都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「こども展」 森アーツセンターギャラリー
森アーツセンターギャラリー
「こども展 名画にみるこどもと画家の絆」
4/19-6/29
森アーツセンターギャラリーで開催中の「こども展 名画にみるこどもと画家の絆」を見て来ました。
主に子どもの描かれた西洋近代絵画を紹介する絵画展。出品は90点。ほぼフランス国内のコレクションです。先立ってパリのオランジュリー美術館で開催された「モデルとなった子どもたち展」を日本向けにアレンジした展覧会でもあります。
出品作家が約50名と多いのもポイントです。そしてルソーやルノワールにモネ、セザンヌ、マティスらといった「巨匠」の他に、あまり日本では知られていない画家が多いのも興味深いところかもしれません。(出品リスト)
さて行くのが遅れに遅れてしまいました。既に会期末を迎えています。
ウジェーヌ・カリエール「病気の子ども」1885年 オルセー美術館
© RMN-Grand Palais(musee d'Orsay)/
Herve Lewandowski / distributed by AMF-DNPartcom
まずはカリエールの「病気の子ども」(1885)です。例のカリエールの霧とも呼ばれる褐色のモノクロームに覆われた室内風景。横は2メートル50センチほど。画家最大級の作品でしょうか。母に抱かれた一人の子ども。目は虚ろで疲れた様子をしている。言うまでもなく病んでいるのでしょう。他二人の子どもたちが取り囲む。カップを持って立つ少女は水を持って来たのかもしれません。介抱する家族。ペットの犬までがどこか心配そうにしています。
チラシ表紙を飾るのはルソーの「人形を抱く子ども」(1904~1905)。画家では珍しい単独で子どもを描いた肖像画です。
アンリ・ルソー「人形を抱く子ども」1904-05年頃 オランジュリー美術館
© RMN-Grand Palais(musee de l'Orangerie)/ Franck Raux / distributed by AMF-DNPartcom
先に画像を前にした時は何やら表情のない子どものようにも見えました。しかし実際に絵を見ると違う。極めて複雑です。少し不安な面持ちでもあり、またどこか泣き出しそうでもある。手に持つ人形までもが寂しげにも映ります。ひょっとして何かに怯えているのかもしれません。
アンリ・ジュール・ジャン・ジョフロワ「教室にて、子どもたちの学習」1889年 パリ、フランス国民教育省
© RMN-Grand Palais / Jean-Gilles Berizzi / distributed by AMF-DNPartcom
ジョフロアの「教室にて、子どもたちの学習」(1889)が秀逸です。教室での一コマ。今でいう小学生の授業でしょうか。長いテーブルの前に所狭しと座る子どもたち。ノートを開いてはペンでメモをとっている。とはいえ皆が何も真面目なわけでもない。集中力が切れたのかペンを触ったり、肘を立てては退屈そうにしている子もいる。それにしてもまさに今、見て来たかのような臨場感です。何でも画家のジュフロアは若い頃に小学校に住み込んでいた経験があるそうです。
ちなみにジュフロアという画家、知っている方がどれほどおられるでしょうか。実は本展、最初にも触れたように、日本ではあまりスポットの当たらない画家も多い。そこにも見るべき点がかなりありました。
その一例と言えるかもしれません。クロード=マリー・デュビュッフです。ダヴィットの弟子としてキャリアを築き、後には肖像画のジャンルで人気を博した画家です。
クロード=マリー・デュビュッフ「デュビュッフ一家、1820年」1820年 ルーヴル美術館
© RMN-Grand Palais(musee du Louvre)/ Gerard Blot / distributed by AMF-DNPartcom
「デッビュッフ一家。1820年」(1820)です。7人の集団肖像画、中央が画家夫妻。手前で黒い帽子を被っているのが子のエドワールです。肌の質感や髪の色合い、そして衣服の装飾までもが真に迫る。そもそもデッビュッフ一族は代々画家を輩出してきた家柄だとか。何と本展のフランスでの企画者であるエマニュエル・ブレオン氏も一族の末裔だそうです。驚きました。
エルネスト・ルーアールの「書斎のジュリー」(1920)はどうでしょうか。カーテン越しに差し込む淡い光に包まれた室内。一人の女性が肘をつき、頭を支えながら、やや疲れた様子でペンを走らせている。雰囲気のある佳作ではありますが、一体子どもの姿はどこにと思う方もおられるやもしれません。
実はジュリーこそがかのマネの弟、ウージェーヌの子のこと。母はモリゾです。そしてルーアールはジュリーの夫。画家アンリ・ルーアールの子でもあります。
ベルト・モリゾ「庭のウジェーヌ・マネとその娘」1883年 個人蔵
