「第19回 秘蔵の名品アートコレクション展」 ホテルオークラ東京

ホテルオークラ東京
「第19回 秘蔵の名品アートコレクション展 モネ ユトリロ 佐伯と日仏絵画の巨匠たち フランスの美しき街と村のなかで」
8/7-9/1



ホテルオークラ東京で開催中の「第19回秘蔵の名品アートコレクション展」へ行ってきました。

毎年夏、ホテルオークラで開催される「秘蔵の名品アートコレクション」も今年で19回目。私も近年は欠かさずお盆の時期に見ています。

今回のサブタイトルは「モネ ユトリロ 佐伯と日仏絵画の巨匠たち フランスの美しき街と村のなかで」。やや長めですが、19世紀末より20世紀にかけ、印象派やエコール・ド・パリ、それに日本の画家たちの描いたパリや郊外の風景などに着目した構成となっています。


アルベール・マルケ「パリ、ルーブル河岸」1906年 ヤマザキマザック美術館

さて展示を見る前、ひょんなことからツイッターにて本展監修補佐の熊澤弘先生(@kmzwhrs)とやり取りする機会があり、以下のようなお題をいただきました。

「キーワードは、1.露払いは印象派 2.「森」「村」イメージの原点はシダネルから。3.「睡蓮」がまたやってきた(でもなぜか隣には岡田三郎助)。4.タイ大使館… 5.パリ再現(うまく行っていて欲しい)6.人物!」

睡蓮と岡田三郎助、それにタイ大使館?一体何でしょうか。この内容に沿って感想なりをまとめてみたいと思います。


カミーユ・ピサロ「ポントワーズの橋」1878年 吉野石膏株式会社(山形美術館寄託)

ではまず「露払いは印象派」から。冒頭に登場するのはお馴染みの印象派の画家たちです。嬉しいのは私の好きなシスレーからおそらくは未見の一枚が出ていたこと。「ヒースの原」は高台から田園風景を鳥瞰的に望む構図が特徴的。またピサロの「ポントワーズの橋」も力作です。オワーズ川にかかる大きな橋と川に沿って行き交う人々の姿。時間はどことなくゆっくりと流れている。澱みない晴天の眩い陽射しが目に染み込んできました。


アンリ・ル・シダネル「森の小憩、ジェルブロワ」1925年 東京富士美術館

続いて「『森』『村』イメージの原点はシダネルから。」はどうでしょう。起点はシダネルの「森の小憩 ジェルブロワ」。パリから100キロ離れた小村の一コマ。木漏れ日の下ではピクニックの跡が。シダネルらしい叙情性も感じられます。また面白いのは隣に斎藤豊作の「残れる光」が展示されていることです。こちらも同じように木漏れ日を点描的に描いた作品。どこか似ています。

また他にもブラマンクの「雪の村」と彼に師事した里見勝蔵の「フランス風景」を並べた一角も。今度は似ているようで違う作品。ともかく全体的に作品の配列が巧みです。日仏の画家を分け隔てなく並べることで、両者の類似点や相似点なども浮かび上がっていました。


クロード・モネ「睡蓮」1907年 アサヒビール大山崎山荘美術館

それでは「睡蓮がまたやってきた(でもなぜか隣には岡田三郎助)」にすすみましょう。モネは「睡蓮」が2点と「日本風太鼓橋」が展示。制作順に1897年、1907年代、そして1918年。ほぼ10年間隔です。それらを見比べることで、一連の作風の変遷を知ることも出来ます。

それにしても何故に岡田三郎助がモネと一緒に、と思う方も多いかもしれません。(実際に私もそう思いました。)しかしながら彼の作品、「セーヌ川上流の景」を見てみると納得してしまうというもの。何せモネに似ているのです。しかも制作年代も今回のモネの「睡蓮」のはじめの作品と僅か一年違い。影響を受けていたのでしょうか。岡田三郎助というと女性像のイメージが強かったので、この作品には驚かされました。

