都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「興福寺仏頭展」 東京藝術大学大学美術館
東京藝術大学大学美術館
「興福寺創建1300年記念 国宝興福寺仏頭展」
9/3-11/24
東京藝術大学大学美術館で開催中の「興福寺創建1300年記念 国宝興福寺仏頭展」へ行ってきました。
12世紀に山田寺より移送されるも、15世紀のはじめに火災にあって破損。一度は行方不明になったものの、約500年後の1937年に再び発見された「白鳳の貴公子」こと興福寺の「仏頭」。
一方で「木造十二神将立像」は東金堂に安置されていた神将像。「仏頭」もかつては東金堂の本尊。つまり同じ空間にあったわけです。しかしながら火災によって本尊には新たな薬師如来が鋳造されます。以来、「仏頭」と「木造十二神将立像」とが揃って並ぶことはありませんでした。
まさに600年ぶりの出来事です。「仏頭」と「木造十二神将立像」が出会います。展示ではこれらの他に、同じくかつて東金堂に配置されていた「板彫十二神将像」、また興福寺由来で法相宗関連の絵画など約65点の文物が紹介されていました。
重要文化財「厨子入り木造弥勒菩薩半跏像」 鎌倉時代 興福寺
まず入口に鎮座するのは「厨子入り木造弥勒菩薩半跏像」。鎌倉期の仏様です。顔立ちは険しく、威厳に満ちているもの、足や指先などは実に滑らか。装身具も繊細で優美です。貴族的な趣味も感じられます。
絵画では「護法善神扉絵」も見どころの一つではないでしょうか。保存状態も良好なのか、彩色がいずれも鮮やか。全12点のうち会期途中での入れ替えということで6点の出品でしたが、とりわけ「増長天王像」は迫力がありました。
レリーフ状の神将像、「板彫十二神将像」も見逃せません。その数は全12点。かつて東金堂の如来の守護神として台座にはめられていたといわれる像ですが、ともかく力感漲る造形が印象的です。いずれも厚さは約3センチほどですが、思いの外に立体感があります。
国宝「迷企羅大将像」 平安時代 11世紀 興福寺
特に右手、左足を振り上げて、大きく跳躍するかのように構える「迷企羅大将像」の躍動感は圧巻の一言。またどこかプリミティブな印象を受けたのは私だけでしょうか。静止する「真達羅大将像」などは、全く時代も異なりますが、木喰の作風を連想させるものがあります。
ちなみにこの「板彫十二神将像」、一列ではなく、ぐるりと一周、四方に展示されているのもポイントです。これは台座を囲んでいた当時の姿を半ば再現するべく試みられました。
それではハイライトへ。「仏頭」と「木造十二神将立像」のそろい踏み。展示スペースは同館最大の3階の第3展示室です。最奥部に「仏頭」が人の背の高さほどに置かれ、そこから入口に向かって「木造十二神将立像」が左右に並んでいる。いずれもケースのない露出展示。しかも仏様を360度ぐるりと廻って歩くことも可能です。かの東博阿修羅展を彷彿させる造作。背の部分もじっくりと観覧出来ました。
国宝「伐折羅大将立像」 鎌倉時代 13世紀 興福寺
それにしても「十二神将立像」、いずれも表情豊かですが、中でも激しいのは「伐折羅大将立像」です。剣を持った右手を大きく振りかぶり、今にも下方の敵に向けて刺さんとする一瞬の動きが見事に表されています。少し屈んで、立像の視線と向き合うと、思わず仰け反ってしまうほどの迫力です。
国宝「鋳造仏頭」 白鳳時代 685年 興福寺
「仏頭」はどうでしょうか。丸いというより、四角いともいえるような張りのある顔立ち。首は太く肉感的。切れた眼は細く鋭く彼方を見つめている。「青年のように若々しい」とも称される仏頭。表情こそ穏やかながらも実に生命感があります。
後ろへ廻ると後頭部に穴がぽっかりとあいていることが見て取れます。また左耳はちぎれ、左頬も歪んでいる。痛々しいまでの姿です。この仏様の苦難の歴史も思い起こさせました。
重要文化財「銅造釈迦如来倚像」 白鳳時代 7世紀 深大寺
会場ではVR映像で往時の仏頭を再現する試みも。欠落部から形を推測して復元した姿が映し出されています。また特別陳列として深大寺からやって来た「銅造釈迦如来倚像」も重要です。こちらも仏頭と同じく白鳳期の作。小ぶりの仏様ですが、確かに「仏頭」を想像させるものがあります。
「仏頭」は2004年に同じく芸大美に出品されるなど、東京で展示されることは何も初めてではありません。ただそれでも「仏頭」を核に「木造十二神将立像」が露出展示でずらりと一揃いする空間。照明も効果的です。その美しさは息をのむほどでした。
