都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「101年目のロバート・キャパ」 東京都写真美術館
東京都写真美術館
「101年目のロバート・キャパ 誰もがボブに憧れた」
3/22-5/11
東京都写真美術館で開催中の「101年目のロバート・キャパ 誰もがボブに憧れた」のプレスプレビューに参加してきました。
いわゆる「戦争写真家」として知られ、「ボブ」の愛称でも親しまれたロバート・キャパ。5つの戦争を渡り歩き、戦渦に生きる人間を次々とカメラに収めていく。と同時にキャパは戦場以外でも終始人を見つめていた。そもそもキャパの風景写真はほぼ皆無。常に人が写っています。
右:「ロバート・キャパ 1951年」 ルース・オーキン撮影 ゼラチン・シルバー・プリント 1981年
そうしたキャパの人への眼差しを紹介する企画と言っても良いかもしれません。今年生誕101年目を迎えたキャパの展覧会が始まりました。
さて出品の殆どは東京富士美術館の所蔵作品。何でも同館は国内有数のキャパ・コレクションで知られるそうです。また一部ビンテージ・プリント、日本初公開の作品も含みます。なお展示は5つのテーマ別での構成です。時系列ではありません。
下段:「パリの解放を祝う人々、パリ、フランス 1944年8月26日」 ゼラチン・シルバー・プリント 1991年
さてキャパを捉えたポートレートから始まる展示。まず見入るのは「戦禍」のセクションです。ノルマンディー上陸作戦やスペイン内戦時の「崩れ落ちる兵士」など、代表作とも言うべき作品が登場する。興味深いのは「パリの解放を祝う人々、パリ、フランス」です。ヨーロッパにおける二次大戦の終結、ドイツ軍撤退直後に沸くパリの群衆を捉えた作品。街路はおろか、建物の2階、3階にも黒山の人だかり。歓声を上げていたのでしょう。それがさもキャパのカメラを向いてポーズをとるかのように写っています。
中央:「Dデイ 作戦日に上陸するアメリカ軍先陣部隊、オハマ海岸、ノルマンディー、フランス 1944年6月6日」 ゼラチン・シルバー・プリント 1991年
ノルマンディー上陸作戦においてはアメリカ軍の第一陣とともに行動したキャパ。決死の覚悟で数本のフィルムを撮ったものの、後の現像作業に失敗しネガは破損。結果的に11枚の作品しか残りませんでした。水面に頭を出す兵士。画面はブレている。なおブレは撮影時ではなく、現像の失敗によって生じたという説もあるそうです。
上段:「シャルトル、フランス 1944年8月18日」 ゼラチン・シルバー・プリント 1991年
また戦後、ドイツ軍への協力者として扱われた女性たちを写した写真はどうでしょうか。彼女らは占領下においてドイツ兵と時に関係を持ち、また子どもを産んだ。それが後に非難され、市民によって私刑、ようは罰を受けさせられます。頭を丸めている。それをキャパは住民たちと等しく捉えた。彼女たちへの同情心があったのかもしれません。
常に人を見続けたキャパ。戦時においても何も劇的でかつ悲惨な光景ばかりを写したわけではありません。兵士や市民たちの戦時下のつかの間の休息。そうした部分にも目を向けています。
右:「共和国側の市民軍女性兵士、バルセロナ、スペイン 1936年8月」 ゼラチン・シルバー・プリント 1991年
ファッション誌を読む女性兵士にジープに腰掛けて編み物をする兵士。はたまたトランプに興じる兵士などが写される。またキャパ自身もポーカを得意としていました。
右:「キャパとスタインベック、モスクワ、ロシア 1947年8~9月」 ゼラチン・シルバー・プリント 1991年
等身大のキャパを友人や恋人の存在を通して知る。スペイン戦争以来の付き合いとなったヘミングウェイ、またピカソにスタインベックらとの交流。「キャパとスタインベック、モスクワ、ロシア」では鏡に写り込むキャパ自身の姿も見える。そしてキャパの名付け親でもあり恋人でもあったゲルダ・タローです。
中央:「ゲルダ・タロー、パリ、フランス 1936年頃」ゼラチン・シルバー・プリント 2014年
ベットで寝るタローを写した「ゲルダ・タロー フランス、パリ」は日本初公開。2007年にメキシコでネガが見つかった写真だそうです。
ロバート・キャパのビンテージ・プリント
ビンテージは全部で4点です。いずれもがキャパが1938~39年頃にスペインの戦場で撮影し、その直後にプリントした写真。当時のニュースの配信原稿として使用されたものです。
またここでは裏面にも注目。現像時のスタンプに手書きのキャプション、寸法なども記されている。さらに目を引くのがキャパのカメラです。何と彼が最後に使っていたもの。時は1954年5月25日。かのインドシナ戦争の取材です。フランス軍に同行し、北ベトナムで地雷を踏んで亡くなったキャパが、まさにその瞬間まで手にしていたカメラです。
