都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「書だ!石川九楊展」 上野の森美術館
上野の森美術館
「書だ!石川九楊展」
7/5~7/30
上野の森美術館で開催中の「書だ!石川九楊展」を見てきました。
日本を代表する現代書道家として知られる石川九楊(1945~)。私が石川の書を初めて見たのは、今から10年以上も前、2005年に日本橋三越のギャラリーで行われた「石川九楊の世界展」でした。
今も昔も書に知識のない私ですが、当時の言葉をして「言霊に根ざした抽象」は衝撃的で、強い印象を受けたことを覚えています。
以来、何故か石川の書を網羅的に見る機会がありませんでした。久しぶりの個展です。書家石川の業績を、新旧約100点の作品にて紹介しています。
冒頭、まるで大蛇のように這うのが「エロイエロイラマサバクタニ又は死篇」でした。全長は何と80メートルにも及びます。殴り書きでかつ自在、さらにエネルギッシュでかつ躍動的でした。水が湧き出るかのごとくに書が生動しています。
「李賀詩 贈陳商」も強烈でした。縦長の作品による17枚の連作ですが、その多くは墨の黒に塗られ、文字はおろか、線も形も墨に沈殿し、明瞭な形は一切明らかではありません。暗雲が立ち込めているかのようです。墨はひたすらに面に滲み出していました。
同館1階の広い展示室に入って言葉を失いました。先の「エロイエロイラマサバクタニ又は死篇」が床面付近をぐるりとほぼ一周し、壁面には大小様々な作品が掲げられています。そのモノクロームに沈む世界は、まるで古代の遺跡の石室のようでした。これはおおよそ書なのでしょうか。何物にも捉え得ず、まだ見たことのない異空間へ投げ込まれたような錯覚にさえ陥りました。
どこか幻視的な感覚を誘うのも興味深いところです。例えば「李賀詩 感諷五首」です。一部には墨が余白を埋めるかのように波打っていましたが、その向こうにも大きな仏像のような影が見えました。一体、何が現れていたのでしょうか。
とはいえ、時に目を凝らして見ると、確かに書、文字が浮き上がっていることが分かります。例えば「言葉は雨のように降りそそいだー私訳イエス伝」です。文字がまるで涙のように溢れ、まさしく雨のように降り注いでいましたが、よく読めば、「君は誰だ」や「目を覚ましてください」、それに「なげきの言葉を聞かれないですか」などのメッセージが付されていることが見て取れます。それも一つ一つ心に響きました。
石川九楊「嘆異抄 No.18」 1988年
チラシに唯一、掲載された図版が「嘆異抄 No.18」でした。一面の紙の上には、直線を多用した記号的な文字が、事細かに記されています。凄まじい情報量です。まるで精密機械の回路のようでした。どことなくシステマティックながらも、時折、墨が噴き出るように滲み、それがアクセントなって、有機的な世界を築き上げています。バッハらなぬバロックのオルガンの調べが頭に流れました。音楽的なリズムも感じられるのではないでしょうか。
古典に着想した作品で特に印象に深いのが「源氏物語書巻五十五帖」でした。かの長大な源氏物語を一帖一帖、書で表現。かなりバリエーション豊かです。時にオートマティスム的であり、また現代絵画的でもあります。ミショー、ないしクレーやカンディンスキーを思い起こす方も多いかもしれません。
ただ私は源氏物語の語り、すなわち音声を書に起こしているように思えてなりませんでした。物語の内的な情念が音となり、のちに書となって憑依しています。書は鋭く紙を引っ掻き、ある時は優しげになぞり、そして軽妙にとぐろを巻き、またバチバチと音を立てるように駆け回っています。これほどに詩情豊かに表現された源氏物語をほかに知りません。
「書の風景 作品論/石川九楊/ミネルヴァ書房」
近作では時事的なテーマの作品も目立ちます。中でも重要なのが9.11、3.11の悲劇、惨劇です。「二〇〇一年九月十一日晴れー垂直線と水平線の物語」では貿易センタービルを思わせる影が浮き上がっています。素早く靡く線は、あの時の黒煙なのでしょうか。血が吹き出ているようにも見えました。
ほかにも領土問題や東京オリンピックなど時事的な作品も目を引きました。いずれも批判的なスタンスです。石川の強いメッセージが込められていました。
ラストの「妻へ」と題した今年の新作も胸を打ちます。浮遊する球が不思議とぽろぽろと零れ落ちる涙のようでした。
10年以上ぶりの石川の個展はまた新たな刺激を私に与えてくれました。
7月30日まで開催されています。おすすめします。
「書だ!石川九楊展」 上野の森美術館
会期:7月5日 (水) ~7月30日 (日)
休館:会期中無休。
時間:10:00~17:00
*入場は閉館30分前まで。
料金:一般・大学・高校生1200円、中学生以下無料。
住所:台東区上野公園1-2
交通:JR線上野駅公園口より徒歩3分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅徒歩5分。京成線京成上野駅徒歩5分。
「書だ!石川九楊展」
7/5~7/30
上野の森美術館で開催中の「書だ!石川九楊展」を見てきました。