© Christian Baraja, studio SLB
そして会場にはこのジュリーをモデルにした絵画が本作を含めて3点出品されています。一つが母モリゾの描いた「庭のウージューヌ・マネとその娘」(1883)、もう一枚がルノアールの描いた「ジュリー・マネの肖像、あるいは猫を抱くこども」(1887)です。そして前者は5歳、後者は8歳の時のジュリーがモデル。ではルーアールの描いたジュリーは何歳の頃なのか。結論からすると40歳の姿です。
ピエール=オーギュスト・ルノワール「ジュリー・マネの肖像、あるいは猫を抱く子ども」1887年 オルセー美術館
© RMN-Grand Palais(musee d'Orsay)/
Herve Lewandowski / distributed by AMF-DNPartcom
複数の画家の眼差しを通して見たジュリー・マネの成長記録。これぞアルバムとも言えるのではないでしょうか。「モデルの年齢」という普段はあまり気を留めないような切り口での展示。感心しました。
ちなみに本展、サブタイトルに「画家の絆」とあるように、ジュリーだけでなく、画家の子どもを描いた作品が多く出品されています。うち9人の子の親でもあったドニでは、長女、四女、次男、三男を描いた4点が揃う。うち次男を描いた「リザール号に乗ったドミニック」(1921)が目を引きます。小麦色の肌を露にして船に乗る男の子。白いマストとの対比も鮮やかである。いかにも健康的な姿。水夫の格好も板について見えます。
モーリス・ドニ「トランペットを吹くアコ」1919年 個人蔵
© Archives du catalogue raisonne MD; Photo Olivier Goulet
三男をモデルにした「トランペットを吹くアコ」(1919)も注目の一枚です。大きなトランペットはおもちゃでしょうか。簡素な造りをしています。また草花を配した衣服の模様が実に装飾的。まさしくドニの作風を思わせます。本作は日本初公開です。そして振り返れば出展作の3分の2が日本初公開でもあります。
最後に一点、グザヴィエ・ピラトの「ヌマとボール」(1986)に触れないわけにはいきません。幼い子どもが部屋の床で裸で寝そべっている。遊んでいるのでしょう。前には赤いボール。表情こそ伺えませんが、おそらくはこれから手を伸ばして掴もうとするに違いありません。
画家のピラトはピカソの甥、ハビエ・ピラトの長男。キュビズムの影響下にあったのでしょうか。室内における色の三分割はもはや幾何学的でもある。子どもを象る黒い輪郭線も独特。さらに画面は極めて平面的です。また部屋にかかる一枚の額には絵が掛けられている。うねる樹木。レジェの作品を思わせるものがあります。
他にはイランに生まれパリで絵を学んだダヴード・エンダディアンも。レンピッカにパスキン、そしてラストは藤田で終わります。ずばり「子ども展」というダイレクトなタイトル、大きな括りですが、一口に子どもの絵画と言っても当然ながら内実は多様。好企画です。思いの外に発見の多い展覧会でした。
オーギュスタン・ルーアール「眠るジャン=マリー、あるいは眠る子ども第1番」1946年 個人蔵
最後に会期末限定のキャンペーン情報です。会期末日まで開館、及び夕方入館時に限り、先着でポスターやポストカードがプレゼントされます。
[モーニングプレゼント]
*配布日時:6月14日(土)~29日(日) 各日10時~
*各日先着50名、なくなり次第配布終了
*プレゼント内容:展覧会ポスター(非売品)
*配布方法:52階会場入口にて、ご入場時に「プレゼント引換券」を1名様につき1枚配布。
[トワイライトプレゼント]
*配布日時:6月14日(土)~29日(日) *17日(火)を除く 各日17時~
*各日先着30名様、なくなり次第配布終了
*プレゼント内容:特製クリップボードorオリジナルポストカード
残り一週間を切ったこともあってか、館内もさすがに盛況でした。但し行列などはありません。比較的スムーズに観覧出来るのではないでしょうか。
6月29日まで開催されています。なお東京展終了後、大阪(大阪市立美術館:7/19~10/13)へと巡回します。
「こども展 名画にみるこどもと画家の絆」(@kodomo2014) 森アーツセンターギャラリー
会期:4月19日(土)~6月29日(日)
休館:会期中無休
時間:10:00~20:00(4/29、5/6を除く火曜日は17時まで)入館は閉館時間の30分前まで。
料金:一般1500(1300)円、大学生1200(1000)円、高校・中学生800(600)円。小学生以下無料。
*( )内は15名以上の団体料金
住所:港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー52階
交通:東京メトロ日比谷線六本木駅1C出口徒歩5分(コンコースにて直結)。都営地下鉄大江戸線六本木駅3出口徒歩7分。
