都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
二期会ニューウェーブオペラ劇場 「ジュリアス・シーザー」 10/15
二期会ニューウェーブオペラ劇場
ヘンデル「ジュリアス・シーザー」(エジプトのジュリオ・チェザーレ)
指揮 鈴木雅明
演出 平尾力哉
管弦楽 バッハ・コレギウム・ジャパン
キャスト
ジュリアス・シーザー 山下牧子
コルネリア 橘今日子
セスト 日比野幸
クーリオ 栗原剛
クレオパトラ 文屋小百合
プトレマイオス 中村裕美
アキッラ 萩原潤
ニレーノ 今井典子
2005/10/15 17:00~ 北とぴあ さくらホール 2階
フレッシュな二期会のメンバーと、日本の代表的な古楽器演奏グループであるバッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)のコンビ。先日、王子駅近くの北とぴあで、ヘンデルの名作「ジュリアス・シーザー」(エジプトのジュリオ・チェザーレ)を聴いてきました。
この公演で圧倒的な存在感を示していたのは、言うまでもなく、鈴木雅明率いるBCJの演奏でしょう。全三幕、レチタティーヴォを含めれば、かなりの長丁場となるこのオペラを、最初から最後まで、緊張感を全く途切れさせないで、極めて明朗にかつ、丁寧に演奏します。決して早くなり過ぎることのない落ち着いたテンポ設定で、輝かしいヘンデルの煌めきを聴かせながらも、時折、このオペラの生々し劇的要素をえぐりとるかのように、鋭く鮮やかに切り込みます。また、歌手のサポートも実に見事で、全く危なげありません。フワッと体が浮くかのような管楽器の軽やかさと、しなやかで湿り気を帯びた弦楽器群の響き。そしてその円やかなブレンド具合。いつものBCJが聴かせる精緻で手堅い音楽に、愉悦感が大きく加わります。これは実に贅沢です。
二期会の若手メンバーで構成された歌手では、クレオパトラの文屋小百合が最も目立っていました。シーザーを誘惑する艶やかさこそ、やや控えめに表現されているようにも見えましたが、それが逆に、彼女のシーザーへの甘い恋心を強く示します。劇が進行するにつれ、シーザーへの感情が複雑に変化するクレオパトラ。このような、殊更に色気を振りまくことのないクレオパトラも、また良いのではないでしょうか。他には、役にハマりきって、力強いプトレマイオス像を見せてくれた中村裕美も印象に残りました。もちろん、声も強靭で強い意志を感じませす。やや弱々しかったタイトルロールの山下牧子を上回る存在感でした。
演出は平尾力哉によるものです。舞台後方に三面のスクリーンを配し、映像によって、時間を古のエジプトから現代アメリカへと移します。シーザーは、ハリウッドスターのような出で立ちでカッコ良く振るまい、まさに現代アメリカの正義と「パスク・ロマーナ」を引っ掛けます。また、セストはパンクファッションに身を包み、「キャー!」と奇声をも発して声援を送る、女性ファンクラブを引き連れて歩きます。一方、プトレマイオスの描写はやや複雑です。第三幕のハーレムの場では、映像に一瞬北朝鮮の「美女軍団」も映しだされて、何やら第三世界の雄として、「将軍様」のような描かれ方をされていましたが、部下にドラックを注射させるシーンも頻繁に登場し、何処かヒッピー的な役割を持たせているのか、アメリカ内での「反パスク・アメリカーナ」の存在として、シーザーへ対抗する意味を持たせているのかとも思いました。(それとも北朝鮮の「麻薬製造問題」に引っ掛けた?!)平尾によれば、現代アメリカへ移した舞台設定も、あくまで「9.11」以前ということで、幕切れの映像には、ニューヨークの世界貿易センタービルが高らかに、そしてどこか不気味に映しだされます。パスク・アメリカーナも永遠ではない。そのような、至極当たり前なメッセージだったのでしょうか。ただ私は、いわゆる「9.11」で、歴史の時間軸を分けて見ることに抵抗があるので、ここはあまり賛同出来ません。終演後、カーテンコールに登場した平尾氏には、痛烈な大ブーイングが浴びせられていました。私も、全体としてはどこか凡庸な印象が拭えず、もう少しセンスが良ければとも思いましたが、所々に仕掛けられた小さな細工は、それなりに楽しむことが出来ました。
いわゆるバロック・オペラを生で聴いたのは今回が初めてでしたが、演出面はともかくも、BCJの極めて質の高い管弦楽と、歌手たちの真摯な歌声の響宴には、大いに拍手を送りたいと思います。今後も日本で、ヘンデルやラモー、それにヴィヴァルディあたりのオペラが積極的に上演されていくことを願いたいです。
ヘンデル「ジュリアス・シーザー」(エジプトのジュリオ・チェザーレ)
指揮 鈴木雅明
演出 平尾力哉
管弦楽 バッハ・コレギウム・ジャパン
キャスト
ジュリアス・シーザー 山下牧子
コルネリア 橘今日子
セスト 日比野幸
クーリオ 栗原剛
クレオパトラ 文屋小百合
プトレマイオス 中村裕美
アキッラ 萩原潤
ニレーノ 今井典子
2005/10/15 17:00~ 北とぴあ さくらホール 2階