人気の仏像展ということで混雑を覚悟しましたが、確かに賑わってはいたものの、特に行列が出来るような状況ではありませんでした。ただ何かと手狭でかつ動線に難もある芸大美術館、混雑すると大変です。後期にもう一度出向くつもりですが、まずはなるべく早めの観覧が良さそうです。
国宝興福寺仏頭展特設サイト「仏像タイムス」
展覧会のサイトがなかなか充実しています。キャッチーな「仏像タイムス」ですが、「教えて仏像のすべて」などは読み応えもありました。
「仏頭」が発見されたのは1937年の10月29日のことです。ちょうど展覧会会期中、その日にあわせてのイベントも行われます。
[仏頭発見の日記念イベント]*参加申込の締切は10月1日。
・特別法要と特別鑑賞の夕べ
日時:10月29日(火)18時~20時
内容:参加者限定の本展特別鑑賞会を実施するほか、展示会場内で興福寺貫首以下の寺僧による特別法要を行います。定員200名。
・「見仏記」トークショーと特別鑑賞の夕べ
日時:10月30日(水)18時30分~20時30分
内容:参加者限定の本展特別鑑賞会を実施するほか、本展仏頭大使のみうらじゅんさん、いとうせいこうさんによるトークショーを行います。会場は東京藝術大学内。定員150名。
2018年に落慶を目指して工事の進む中金堂再建の勧進を兼ねての展覧会です。館内には奉賛のための写経の案内もありました。
「もっと知りたい興福寺の仏たち/金子啓明/東京美術」
11月24日まで開催されています。
「興福寺創建1300年記念 国宝興福寺仏頭展」 東京藝術大学大学美術館
会期:9月3日(火)~11月24日(日)
休館:月曜日。但し9/16、9/23、10/14、11/4は開館。翌火曜日は休館。
時間:10:00~17:00 *入館は16時半まで。
料金:一般1500(1200)円、高校・大学生1000(700)円、中学生以下無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
住所:台東区上野公園12-8
交通:JR線上野駅公園口より徒歩10分。東京メトロ千代田線根津駅より徒歩10分。京成上野駅、東京メトロ日比谷線・銀座線上野駅より徒歩15分。
「興福寺創建1300年記念 国宝興福寺仏頭展」
9/3-11/24
東京藝術大学大学美術館で開催中の「興福寺創建1300年記念 国宝興福寺仏頭展」へ行ってきました。
12世紀に山田寺より移送されるも、15世紀のはじめに火災にあって破損。一度は行方不明になったものの、約500年後の1937年に再び発見された「白鳳の貴公子」こと興福寺の「仏頭」。
一方で「木造十二神将立像」は東金堂に安置されていた神将像。「仏頭」もかつては東金堂の本尊。つまり同じ空間にあったわけです。しかしながら火災によって本尊には新たな薬師如来が鋳造されます。以来、「仏頭」と「木造十二神将立像」とが揃って並ぶことはありませんでした。
まさに600年ぶりの出来事です。「仏頭」と「木造十二神将立像」が出会います。展示ではこれらの他に、同じくかつて東金堂に配置されていた「板彫十二神将像」、また興福寺由来で法相宗関連の絵画など約65点の文物が紹介されていました。
重要文化財「厨子入り木造弥勒菩薩半跏像」 鎌倉時代 興福寺
まず入口に鎮座するのは「厨子入り木造弥勒菩薩半跏像」。鎌倉期の仏様です。顔立ちは険しく、威厳に満ちているもの、足や指先などは実に滑らか。装身具も繊細で優美です。貴族的な趣味も感じられます。
絵画では「護法善神扉絵」も見どころの一つではないでしょうか。保存状態も良好なのか、彩色がいずれも鮮やか。全12点のうち会期途中での入れ替えということで6点の出品でしたが、とりわけ「増長天王像」は迫力がありました。
レリーフ状の神将像、「板彫十二神将像」も見逃せません。その数は全12点。かつて東金堂の如来の守護神として台座にはめられていたといわれる像ですが、ともかく力感漲る造形が印象的です。いずれも厚さは約3センチほどですが、思いの外に立体感があります。
国宝「迷企羅大将像」 平安時代 11世紀 興福寺
特に右手、左足を振り上げて、大きく跳躍するかのように構える「迷企羅大将像」の躍動感は圧巻の一言。またどこかプリミティブな印象を受けたのは私だけでしょうか。静止する「真達羅大将像」などは、全く時代も異なりますが、木喰の作風を連想させるものがあります。