日本を代表する現代書道家として知られる石川九楊(1945~)。私が石川の書を初めて見たのは、今から10年以上も前、2005年に日本橋三越のギャラリーで行われた「石川九楊の世界展」でした。
今も昔も書に知識のない私ですが、当時の言葉をして「言霊に根ざした抽象」は衝撃的で、強い印象を受けたことを覚えています。
以来、何故か石川の書を網羅的に見る機会がありませんでした。久しぶりの個展です。書家石川の業績を、新旧約100点の作品にて紹介しています。
冒頭、まるで大蛇のように這うのが「エロイエロイラマサバクタニ又は死篇」でした。全長は何と80メートルにも及びます。殴り書きでかつ自在、さらにエネルギッシュでかつ躍動的でした。水が湧き出るかのごとくに書が生動しています。
「李賀詩 贈陳商」も強烈でした。縦長の作品による17枚の連作ですが、その多くは墨の黒に塗られ、文字はおろか、線も形も墨に沈殿し、明瞭な形は一切明らかではありません。暗雲が立ち込めているかのようです。墨はひたすらに面に滲み出していました。
同館1階の広い展示室に入って言葉を失いました。先の「エロイエロイラマサバクタニ又は死篇」が床面付近をぐるりとほぼ一周し、壁面には大小様々な作品が掲げられています。そのモノクロームに沈む世界は、まるで古代の遺跡の石室のようでした。これはおおよそ書なのでしょうか。何物にも捉え得ず、まだ見たことのない異空間へ投げ込まれたような錯覚にさえ陥りました。
どこか幻視的な感覚を誘うのも興味深いところです。例えば「李賀詩 感諷五首」です。一部には墨が余白を埋めるかのように波打っていましたが、その向こうにも大きな仏像のような影が見えました。一体、何が現れていたのでしょうか。
とはいえ、時に目を凝らして見ると、確かに書、文字が浮き上がっていることが分かります。例えば「言葉は雨のように降りそそいだー私訳イエス伝」です。文字がまるで涙のように溢れ、まさしく雨のように降り注いでいましたが、よく読めば、「君は誰だ」や「目を覚ましてください」、それに「なげきの言葉を聞かれないですか」などのメッセージが付されていることが見て取れます。それも一つ一つ心に響きました。
石川九楊「嘆異抄 No.18」 1988年
チラシに唯一、掲載された図版が「嘆異抄 No.18」でした。一面の紙の上には、直線を多用した記号的な文字が、事細かに記されています。凄まじい情報量です。まるで精密機械の回路のようでした。どことなくシステマティックながらも、時折、墨が噴き出るように滲み、それがアクセントなって、有機的な世界を築き上げています。バッハらなぬバロックのオルガンの調べが頭に流れました。音楽的なリズムも感じられるのではないでしょうか。
古典に着想した作品で特に印象に深いのが「源氏物語書巻五十五帖」でした。かの長大な源氏物語を一帖一帖、書で表現。かなりバリエーション豊かです。時にオートマティスム的であり、また現代絵画的でもあります。ミショー、ないしクレーやカンディンスキーを思い起こす方も多いかもしれません。
ただ私は源氏物語の語り、すなわち音声を書に起こしているように思えてなりませんでした。物語の内的な情念が音となり、のちに書となって憑依しています。書は鋭く紙を引っ掻き、ある時は優しげになぞり、そして軽妙にとぐろを巻き、またバチバチと音を立てるように駆け回っています。これほどに詩情豊かに表現された源氏物語をほかに知りません。
「書の風景 作品論/石川九楊/ミネルヴァ書房」
近作では時事的なテーマの作品も目立ちます。中でも重要なのが9.11、3.11の悲劇、惨劇です。「二〇〇一年九月十一日晴れー垂直線と水平線の物語」では貿易センタービルを思わせる影が浮き上がっています。素早く靡く線は、あの時の黒煙なのでしょうか。血が吹き出ているようにも見えました。
ほかにも領土問題や東京オリンピックなど時事的な作品も目を引きました。いずれも批判的なスタンスです。石川の強いメッセージが込められていました。
ラストの「妻へ」と題した今年の新作も胸を打ちます。浮遊する球が不思議とぽろぽろと零れ落ちる涙のようでした。
これが「書」とは…言われなければ分かりませんでした。。 / まるで現代アート…「これが書だ!」 書家・石川九楊のすごすぎる作品展 - いまトピ https://t.co/mfH1anoDbx pic.twitter.com/MXJBjfJAXy
— いまトピ編集部 (@ima_topics) 2017年7月5日
10年以上ぶりの石川の個展はまた新たな刺激を私に与えてくれました。
7月30日まで開催されています。おすすめします。
「書だ!石川九楊展」 上野の森美術館
会期:7月5日 (水) ~7月30日 (日)
休館:会期中無休。
時間:10:00~17:00
*入場は閉館30分前まで。
料金:一般・大学・高校生1200円、中学生以下無料。
住所:台東区上野公園1-2
交通:JR線上野駅公園口より徒歩3分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅徒歩5分。京成線京成上野駅徒歩5分。
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