「原安三郎コレクション 小原古邨展」 茅ヶ崎市美術館

茅ヶ崎市美術館
「開館20周年記念-版の美Ⅱ-原安三郎コレクション 小原古邨展-花と鳥のエデン-」
9/9~11/4



茅ヶ崎市美術館で開催中の「開館20周年記念-版の美Ⅱ-原安三郎コレクション 小原古邨展-花と鳥のエデン-」を見てきました。

1877年(明治10年)に金沢に生まれた小原古邨は、海外への輸出を踏まえた版下絵を描き、花鳥風月を表した木版花鳥画を制作しては、特に海外で人気を博しました。

その小原古邨の木版画が茅ヶ崎に大集結しました。総出展数はゆうに230点(前後期で全点入れ替え)にも及び、その全てが実業家で、広重や北斎などのコレクターとしても知られた原安三郎のコレクションでした。なお原の浮世絵コレクションは、2016年に全国を巡回した「原安三郎コレクション 広重ビビッド」でも一部が公開されました。いずれも状態が良い作品ばかりで、鮮やかな色彩は、まだ記憶に新しい方も多いかもしれません。


小原古邨「桜に烏」 明治後期

まさに春夏秋冬、春から展示がはじまりました。「桜に烏」は、おそらく夜の闇の中、桜の枝にとまって羽根を休める烏を表した作品で、写真では分かりにくいものの、墨の濃淡を用い、羽根の質感を細かに再現していました。


小原古邨「枝垂れ桜に燕」(部分) 明治後期

華やかなのが、「枝垂れ桜に燕」で、まだ蕾の目立つ枝垂れの枝に、2羽の燕がとまっていました。そして燕が人懐っこく見えるのも興味深いところで、まるで笑うようにこちらを見ていました。


小原古邨「芥子に金糸雀」(部分) 明治後期

夏では「芥子に金糸雀」が風雅ではないでしょうか。瑞々しい紫の色の芥子に黄色のカナリアがとまっていて、芥子の花の蕊や、葉脈、それに茎のとげなどもリアルに描いていました。またカナリアは鳴いているのか、嘴を開いていました。こうした植物における写実性も、古邨の魅力と言えるかもしれません。


小原古邨「百合に黒揚羽」(部分) 明治後期

「百合に黒揚羽」も魅惑的な一枚で、うっすらと黄色を帯びた百合に、黒い揚羽蝶が蜜を吸いにやって来ていました。やはり百合の花には透明感があり、木版というよりも、まるで絵画を前にしたような質感も感じられました。


小原古邨「燕と蜂」 明治後期

構図に動きを伴うのも、古邨の特徴であるかもしれません。一例が「燕と蜂」で、一匹の蜂を、二羽の燕がほぼ垂直に飛来して仕留めようとする姿を描いています。この数秒後に、蜂は捕らえられてしまうのかもしれません。一瞬の出来事を画面に表現していました。


小原古邨「雨中の桐に雀」(部分) 明治後期

秋の「雨中の桐に雀」に惹かれました。黒い線で示された雨の中、桐に雀が3羽とまっていて、いずれも丸っこく、まるでぬいぐるみのように可愛らしく見えました。古邨は確かに「西洋画風の写実性」(解説より)を伴っていますが、必ずしも写実一辺倒ではありませんでした。


小原古邨「大鷹と温め鳥」(部分) 明治後期

冬では何と言っても「大鷹と温め鳥」が忘れられません。雪を抱いた木の上に一羽の鷹がいて、その羽の合間にもう一羽の小さな鳥がいました。これは鷹などの猛禽類が小鳥を捕え、寒い一晩を足で温めるという「温め鳥」を表していて、鷹匠などに伝わる伝承でもあるそうです。微笑ましい姿を見せていました。


小原古邨「枝垂れ桜に雉」(部分) 明治後期

ともかく古邨の描く鳥や動物は、どれも愛おしく、時に懐っこいものばかりでした。また花の中の毛虫を啄もうとする鳥や、水面越しにうっすらと映る鳥など、場面、言い換えれば構図にも工夫がありました。


小原古邨「崖上の鹿」(部分) 明治後期

原安三郎の古邨コレクションが一括して紹介されることはもとより、そもそもこれほどのスケールで古邨画が公開されたこと自体、初めてだそうです。お気に入りの一枚を見つけるのには、さほど時間もかかりませんでした。


小原古邨「撫子に鷭(ばん)」(部分) 明治後期

展示替えの情報です。はじめにも触れましたが、前後期で作品は全て入れ替わりました。

「原安三郎コレクション 小原古邨展-花と鳥のエデン-」 
前期:9月9日(日)~10月8日(月・祝)
後期:10月11日(木)~11月4日(日)

10月11日より後期展示に入りました。なお前期のチケットを提示すると、後期の観覧料が200円引きになります。(本エントリは、全て前期展示の出展作品について書いています。)


小原古邨「鳴子に雀」(部分) 明治後期

10月7日には、NHKEテレの「日曜美術館」でも特集が放送されました。翌週の14日には再放送も予定されています。

Eテレ日曜美術館「生き物のいのちを描く~知られざる絵師 小原古邨~」
放送日:10月7日(日)午前9時00分~午前9時45分
再放送:10月14日(日)午後8時00分~午後8時45分
http://www4.nhk.or.jp/nichibi/


小原古邨「桜吹雪に子猿」(部分) 明治後期

国内ではあまり知られて来なかった古邨ですが、今回の展覧会を切っ掛けに、再評価の機運も高まるかもしれません。私にとってもまた一人、心惹かれる版画家に出会いました。



会場の茅ヶ崎市美術館は、JR線の茅ヶ崎駅南口より歩いて7~8分ほどの「高砂緑地」の内に位置します。松林が生い茂る独特な景観をなしていて、この緑地こそ、かつて原安三郎の別荘地でもありました。


古邨のニュアンスに富んだ色調は写真では収まりませんが、全ての作品の撮影も出来ました。(スマホのシャッター音、フラッシュ、長時間の撮影は不可。)

「小さな命のきらめく瞬間 小原古邨の小宇宙/青月社」

11月4日まで開催されています。おすすめします。*写真はいずれも中外産業株式会社蔵(原安三郎コレクション)

「開館20周年記念-版の美Ⅱ-原安三郎コレクション 小原古邨展-花と鳥のエデン-」 茅ヶ崎市美術館@chigasakimuseum
会期:2018年9月9日(日) ~11月4日(日)
 *前期:9月9日(日)~10月8日(月・祝)後期:10月11日(木)~11月4日(日)
 *前期・後期で全点入れ替え
休館:月曜日(ただし9月10日、17日、24日、10月8日は開館)、9月18日(火)、25日(火)、10月9日(火)、10日(水)は休館。
時間:10:00~18:00 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般700(600)円、大学生500(400)円。
 *高校生以下、市内在住65歳以上は無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
住所:神奈川県茅ヶ崎市東海岸北1-4-45
交通:JR線茅ヶ崎駅南口より徒歩約8分。
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