都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「窓展」 東京国立近代美術館
東京国立近代美術館
「窓展:窓をめぐるアートと建築の旅」
2019/11/1~2020/2/2
日常の暮らしにとっても身近な窓を切り口に、アートと建築の関わりを紹介する展覧会が、東京国立近代美術館にて開催されています。
それが「窓展:窓をめぐるアートと建築の旅」で、20世紀以降の美術を中心に、建築に関した資料を含む110点ほどの作品が展示されていました。
郷津雅夫「Windows」より 1972-1990年 個人蔵
絵画、写真、映像、インスタレーションなど、多様な表現による窓を取り上げているのも見どころと言えるかもしれません。まず冒頭で目を引くのは、郷津雅夫の「Windows」で、1971年にニューヨークへ渡った作家が、移民の多く住む地域を写した作品でした。中でも多くの窓に人々が顔を覗かせている写真は、パレードの際に撮られたもので、子どもたちが興味深そうに外を見やったり、中には星条旗を掲げたりする人物の姿も見られました。窓を切り口に、人々の暮らしなり境遇が浮かび上がってくるかもしれません。
第2章「窓からながめる建築とアート」展示風景(パネル)
窓と建築、そしてアートの関連を追う年表も大変な労作でした。ここでは窓と美術、窓と技術、そして建築など窓にまつわる様々な作品や出来事を、古代から現代まで図版を交えて追っていて、窓が如何に多様な用途を持ち、また美術において意味を変えたのかを知ることが出来ました。
アンリ・マティス「待つ」 1921-1922年 愛知県美術館
マティスやボナールなどが窓をモチーフに描いた絵画にも目を引かれました。うちマティスは窓を多く絵画に取り込んでいて、たびたび滞在した南仏ニースを舞台とした「待つ」では、海を望む室内にて誰かを待っているのか、カーテンを前にして遠くを見据える女性などを描いていました。
エルンスト・ルートヴィヒ・キルヒナーの「日の当たる庭」 1935年 愛知県美術館
エルンスト・ルートヴィヒ・キルヒナーの「日の当たる庭」も魅惑的な作品ではないでしょうか。煙の立ちのぼるタバコ越しに窓の外の庭を表していて、窓のフレームがピタリとキャンバスの額に収まるように描かれているからか、まさに目の前の窓から外を見やっているような錯覚にとらわれました。
左:パウル・クレー「花ひらく木をめぐる抽象」 1925年 東京国立近代美術館
右:ハンス・リヒター「色のオーケストレーション」 1923年 東京国立近代美術館
20世紀の抽象絵画の発想源に、窓のモチーフがあると指摘したのは、アメリカの美術批評家、ロザリンド・E・クラウスでした。ここではクレーの「花ひらく木をめぐる抽象」やハンス・リヒターの「色のオーケストレーション」などが展示されていましたが、確かにグリットで構成された色面には、手前や奥の空間を分ける窓の存在が感じられました。
西京人(小沢剛、チェン・シャオション、ギムホンソック)「第3章:ようこそ西京にー西京入国管理局」 2012年 作家蔵
小沢剛、チェン・シャオション、ギムホンソックによるユニット、「西京人」による「第3章:ようこそ西京にー西京入国管理局」も面白いインスタレーションでした。これは西京国という架空の都市国家を設定し、来館者が様々な手続きを行なって入国するという体験型の作品で、「チャーミングな踊り」や「とびきりの笑顔」などを要件とし、会場でも監視の方がさながら入国審査官ならぬ風情でカウンターに座っていました。
西京人(小沢剛、チェン・シャオション、ギムホンソック)「第3章:ようこそ西京にー西京入国管理局」 2012年 作家蔵
あくまでも西京国とは、国境線を持つ通常の国家とは異なり、現れては消える変幻自在の国家として考えられているそうです。そして国境を越えると、西京国へ移住した場合の制度について説明する映像も映されていましたが、昨今の移民や難民の問題を踏まえた作品と言えるのかもしれません。
ユゼフ・ロバコフスキ「わたしの窓から」 1978-1999年 プロファイル・ファウンデーション
20年以上も窓から外を撮影したユゼフ・ロバコフスキの「わたしの窓から」に驚かされました。ポーランドの高層アパートの9階に住んでいた作家は、窓から見える広場をフィルムに収めつつ、一人一人の職業や生活の様子などをセリフに付けていました。それらは時にリアルで生々しく、一瞬、ストーカーという言葉が頭に浮かぶほどでしたが、実際に正しいのか判別することは出来ませんでした。ひょっとして全ては妄想であることもあり得るのでしょうか。
JODI「My%Desktop OSX 10.4.7」 2006年 作家蔵
PCの窓、ウィンドウをモチーフとした映像を手がけるのが、オランダ出身の2人組アーティストJODIでした。「My%Desktop OSX 10.4.7」では、Macのデスクトップ上にフォルダやアイコンをクリックしては、ウィンドウが次々と開く光景を捉えていて、クリックやエラー音がまるでリズミカルなダンス音楽のように展開していました。あまりにも素早いためにプログラミングによって出来ているのかと思いきや、いずれもコピー&ペーストの手作業によるものでした。