フレッシュな二期会のメンバーと、日本の代表的な古楽器演奏グループであるバッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)のコンビ。先日、王子駅近くの北とぴあで、ヘンデルの名作「ジュリアス・シーザー」(エジプトのジュリオ・チェザーレ)を聴いてきました。
この公演で圧倒的な存在感を示していたのは、言うまでもなく、鈴木雅明率いるBCJの演奏でしょう。全三幕、レチタティーヴォを含めれば、かなりの長丁場となるこのオペラを、最初から最後まで、緊張感を全く途切れさせないで、極めて明朗にかつ、丁寧に演奏します。決して早くなり過ぎることのない落ち着いたテンポ設定で、輝かしいヘンデルの煌めきを聴かせながらも、時折、このオペラの生々し劇的要素をえぐりとるかのように、鋭く鮮やかに切り込みます。また、歌手のサポートも実に見事で、全く危なげありません。フワッと体が浮くかのような管楽器の軽やかさと、しなやかで湿り気を帯びた弦楽器群の響き。そしてその円やかなブレンド具合。いつものBCJが聴かせる精緻で手堅い音楽に、愉悦感が大きく加わります。これは実に贅沢です。
二期会の若手メンバーで構成された歌手では、クレオパトラの文屋小百合が最も目立っていました。シーザーを誘惑する艶やかさこそ、やや控えめに表現されているようにも見えましたが、それが逆に、彼女のシーザーへの甘い恋心を強く示します。劇が進行するにつれ、シーザーへの感情が複雑に変化するクレオパトラ。このような、殊更に色気を振りまくことのないクレオパトラも、また良いのではないでしょうか。他には、役にハマりきって、力強いプトレマイオス像を見せてくれた中村裕美も印象に残りました。もちろん、声も強靭で強い意志を感じませす。やや弱々しかったタイトルロールの山下牧子を上回る存在感でした。
演出は平尾力哉によるものです。舞台後方に三面のスクリーンを配し、映像によって、時間を古のエジプトから現代アメリカへと移します。シーザーは、ハリウッドスターのような出で立ちでカッコ良く振るまい、まさに現代アメリカの正義と「パスク・ロマーナ」を引っ掛けます。また、セストはパンクファッションに身を包み、「キャー!」と奇声をも発して声援を送る、女性ファンクラブを引き連れて歩きます。一方、プトレマイオスの描写はやや複雑です。第三幕のハーレムの場では、映像に一瞬北朝鮮の「美女軍団」も映しだされて、何やら第三世界の雄として、「将軍様」のような描かれ方をされていましたが、部下にドラックを注射させるシーンも頻繁に登場し、何処かヒッピー的な役割を持たせているのか、アメリカ内での「反パスク・アメリカーナ」の存在として、シーザーへ対抗する意味を持たせているのかとも思いました。(それとも北朝鮮の「麻薬製造問題」に引っ掛けた?!)平尾によれば、現代アメリカへ移した舞台設定も、あくまで「9.11」以前ということで、幕切れの映像には、ニューヨークの世界貿易センタービルが高らかに、そしてどこか不気味に映しだされます。パスク・アメリカーナも永遠ではない。そのような、至極当たり前なメッセージだったのでしょうか。ただ私は、いわゆる「9.11」で、歴史の時間軸を分けて見ることに抵抗があるので、ここはあまり賛同出来ません。終演後、カーテンコールに登場した平尾氏には、痛烈な大ブーイングが浴びせられていました。私も、全体としてはどこか凡庸な印象が拭えず、もう少しセンスが良ければとも思いましたが、所々に仕掛けられた小さな細工は、それなりに楽しむことが出来ました。
いわゆるバロック・オペラを生で聴いたのは今回が初めてでしたが、演出面はともかくも、BCJの極めて質の高い管弦楽と、歌手たちの真摯な歌声の響宴には、大いに拍手を送りたいと思います。今後も日本で、ヘンデルやラモー、それにヴィヴァルディあたりのオペラが積極的に上演されていくことを願いたいです。
コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )
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歌手・演奏面に限れば、本当に質の高い公演でしたね。特にBCJ!ああいったレベルの常設古楽オケがピットに入るとこんなに音楽が生き生きするものなのかと驚きました
>アメリカ内での「反パスク・アメリカーナ」
これは考えませんでした。なるほど~。
それとあの「追っかけ」の女の子たちの「キャーッ!」という黄色い声。あれで周りで寝ていたお客たちが一斉に飛び起きていたのには笑ってしまいました
コメントありがとうございます。
>歌手・演奏面に限れば、本当に質の高い公演でしたね。特にBCJ!ああいったレベルの常設古楽オケがピットに入るとこんなに音楽が生き生きするものなのか
このまま第二弾ということで、
またバロックオペラをやっていただきたいほどです!
>「追っかけ」の女の子たちの「キャーッ!」という黄色い声。
それがまた良く響いていましたよね。
まだ頭の中に残っています…。
>寝ていたお客たちが一斉に飛び起きていた
そうですね。
結構睡眠なさっていた方も多いように思いました。
少々長かったのかもしれません…。