングのボスです。精緻に描かれた肉体もまた見応えがありました。(ちなみに、この作品は何と暁斎本人がエミール・ギメに贈ったものだそうです。)

展示替えが計4回も予定されています。(一度に展示される作品は、全180点のうち70点程度に過ぎません。)2/25日までの開催です。(1/3鑑賞)

*会期
前期 1/3-1/14 1/16-1/26
後期 2/1-2/12 2/14-2/25
全期間展示(北斎「龍図」/「虎図」/「猿回し図」/「海老図扇面」、広重「隅田川月景」、暁斎「釈迦如来図」、その他版本数冊。)

展示替えリスト(pdfファイル)
100円割引券(NHKプロモーション)
コメント ( 12 ) | Trackback ( 0 )
« 「特別公開 ... ネトレプコの... »
 
コメント
 
 
 
早い (KAN)
2007-01-09 07:09:19
細かく展示換えがあるんですね。知りませんでした。
 
 
 
Unknown (グリシーヌ)
2007-01-09 09:32:44
暁斎の「釈迦如来図」の色はPCでみると、
メタリックブルーのようにみえます
実際はどんな色なんだろう~~~
北斎なんか不思議・・・
 
 
 
Unknown (一村雨)
2007-01-09 18:56:54
暁斎の釈迦如来像。お釈迦さまをこんなに眼光鋭く
描いて、いいのだろうかと思いました。
悟りを開いたというより、威圧的な表情ですよね。
明王か、十二神将のようです。
でも、迫力があって、インパクト大ですね。
 
 
 
新年のご挨拶を (菊花)
2007-01-09 20:54:40
ちょっと遅くなりましたが、
明けましておめでとうございます
本年もよろしくお願いいたします

さて、私も初日にギメを見に行きました。
「龍図」と「虎図」は、予想以上に愛らしい!という印象を受けました。目つきが可愛らしいうえに、虎の長い首が、とっても気になります。龍を待っているのかなー、と(笑)
今回の大収穫は暁斎の「釈迦如来図」でした。これぞ暁斎!のギョロリとした迫力の釈迦に、煩悩を引きむしられた気分でした。
 
 
 
Unknown (はろるど)
2007-01-09 21:52:41
@KANさん

こんばんは。先日はありがとうございました。

>細かく展示換えがあるんですね。知りませんでした。

そのようです。
前後期で一回、そしてそれぞれの会期中に一回ずつ予定されています。
ただ通し券はありませんので、
全部拝見するとなると、
エントリにもリンクした割引券を使っても3600円ほどかかります…。


@グリシーヌさん

こんばんは。

>メタリックブルー

すみません。アップした画像はかなり色が違うかと思います。
ただ作品自体は素晴らしいものです。
個人的には北斎よりも感銘を受けました。
是非どうぞ!

@一村雨さん

こんばんは。

>お釈迦さまをこんなに眼光鋭く

そうですね。
タイトルがなければ釈迦とは分からなかったかもしれません。
最後の最後で強烈な作品が待ち構えていました。
これがナンバー1ですね。


@菊花さん

あけましておめでとうございます。
新年のご挨拶をありがとうございました。

>私も初日にギメを見に行きました。

何と!気がつかないうちにご一緒していたかもしれません。

>虎の長い首が、とっても気になります。

長いですよね。もう待ちくたびれてしまったのかもしれませんが…。

>大収穫は暁斎の「釈迦如来図」

同感です。
状態の素晴らしい写楽なども良かったのですが、
肉筆の迫力もあって印象に強く残りました。
通期で展示されているのが有難いですね。
 
 
 
トータル3600円 (KAN)
2007-01-09 22:28:09
こちらこそ先日はありがとうございました。
トータル3600円!
宴会1回分に迫る出費になってしまうではありませんか(笑)
 
 
 
ギメの浮世絵の細切れ展示 (とら)
2007-01-10 20:49:22
 肉筆画で良いのは北斎の竜虎と蝦、暁斎の釈迦だけで、あとは版画なので今までどこかでお目にかかったものも多かったのですが、時代順に並んでいたので見やすかったと思いました。
折角なので、ホームページではちょっと整理してみました。
http://cardiacsurgery.hp.infoseek.co.jp/JA071.htm#070105
これからの展示予定を見ると後期第1期はマスト、後期第2期は歌麿フアンならば・・・、前期第2期はパスという感じですが、いずれにせよこのような細切れ展示は困ったものです。
 
 
 
Unknown (はろるど)
2007-01-11 01:02:31
@KANさん

再度ありがとうございます。

>3600円!
宴会1回分に迫る出費になってしまうではありませんか(笑)

そうなのです!
ちょっとこれは高いですよね。
巡回先の大阪展でもこうなるのかが気になります。
会期を4回も分けるなどそうありません…。


@とらさん

こんばんは。コメントとTBをありがとうございました。

>展示予定を見ると後期第1期はマスト、後期第2期は歌麿フアンならば・・・、前期第2期はパスという感じですが、いずれにせよこのような細切れ展示は困ったものです。

私も狙いを定めて、出来ればもう一度くらいは行ければいいかなと思っています。
美術館自体が狭いので仕方ないのでしょうが、
もう少しまとめて拝見出来ると良いですよね。

のちほど記事をじっくり拝見させていただきます!
 
 
 
あけましておめでとうございます (mashenka)
2007-01-14 23:40:57
今年もよろしくお願いします。

私は先週、見に行きました。(NHKの取材が来てましたよ~どきどき)
こういう"新発見!"という言葉にはわくわくしますね!
龍虎図以外にもたくさんの興味深い浮世絵があり、とてもよかったです。
これらがみんなパリにあるなんて不思議な感じです。


 
 
 
Unknown (はろるど)
2007-01-15 01:45:20
mashenkaさんこんばんは。
新年のご挨拶をどうもありがとうございます。
こちらこそ本年も宜しくお願いします。

>NHKの取材が来てましたよ~どきどき)

やはり日曜美術館でしょうか。
とするとさらに混雑に拍車がかかりそうですね…。

>こういう"新発見!

楽しいですよね。
100年ぶりの発見に立ち会えただけでも嬉しいです。
それに仰る通り北斎以外も充実しておりました。
 
 
 
行ってきました。 (あべまつ)
2007-01-23 11:36:38
先週、やっと行ってきました。
いつもの太田がとても混雑していて、にぎわっていました。
でも、画面じゃ解らない、自分のめで見ることの楽しさが感じられて、とても良かったと思いました。
暁斎は、なにか、異様な力、感じますね。
幕末、明治のパワーも侮れないと思ったのでした。
 
 
 
Unknown (はろるど)
2007-01-23 22:10:23
あべまつさんこんばんは。
コメントとTBをありがとうございます。

>いつもの太田がとても混雑していて、にぎわって

いつもは空いているのですが…。
初めて出向いたのですが、とても混雑していて驚きました。

>暁斎は、なにか、異様な力、感じますね。

そうですね。
数年前に東京ステーションギャラリーで圧倒された、
暁斎展を思い出します。
あの時も何か異様で不気味なエネルギーを感じたものでした。
 
コメントを投稿する
ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。