ゲルハルト・リヒター「8枚のガラス」 2012年 ワコウ・ワークス・オブ・アート
この他、日本の奈良原一高やホンマタカシ、それにスイスのローマン・シグネール、ドイツのゲルハルト・リヒターなど、現代の美術家による窓に関した、ないしは窓を想起させる作品も目立っていました。
ローマン・シグネール「よろい戸」 2012年 作家蔵
マティスをデザインしたチラシ表紙からすると想像もつきませんでしたが、意外なほど現代美術が充実している展覧会と言えるかもしれません。
藤本壮介「窓に住む家/窓のない家」 2019年
美術館の中庭に設置された「窓に住む家/窓のない家」も見過ごせません。建築家の藤本壮介が考える入れ子構造を表した大型の模型で、実際に中へ入り、大きな窓越しに変化する景色などを見ることも出来ました。かねてより藤本は入れ子構造の住宅を設計していて、代表作の1つである「House N」のコンセプトモデルでもあります。
藤本壮介「窓に住む家/窓のない家」 2019年
建築においてはもちろん、まさかこれほど窓が美術においても重要な素材であったとは思いもよりませんでした。「窓が、アートと同じく、日常の中に新しい世界の眺めを開いてくれるもの」と解説にありましたが、展覧会を一通り鑑賞すると、窓、ひいては窓を思わせる美術作品への見方も変わってくるかもしれません。
第12章「窓の光」展示風景
一部作品を除き、写真の撮影も可能でした。(接写、動画不可。)
2020年2月2日まで開催されています。おすすめします。*東京展終了後、丸亀市猪熊弦一郎現代美術館(2020年7月11日〜9月27日)へ巡回予定。
「窓展:窓をめぐるアートと建築の旅」 東京国立近代美術館(@MOMAT60th)
会期:2019年11月1日(金)~2020年2月2日(日)
休館:月曜日。
*但し11月4日、1月13日は開館。11月5日(火)、年末年始(12月28日~2020年1月1日)、1月14日(火)は休館。
時間:10:00~17:00
*毎週金曜・土曜日は20時まで開館。
*入館は閉館30分前まで
料金:一般1200(900)円、大学生700(500)円、高校生以下無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
*本展の観覧料で当日に限り、「MOMATコレクション」も観覧可。
場所:千代田区北の丸公園3-1
交通:東京メトロ東西線竹橋駅1b出口徒歩3分。
「窓展:窓をめぐるアートと建築の旅」
2019/11/1~2020/2/2
日常の暮らしにとっても身近な窓を切り口に、アートと建築の関わりを紹介する展覧会が、東京国立近代美術館にて開催されています。
それが「窓展:窓をめぐるアートと建築の旅」で、20世紀以降の美術を中心に、建築に関した資料を含む110点ほどの作品が展示されていました。
郷津雅夫「Windows」より 1972-1990年 個人蔵
絵画、写真、映像、インスタレーションなど、多様な表現による窓を取り上げているのも見どころと言えるかもしれません。まず冒頭で目を引くのは、郷津雅夫の「Windows」で、1971年にニューヨークへ渡った作家が、移民の多く住む地域を写した作品でした。中でも多くの窓に人々が顔を覗かせている写真は、パレードの際に撮られたもので、子どもたちが興味深そうに外を見やったり、中には星条旗を掲げたりする人物の姿も見られました。窓を切り口に、人々の暮らしなり境遇が浮かび上がってくるかもしれません。
第2章「窓からながめる建築とアート」展示風景(パネル)
窓と建築、そしてアートの関連を追う年表も大変な労作でした。ここでは窓と美術、窓と技術、そして建築など窓にまつわる様々な作品や出来事を、古代から現代まで図版を交えて追っていて、窓が如何に多様な用途を持ち、また美術において意味を変えたのかを知ることが出来ました。
アンリ・マティス「待つ」 1921-1922年 愛知県美術館
マティスやボナールなどが窓をモチーフに描いた絵画にも目を引かれました。うちマティスは窓を多く絵画に取り込んでいて、たびたび滞在した南仏ニースを舞台とした「待つ」では、海を望む室内にて誰かを待っているのか、カーテンを前にして遠くを見据える女性などを描いていました。
エルンスト・ルートヴィヒ・キルヒナーの「日の当たる庭」 1935年 愛知県美術館
エルンスト・ルートヴィヒ・キルヒナーの「日の当たる庭」も魅惑的な作品ではないでしょうか。煙の立ちのぼるタバコ越しに窓の外の庭を表していて、窓のフレームがピタリとキャンバスの額に収まるように描かれているからか、まさに目の前の窓から外を見やっているような錯覚にとらわれました。
左:パウル・クレー「花ひらく木をめぐる抽象」 1925年 東京国立近代美術館
右:ハンス・リヒター「色のオーケストレーション」 1923年 東京国立近代美術館
20世紀の抽象絵画の発想源に、窓のモチーフがあると指摘したのは、アメリカの美術批評家、ロザリンド・E・クラウスでした。ここではクレーの「花ひらく木をめぐる抽象」やハンス・リヒターの「色のオーケストレーション」などが展示されていましたが、確かにグリットで構成された色面には、手前や奥の空間を分ける窓の存在が感じられました。