「ロバート・キャパ愛用の最後のカメラ(ニコンS)」
レンズには泥が付着。そして隣のポフィルムにはキャパがファインダー越しで最後に見た景色が記録されている。このカメラが東京で公開されるのは1998年以来、16年ぶりのこととか。ちなみにキャパは亡くなった1954年、ベトナムへ向かう前に来日。3週間ほど滞在し、東京や関西などの地を訪れては撮影しました。
右:「焼津、日本 1954年4月」 ゼラチン・シルバー・プリント 1991年
会場でも4点ほど日本で撮影した作品を展示。さらには同年に金原眞八が静岡駅を訪れたキャパを写した写真も出品されています。裏面にはキャパ直筆のサイン。死亡を伝える新聞記事も貼られている。亡くなる約一ヶ月前。言うまでもなく最後のポートレートでもあります。
その他には30代後半のキャパの肉声を収めた音声ガイドも見どころならぬ聴きどころ。ラジオ番組に出演した彼が「崩れ落ちる兵士」について語っている。スタインベックとの旅行についても言及があります。これは2013年にNYの国際写真センターで見つかったものだそうです。
「101年目のロバート・キャパ」展会場風景
キャパと言えば一昨年に横浜美術館で「ロバート・キャパ/ゲルダ・タロー 二人の写真家」展がありました。その際は文字通りタローとの関係を深く掘り下げていましたが、今回のキャパの人間像を着目しながら業績全般を俯瞰していく。より取っ付き易く、また間口の広い展覧会という印象を受けました。
5月11日まで開催されています。*東京展終了後、九州芸文館(8/2~9/15)へと巡回。
「101年目のロバート・キャパ 誰もがボブに憧れた」 東京都写真美術館
会期:3月22日 (土) ~ 5月11日 (日)
休館:毎週月曜日。但し4/28、5/5は開館。5/7(水)は休館。
時間:10:00~18:00 *毎週木・金曜日は20時まで。(入館は閉館の30分前まで。)
料金:一般1100円(880円)、学生900円(720円)、中高生・65歳以上700円(500円)
*( )内は20名以上の団体料金。
*第3水曜日は65歳以上無料。
住所:目黒区三田1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内
交通:JR線恵比寿駅東口改札より徒歩8分。東京メトロ日比谷線恵比寿駅より徒歩10分。
注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
「101年目のロバート・キャパ 誰もがボブに憧れた」
3/22-5/11
東京都写真美術館で開催中の「101年目のロバート・キャパ 誰もがボブに憧れた」のプレスプレビューに参加してきました。
いわゆる「戦争写真家」として知られ、「ボブ」の愛称でも親しまれたロバート・キャパ。5つの戦争を渡り歩き、戦渦に生きる人間を次々とカメラに収めていく。と同時にキャパは戦場以外でも終始人を見つめていた。そもそもキャパの風景写真はほぼ皆無。常に人が写っています。
右:「ロバート・キャパ 1951年」 ルース・オーキン撮影 ゼラチン・シルバー・プリント 1981年
そうしたキャパの人への眼差しを紹介する企画と言っても良いかもしれません。今年生誕101年目を迎えたキャパの展覧会が始まりました。
さて出品の殆どは東京富士美術館の所蔵作品。何でも同館は国内有数のキャパ・コレクションで知られるそうです。また一部ビンテージ・プリント、日本初公開の作品も含みます。なお展示は5つのテーマ別での構成です。時系列ではありません。
下段:「パリの解放を祝う人々、パリ、フランス 1944年8月26日」 ゼラチン・シルバー・プリント 1991年
さてキャパを捉えたポートレートから始まる展示。まず見入るのは「戦禍」のセクションです。ノルマンディー上陸作戦やスペイン内戦時の「崩れ落ちる兵士」など、代表作とも言うべき作品が登場する。興味深いのは「パリの解放を祝う人々、パリ、フランス」です。ヨーロッパにおける二次大戦の終結、ドイツ軍撤退直後に沸くパリの群衆を捉えた作品。街路はおろか、建物の2階、3階にも黒山の人だかり。歓声を上げていたのでしょう。それがさもキャパのカメラを向いてポーズをとるかのように写っています。
中央:「Dデイ 作戦日に上陸するアメリカ軍先陣部隊、オハマ海岸、ノルマンディー、フランス 1944年6月6日」 ゼラチン・シルバー・プリント 1991年
ノルマンディー上陸作戦においてはアメリカ軍の第一陣とともに行動したキャパ。決死の覚悟で数本のフィルムを撮ったものの、後の現像作業に失敗しネガは破損。結果的に11枚の作品しか残りませんでした。水面に頭を出す兵士。画面はブレている。なおブレは撮影時ではなく、現像の失敗によって生じたという説もあるそうです。
上段:「シャルトル、フランス 1944年8月18日」 ゼラチン・シルバー・プリント 1991年