「こども展 名画にみるこどもと画家の絆」
4/19-6/29
森アーツセンターギャラリーで開催中の「こども展 名画にみるこどもと画家の絆」を見て来ました。
主に子どもの描かれた西洋近代絵画を紹介する絵画展。出品は90点。ほぼフランス国内のコレクションです。先立ってパリのオランジュリー美術館で開催された「モデルとなった子どもたち展」を日本向けにアレンジした展覧会でもあります。
出品作家が約50名と多いのもポイントです。そしてルソーやルノワールにモネ、セザンヌ、マティスらといった「巨匠」の他に、あまり日本では知られていない画家が多いのも興味深いところかもしれません。(出品リスト)
さて行くのが遅れに遅れてしまいました。既に会期末を迎えています。
ウジェーヌ・カリエール「病気の子ども」1885年 オルセー美術館
© RMN-Grand Palais(musee d'Orsay)/
Herve Lewandowski / distributed by AMF-DNPartcom
まずはカリエールの「病気の子ども」(1885)です。例のカリエールの霧とも呼ばれる褐色のモノクロームに覆われた室内風景。横は2メートル50センチほど。画家最大級の作品でしょうか。母に抱かれた一人の子ども。目は虚ろで疲れた様子をしている。言うまでもなく病んでいるのでしょう。他二人の子どもたちが取り囲む。カップを持って立つ少女は水を持って来たのかもしれません。介抱する家族。ペットの犬までがどこか心配そうにしています。
チラシ表紙を飾るのはルソーの「人形を抱く子ども」(1904~1905)。画家では珍しい単独で子どもを描いた肖像画です。
アンリ・ルソー「人形を抱く子ども」1904-05年頃 オランジュリー美術館
© RMN-Grand Palais(musee de l'Orangerie)/ Franck Raux / distributed by AMF-DNPartcom
先に画像を前にした時は何やら表情のない子どものようにも見えました。しかし実際に絵を見ると違う。極めて複雑です。少し不安な面持ちでもあり、またどこか泣き出しそうでもある。手に持つ人形までもが寂しげにも映ります。ひょっとして何かに怯えているのかもしれません。
アンリ・ジュール・ジャン・ジョフロワ「教室にて、子どもたちの学習」1889年 パリ、フランス国民教育省
© RMN-Grand Palais / Jean-Gilles Berizzi / distributed by AMF-DNPartcom
ジョフロアの「教室にて、子どもたちの学習」(1889)が秀逸です。教室での一コマ。今でいう小学生の授業でしょうか。長いテーブルの前に所狭しと座る子どもたち。ノートを開いてはペンでメモをとっている。とはいえ皆が何も真面目なわけでもない。集中力が切れたのかペンを触ったり、肘を立てては退屈そうにしている子もいる。それにしてもまさに今、見て来たかのような臨場感です。何でも画家のジュフロアは若い頃に小学校に住み込んでいた経験があるそうです。
ちなみにジュフロアという画家、知っている方がどれほどおられるでしょうか。実は本展、最初にも触れたように、日本ではあまりスポットの当たらない画家も多い。そこにも見るべき点がかなりありました。
その一例と言えるかもしれません。クロード=マリー・デュビュッフです。ダヴィットの弟子としてキャリアを築き、後には肖像画のジャンルで人気を博した画家です。
クロード=マリー・デュビュッフ「デュビュッフ一家、1820年」1820年 ルーヴル美術館
© RMN-Grand Palais(musee du Louvre)/ Gerard Blot / distributed by AMF-DNPartcom
「デッビュッフ一家。1820年」(1820)です。7人の集団肖像画、中央が画家夫妻。手前で黒い帽子を被っているのが子のエドワールです。肌の質感や髪の色合い、そして衣服の装飾までもが真に迫る。そもそもデッビュッフ一族は代々画家を輩出してきた家柄だとか。何と本展のフランスでの企画者であるエマニュエル・ブレオン氏も一族の末裔だそうです。驚きました。
エルネスト・ルーアールの「書斎のジュリー」(1920)はどうでしょうか。カーテン越しに差し込む淡い光に包まれた室内。一人の女性が肘をつき、頭を支えながら、やや疲れた様子でペンを走らせている。雰囲気のある佳作ではありますが、一体子どもの姿はどこにと思う方もおられるやもしれません。
実はジュリーこそがかのマネの弟、ウージェーヌの子のこと。母はモリゾです。そしてルーアールはジュリーの夫。画家アンリ・ルーアールの子でもあります。
ベルト・モリゾ「庭のウジェーヌ・マネとその娘」1883年 個人蔵
© Christian Baraja, studio SLB
