「山口小夜子  未来を着る人」 東京都現代美術館

東京都現代美術館
「山口小夜子  未来を着る人」 
4/11-6/28



東京都現代美術館で開催中の「山口小夜子  未来を着る人」を見てきました。

「1970年代初頭より、アジア人初のトップ・モデル」(展覧会サイトより)として活躍した山口小夜子(1949~2007)。2007年に急逝されてから、早8年も経ちます。

山口小夜子の多方面に渡る活動を紹介する展覧会です。雑誌、写真、各種資料のほか、映像やインスタレーションにファッションなど多数。現美の広いスペースが山口の艶やかなる世界で埋め尽くされています。

導入が巧みでした。遺品です。その名も「小夜子のブレイン・ルーム」。子どもの頃の愛用品でしょうか。人形やら雑誌にパスポートまであります。またあわせて初期のフォトセッションも展示。山口がパリ・コレクションにデビューしたのは1972年のことです。そして2年後にはアメリカの「ニューズウィーク」にも名が挙げられます。さらに資生堂の写真広告です。撮影はかの横須賀功光。たばこを加えてはポーズを構える山口の姿を捉えています。


「資生堂 舞」ポスター 撮影:横須賀功光 AD:中村誠 1978年

こうした資生堂との仕事が重要です。1973年から専属のモデルとして契約。まずは「花椿」です。黒髪でおかっぱ頭、ある意味では日本人的とも言えないでしょうか。先の横須賀と組んだのはアートディレクターの中村誠です。彼は小夜子に「日本の美」(解説シートより)を見出し、それを体現した広告を次々と打ち出しました。


「資生堂 ベネフィーク 雑誌広告のためのオリジナルプリント」 撮影:横須賀功光 1974年

また資生堂の海外広告を担ったフランス人のセルジュ・ルタンスとのコラボも紹介されていました。ずばり日の丸のモチーフです。熱気を帯びた赤も山口に映えます。

さてトップ・モデルとして活躍した山口、何も活動はファッションの分野に留まったわけではありません。

クリエーターです。実のところ山口はかなり早い段階から舞台や映画女優の仕事もしていました。その後には舞踏、ダンス、さらには舞台や人形のデザイン、演出なども手がけています。

舞踏の仕事は山海塾です。またコンテンポラリーダンスの勅使川原三郎、及びKARASとも恊働。舞台はオペラです。リヨンでの「三人姉妹」や「リア王の悲劇」の衣裳デザインを担当します。


結城座公演「ペレアスとメリザンド」 舞台写真 1992年

江戸糸あやつり人形の結城座にも参加しました。「ペリアスとメリザンド」では人形たちに混じり、自らをメリザンドとして演じます。また源氏物語を引用した「夢の浮橋」でも作品を発表。山口は日本古来の天児に倣い、素材に紙を選んで人形をデザインしました。

それらが会場では臨場感のある形で紹介されています。まずあやつり人形は実際に上から吊るされる仕掛け。また「小夜子のアトリエ」と題されたスペースもありました。室内は木製の可愛らしい椅子と机。何でも彼女の遺品だそうです。また「三人姉妹」の衣裳演出に使われたデッサンなども目を引きます。ちなみに彼女は元々、服飾学校に学んでいたそうです。よって自分で着る服を手作りするなどしていました。

さてここまでが展示の前半です。後半では山口にインスピレーションを受けた現代のアーティストらが登場します。ジャンルは山口の活動を踏まえたかのように幅広い。映像作家に演出家、そしてアートユニットや芸術家です。具体的には生西康典に掛川康典、宇川直宏、エキソニモ、森村泰昌、山川冬樹らが山口に作品を半ば捧げています。

森村が山口になりきっていました。演じるのは資生堂の中のポスター。これがいつもながらにハマっています。何でも森村自身は山口と新聞で往復書簡を交わすことになっていたものの、山口の死によって中断。それを完成すべく取りかかったプロジェクトの新作なのだそうです。

エキソニモのアプローチは独特です。何と山口をポスターから消してしまいます。そうすることで彼女の存在がむしろ際立っているというもの。コンセプトは「平行世界」です。山口の存在とは何ぞやということを改めて問い直しています。



アトリウムが圧巻でした。写真では収まりきれないスケールです。ずらりと見るもきらびやかな衣裳が並びます。手がけたのは演出家の生西康典と映像作家の掛川康典。衣裳デザインはもちろん山口小夜子です。



衣裳の一部は「リア王の悲劇」に用いられたもの。マネキンは小夜子ボディです。さらにメーキャップは山口と仕事を共にした富川栄が担当。そこに生西と掛川が映像を付ける。さらに音楽や小夜子自身の朗読も加わります。まるで山口をMOTに呼び寄せるかの如くに壮大な舞台装置でした。



なおエキソニモ以降の展示は撮影が可能です。カメラをお忘れなきようにご注意ください。



山口小夜子の幅広い活動を紹介しつつ、一方では今に生きるアーティストが彼女に捧げるインスタレーションを提示します。同時代の流れを追うとともに、現代から山口の世界観を作り上げていく流れ。効果的な二部構成です。山口を直接的に知らない世代にも大いに訴えかけるものがあります。

実のところ私自身も名前程度しか山口のことを知りませんでしたが、見終えた後は、彼女の魅力に大いに引かれたことに気づきました。

「山口小夜子 未来を着る人/河出書房新社」

6月28日までの開催です。まずはおすすめします。

「山口小夜子  未来を着る人」 東京都現代美術館@MOT_art_museum
会期:4月11日(土)~6月28日(日)
休館:月曜日。但し5/4は開館。5/7は休館。
時間:10:00~18:00。*入場は閉場の30分前まで。
料金:一般1200(960)円 、大学生・65歳以上900(720)円、中高生600(480)円、小学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *本展チケットで「MOTコレクション」も観覧可。同時開催の「他人の時間」とのセット券あり。
住所:江東区三好4-1-1
交通:東京メトロ半蔵門線清澄白河駅B2出口より徒歩9分、都営地下鉄大江戸線清澄白河駅A3出口より徒歩13分。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
« 「速水御舟と... 「野球と鉄道... »
 
コメント
 
コメントはありません。
コメントを投稿する
ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。