また戦後、ドイツ軍への協力者として扱われた女性たちを写した写真はどうでしょうか。彼女らは占領下においてドイツ兵と時に関係を持ち、また子どもを産んだ。それが後に非難され、市民によって私刑、ようは罰を受けさせられます。頭を丸めている。それをキャパは住民たちと等しく捉えた。彼女たちへの同情心があったのかもしれません。
常に人を見続けたキャパ。戦時においても何も劇的でかつ悲惨な光景ばかりを写したわけではありません。兵士や市民たちの戦時下のつかの間の休息。そうした部分にも目を向けています。
右:「共和国側の市民軍女性兵士、バルセロナ、スペイン 1936年8月」 ゼラチン・シルバー・プリント 1991年
ファッション誌を読む女性兵士にジープに腰掛けて編み物をする兵士。はたまたトランプに興じる兵士などが写される。またキャパ自身もポーカを得意としていました。
右:「キャパとスタインベック、モスクワ、ロシア 1947年8~9月」 ゼラチン・シルバー・プリント 1991年
等身大のキャパを友人や恋人の存在を通して知る。スペイン戦争以来の付き合いとなったヘミングウェイ、またピカソにスタインベックらとの交流。「キャパとスタインベック、モスクワ、ロシア」では鏡に写り込むキャパ自身の姿も見える。そしてキャパの名付け親でもあり恋人でもあったゲルダ・タローです。
中央:「ゲルダ・タロー、パリ、フランス 1936年頃」ゼラチン・シルバー・プリント 2014年
ベットで寝るタローを写した「ゲルダ・タロー フランス、パリ」は日本初公開。2007年にメキシコでネガが見つかった写真だそうです。
ロバート・キャパのビンテージ・プリント
ビンテージは全部で4点です。いずれもがキャパが1938~39年頃にスペインの戦場で撮影し、その直後にプリントした写真。当時のニュースの配信原稿として使用されたものです。
またここでは裏面にも注目。現像時のスタンプに手書きのキャプション、寸法なども記されている。さらに目を引くのがキャパのカメラです。何と彼が最後に使っていたもの。時は1954年5月25日。かのインドシナ戦争の取材です。フランス軍に同行し、北ベトナムで地雷を踏んで亡くなったキャパが、まさにその瞬間まで手にしていたカメラです。
「ロバート・キャパ愛用の最後のカメラ(ニコンS)」
レンズには泥が付着。そして隣のポフィルムにはキャパがファインダー越しで最後に見た景色が記録されている。このカメラが東京で公開されるのは1998年以来、16年ぶりのこととか。ちなみにキャパは亡くなった1954年、ベトナムへ向かう前に来日。3週間ほど滞在し、東京や関西などの地を訪れては撮影しました。
右:「焼津、日本 1954年4月」 ゼラチン・シルバー・プリント 1991年
会場でも4点ほど日本で撮影した作品を展示。さらには同年に金原眞八が静岡駅を訪れたキャパを写した写真も出品されています。裏面にはキャパ直筆のサイン。死亡を伝える新聞記事も貼られている。亡くなる約一ヶ月前。言うまでもなく最後のポートレートでもあります。
その他には30代後半のキャパの肉声を収めた音声ガイドも見どころならぬ聴きどころ。ラジオ番組に出演した彼が「崩れ落ちる兵士」について語っている。スタインベックとの旅行についても言及があります。これは2013年にNYの国際写真センターで見つかったものだそうです。
「101年目のロバート・キャパ」展会場風景
キャパと言えば一昨年に横浜美術館で「ロバート・キャパ/ゲルダ・タロー 二人の写真家」展がありました。その際は文字通りタローとの関係を深く掘り下げていましたが、今回のキャパの人間像を着目しながら業績全般を俯瞰していく。より取っ付き易く、また間口の広い展覧会という印象を受けました。
5月11日まで開催されています。*東京展終了後、九州芸文館(8/2~9/15)へと巡回。
「101年目のロバート・キャパ 誰もがボブに憧れた」 東京都写真美術館
会期:3月22日 (土) ~ 5月11日 (日)
休館:毎週月曜日。但し4/28、5/5は開館。5/7(水)は休館。
時間:10:00~18:00 *毎週木・金曜日は20時まで。(入館は閉館の30分前まで。)
料金:一般1100円(880円)、学生900円(720円)、中高生・65歳以上700円(500円)
*( )内は20名以上の団体料金。
*第3水曜日は65歳以上無料。
住所:目黒区三田1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内
交通:JR線恵比寿駅東口改札より徒歩8分。東京メトロ日比谷線恵比寿駅より徒歩10分。
注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
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