さて熊澤先生からいただいたお題の中で最大の謎。それが「タイ大使館」。率直なところ展示に行く前は全く見当もつきませんでした。

答えは出品元です。前田寛治の「海」を所蔵するのがタイ大使館。しかもこれがかなりの大作です。岩場にぶつかって荒れ狂う波の様子。右からは斜めに水しぶきがかかっています。普段なかなか見ることの叶わぬ場所。これぞ「秘蔵の名品展」ならではの作品と言えそうです。

ハイライトは「パリ再現(うまく行っていて欲しい)」として差し支えありません。会場で最も広いフロアには日仏の画家によって描かれたパリの風景画がぐるりと一周、さながらパリの景観を空間全体で表すかのように展示。しかもフロア中央にはパリの地図が置かれ、展示作品の描かれた場所を参照することが出来ます。


矢崎千代二「巴里ルーブル宮」1923年 株式会社星野画廊

また同じ地点を複数の画家たちがどう描いているのかについてのかが分かるのもポイントです。例えばマルケの「ポン・ヌフ 霧の日」と有島生馬の「ポン・ヌフ」。同じ橋を前者は上から描き、後者は下の欄干の部分から捉えている。また日本人画家の作品に優品が多いのも特徴です。矢崎千代二の「巴里ルーブル宮」における雪景色の物悲しい様子。パステルの筆致も繊細です。心に響きました。


モーリス・ユトリロ「モンマルトルのキュスティーヌ通り」1938年 松岡美術館

もちろんここでは佐伯とユトリロ対決も見どころ。ともに出品は7~9点です。「パリ再現」コーナーの主役をはっていました。


アメデオ・モディリアーニ「若い女の胸像(マーサ嬢)」1916-17年頃 松岡美術館

ラストは「人物!」。ずばりエコール・ド・パリの画家による人物肖像画です。ドンゲン、モディリアーニ、キスリングに藤田などが一堂に。またパリの街を背景に幻想的な作品を描いたシャガールも展示されています。

ここでも偶然なのか、藤田の「横たわる裸婦」のちょうど向かいに、同じく横になった裸婦を描いた田中保の「裸婦」が展示されるなど、作品同士のちょっとした邂逅が。思わず両者の視線を追っ掛けてしまいます。

最後の一枚も藤田、しかしながらいわゆる乳白色の裸婦像ではなく、何と風景。しかもパリから遠く離れたインドシナを描いた「佛印メコンの廣野」です。彼は1941年に東南アジアに派遣され、各地の風景などを描いたそうですが、本作もそのうちの一枚。抜けるように青い空と野山。牧歌的とも理想風景ともいえる田園が広がっています。これは印象に残ります。


佐伯祐三「アントレ・ド・リュー・ド・シャトー」1925年 ポーラ美術館

テーマも明確でなおかつ作品も粒ぞろい。出品は主に国内の美術館をはじめ画廊、また個人蔵や先にも触れたタイ大使館など実に多様。「パリ再現」コーナーも、簡素ながら、ありそうでなかった試み。しかもうまく出来ています。それに知られざる作品との出会いも少なくありません。

夏のオークラの風物詩、アートコレクション、とても楽しめました。(熊澤先生、お題もありがとうございました。)

9月1日まで開催されています。おすすめします。

「第19回 秘蔵の名品アートコレクション展 モネ ユトリロ 佐伯と日仏絵画の巨匠たち フランスの美しき街と村のなかで」 ホテルオークラ東京
会期:8月7日(水)~9月1日(日)
休館:会期中無休。
時間:10:00~18:00(入場は17:30まで)
料金:一般1200円、大学・高校生1000円、中学生以下無料。
住所:港区虎ノ門2-10-4 ホテルオークラ東京アスコットホール 別館地下2階
交通:東京メトロ南北線六本木一丁目駅改札口より徒歩5分。東京メトロ日比谷線神谷町駅4b出口より徒歩8分。
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