ちなみにこの「板彫十二神将像」、一列ではなく、ぐるりと一周、四方に展示されているのもポイントです。これは台座を囲んでいた当時の姿を半ば再現するべく試みられました。
それではハイライトへ。「仏頭」と「木造十二神将立像」のそろい踏み。展示スペースは同館最大の3階の第3展示室です。最奥部に「仏頭」が人の背の高さほどに置かれ、そこから入口に向かって「木造十二神将立像」が左右に並んでいる。いずれもケースのない露出展示。しかも仏様を360度ぐるりと廻って歩くことも可能です。かの東博阿修羅展を彷彿させる造作。背の部分もじっくりと観覧出来ました。
国宝「伐折羅大将立像」 鎌倉時代 13世紀 興福寺
それにしても「十二神将立像」、いずれも表情豊かですが、中でも激しいのは「伐折羅大将立像」です。剣を持った右手を大きく振りかぶり、今にも下方の敵に向けて刺さんとする一瞬の動きが見事に表されています。少し屈んで、立像の視線と向き合うと、思わず仰け反ってしまうほどの迫力です。
国宝「鋳造仏頭」 白鳳時代 685年 興福寺
「仏頭」はどうでしょうか。丸いというより、四角いともいえるような張りのある顔立ち。首は太く肉感的。切れた眼は細く鋭く彼方を見つめている。「青年のように若々しい」とも称される仏頭。表情こそ穏やかながらも実に生命感があります。
後ろへ廻ると後頭部に穴がぽっかりとあいていることが見て取れます。また左耳はちぎれ、左頬も歪んでいる。痛々しいまでの姿です。この仏様の苦難の歴史も思い起こさせました。
重要文化財「銅造釈迦如来倚像」 白鳳時代 7世紀 深大寺
会場ではVR映像で往時の仏頭を再現する試みも。欠落部から形を推測して復元した姿が映し出されています。また特別陳列として深大寺からやって来た「銅造釈迦如来倚像」も重要です。こちらも仏頭と同じく白鳳期の作。小ぶりの仏様ですが、確かに「仏頭」を想像させるものがあります。
「仏頭」は2004年に同じく芸大美に出品されるなど、東京で展示されることは何も初めてではありません。ただそれでも「仏頭」を核に「木造十二神将立像」が露出展示でずらりと一揃いする空間。照明も効果的です。その美しさは息をのむほどでした。
人気の仏像展ということで混雑を覚悟しましたが、確かに賑わってはいたものの、特に行列が出来るような状況ではありませんでした。ただ何かと手狭でかつ動線に難もある芸大美術館、混雑すると大変です。後期にもう一度出向くつもりですが、まずはなるべく早めの観覧が良さそうです。
国宝興福寺仏頭展特設サイト「仏像タイムス」
展覧会のサイトがなかなか充実しています。キャッチーな「仏像タイムス」ですが、「教えて仏像のすべて」などは読み応えもありました。
「仏頭」が発見されたのは1937年の10月29日のことです。ちょうど展覧会会期中、その日にあわせてのイベントも行われます。
[仏頭発見の日記念イベント]*参加申込の締切は10月1日。
・特別法要と特別鑑賞の夕べ
日時:10月29日(火)18時~20時
内容:参加者限定の本展特別鑑賞会を実施するほか、展示会場内で興福寺貫首以下の寺僧による特別法要を行います。定員200名。
・「見仏記」トークショーと特別鑑賞の夕べ
日時:10月30日(水)18時30分~20時30分
内容:参加者限定の本展特別鑑賞会を実施するほか、本展仏頭大使のみうらじゅんさん、いとうせいこうさんによるトークショーを行います。会場は東京藝術大学内。定員150名。
2018年に落慶を目指して工事の進む中金堂再建の勧進を兼ねての展覧会です。館内には奉賛のための写経の案内もありました。
「もっと知りたい興福寺の仏たち/金子啓明/東京美術」
11月24日まで開催されています。
「興福寺創建1300年記念 国宝興福寺仏頭展」 東京藝術大学大学美術館
会期:9月3日(火)~11月24日(日)
休館:月曜日。但し9/16、9/23、10/14、11/4は開館。翌火曜日は休館。
時間:10:00~17:00 *入館は16時半まで。
料金:一般1500(1200)円、高校・大学生1000(700)円、中学生以下無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
住所:台東区上野公園12-8
交通:JR線上野駅公園口より徒歩10分。東京メトロ千代田線根津駅より徒歩10分。京成上野駅、東京メトロ日比谷線・銀座線上野駅より徒歩15分。
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