そして会場にはこのジュリーをモデルにした絵画が本作を含めて3点出品されています。一つが母モリゾの描いた「庭のウージューヌ・マネとその娘」(1883)、もう一枚がルノアールの描いた「ジュリー・マネの肖像、あるいは猫を抱くこども」(1887)です。そして前者は5歳、後者は8歳の時のジュリーがモデル。ではルーアールの描いたジュリーは何歳の頃なのか。結論からすると40歳の姿です。
ピエール=オーギュスト・ルノワール「ジュリー・マネの肖像、あるいは猫を抱く子ども」1887年 オルセー美術館
© RMN-Grand Palais(musee d'Orsay)/
Herve Lewandowski / distributed by AMF-DNPartcom
複数の画家の眼差しを通して見たジュリー・マネの成長記録。これぞアルバムとも言えるのではないでしょうか。「モデルの年齢」という普段はあまり気を留めないような切り口での展示。感心しました。
ちなみに本展、サブタイトルに「画家の絆」とあるように、ジュリーだけでなく、画家の子どもを描いた作品が多く出品されています。うち9人の子の親でもあったドニでは、長女、四女、次男、三男を描いた4点が揃う。うち次男を描いた「リザール号に乗ったドミニック」(1921)が目を引きます。小麦色の肌を露にして船に乗る男の子。白いマストとの対比も鮮やかである。いかにも健康的な姿。水夫の格好も板について見えます。
モーリス・ドニ「トランペットを吹くアコ」1919年 個人蔵
© Archives du catalogue raisonne MD; Photo Olivier Goulet
三男をモデルにした「トランペットを吹くアコ」(1919)も注目の一枚です。大きなトランペットはおもちゃでしょうか。簡素な造りをしています。また草花を配した衣服の模様が実に装飾的。まさしくドニの作風を思わせます。本作は日本初公開です。そして振り返れば出展作の3分の2が日本初公開でもあります。
最後に一点、グザヴィエ・ピラトの「ヌマとボール」(1986)に触れないわけにはいきません。幼い子どもが部屋の床で裸で寝そべっている。遊んでいるのでしょう。前には赤いボール。表情こそ伺えませんが、おそらくはこれから手を伸ばして掴もうとするに違いありません。
画家のピラトはピカソの甥、ハビエ・ピラトの長男。キュビズムの影響下にあったのでしょうか。室内における色の三分割はもはや幾何学的でもある。子どもを象る黒い輪郭線も独特。さらに画面は極めて平面的です。また部屋にかかる一枚の額には絵が掛けられている。うねる樹木。レジェの作品を思わせるものがあります。
他にはイランに生まれパリで絵を学んだダヴード・エンダディアンも。レンピッカにパスキン、そしてラストは藤田で終わります。ずばり「子ども展」というダイレクトなタイトル、大きな括りですが、一口に子どもの絵画と言っても当然ながら内実は多様。好企画です。思いの外に発見の多い展覧会でした。
オーギュスタン・ルーアール「眠るジャン=マリー、あるいは眠る子ども第1番」1946年 個人蔵
最後に会期末限定のキャンペーン情報です。会期末日まで開館、及び夕方入館時に限り、先着でポスターやポストカードがプレゼントされます。
[モーニングプレゼント]
*配布日時:6月14日(土)~29日(日) 各日10時~
*各日先着50名、なくなり次第配布終了
*プレゼント内容:展覧会ポスター(非売品)
*配布方法:52階会場入口にて、ご入場時に「プレゼント引換券」を1名様につき1枚配布。
[トワイライトプレゼント]
*配布日時:6月14日(土)~29日(日) *17日(火)を除く 各日17時~
*各日先着30名様、なくなり次第配布終了
*プレゼント内容:特製クリップボードorオリジナルポストカード
残り一週間を切ったこともあってか、館内もさすがに盛況でした。但し行列などはありません。比較的スムーズに観覧出来るのではないでしょうか。
6月29日まで開催されています。なお東京展終了後、大阪(大阪市立美術館:7/19~10/13)へと巡回します。
「こども展 名画にみるこどもと画家の絆」(@kodomo2014) 森アーツセンターギャラリー
会期:4月19日(土)~6月29日(日)
休館:会期中無休
時間:10:00~20:00(4/29、5/6を除く火曜日は17時まで)入館は閉館時間の30分前まで。
料金:一般1500(1300)円、大学生1200(1000)円、高校・中学生800(600)円。小学生以下無料。
*( )内は15名以上の団体料金
住所:港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー52階
交通:東京メトロ日比谷線六本木駅1C出口徒歩5分(コンコースにて直結)。都営地下鉄大江戸線六本木駅3出口徒歩7分。
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