西京人(小沢剛、チェン・シャオション、ギムホンソック)「第3章:ようこそ西京にー西京入国管理局」 2012年 作家蔵
小沢剛、チェン・シャオション、ギムホンソックによるユニット、「西京人」による「第3章:ようこそ西京にー西京入国管理局」も面白いインスタレーションでした。これは西京国という架空の都市国家を設定し、来館者が様々な手続きを行なって入国するという体験型の作品で、「チャーミングな踊り」や「とびきりの笑顔」などを要件とし、会場でも監視の方がさながら入国審査官ならぬ風情でカウンターに座っていました。
西京人(小沢剛、チェン・シャオション、ギムホンソック)「第3章:ようこそ西京にー西京入国管理局」 2012年 作家蔵
あくまでも西京国とは、国境線を持つ通常の国家とは異なり、現れては消える変幻自在の国家として考えられているそうです。そして国境を越えると、西京国へ移住した場合の制度について説明する映像も映されていましたが、昨今の移民や難民の問題を踏まえた作品と言えるのかもしれません。
ユゼフ・ロバコフスキ「わたしの窓から」 1978-1999年 プロファイル・ファウンデーション
20年以上も窓から外を撮影したユゼフ・ロバコフスキの「わたしの窓から」に驚かされました。ポーランドの高層アパートの9階に住んでいた作家は、窓から見える広場をフィルムに収めつつ、一人一人の職業や生活の様子などをセリフに付けていました。それらは時にリアルで生々しく、一瞬、ストーカーという言葉が頭に浮かぶほどでしたが、実際に正しいのか判別することは出来ませんでした。ひょっとして全ては妄想であることもあり得るのでしょうか。
JODI「My%Desktop OSX 10.4.7」 2006年 作家蔵
PCの窓、ウィンドウをモチーフとした映像を手がけるのが、オランダ出身の2人組アーティストJODIでした。「My%Desktop OSX 10.4.7」では、Macのデスクトップ上にフォルダやアイコンをクリックしては、ウィンドウが次々と開く光景を捉えていて、クリックやエラー音がまるでリズミカルなダンス音楽のように展開していました。あまりにも素早いためにプログラミングによって出来ているのかと思いきや、いずれもコピー&ペーストの手作業によるものでした。
ゲルハルト・リヒター「8枚のガラス」 2012年 ワコウ・ワークス・オブ・アート
この他、日本の奈良原一高やホンマタカシ、それにスイスのローマン・シグネール、ドイツのゲルハルト・リヒターなど、現代の美術家による窓に関した、ないしは窓を想起させる作品も目立っていました。
ローマン・シグネール「よろい戸」 2012年 作家蔵
マティスをデザインしたチラシ表紙からすると想像もつきませんでしたが、意外なほど現代美術が充実している展覧会と言えるかもしれません。
藤本壮介「窓に住む家/窓のない家」 2019年
美術館の中庭に設置された「窓に住む家/窓のない家」も見過ごせません。建築家の藤本壮介が考える入れ子構造を表した大型の模型で、実際に中へ入り、大きな窓越しに変化する景色などを見ることも出来ました。かねてより藤本は入れ子構造の住宅を設計していて、代表作の1つである「House N」のコンセプトモデルでもあります。
藤本壮介「窓に住む家/窓のない家」 2019年
建築においてはもちろん、まさかこれほど窓が美術においても重要な素材であったとは思いもよりませんでした。「窓が、アートと同じく、日常の中に新しい世界の眺めを開いてくれるもの」と解説にありましたが、展覧会を一通り鑑賞すると、窓、ひいては窓を思わせる美術作品への見方も変わってくるかもしれません。
第12章「窓の光」展示風景
一部作品を除き、写真の撮影も可能でした。(接写、動画不可。)
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— Pen Magazine (@Pen_magazine) November 22, 2019
2020年2月2日まで開催されています。おすすめします。*東京展終了後、丸亀市猪熊弦一郎現代美術館(2020年7月11日〜9月27日)へ巡回予定。
「窓展:窓をめぐるアートと建築の旅」 東京国立近代美術館(@MOMAT60th)
会期:2019年11月1日(金)~2020年2月2日(日)
休館:月曜日。
*但し11月4日、1月13日は開館。11月5日(火)、年末年始(12月28日~2020年1月1日)、1月14日(火)は休館。
時間:10:00~17:00
*毎週金曜・土曜日は20時まで開館。
*入館は閉館30分前まで
料金:一般1200(900)円、大学生700(500)円、高校生以下無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
*本展の観覧料で当日に限り、「MOMATコレクション」も観覧可。
場所:千代田区北の丸公園3-1
交通:東京メトロ東西線竹橋駅1b出口徒歩3分。
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