「MOTアニュアル 2008」 東京都現代美術館

東京都現代美術館江東区三好4-1-1
「MOTアニュアル 2008 - 解きほぐすとき - 」
2/9-4/13



毎年恒例、今回で第9回を数える「MOTアニュアル」です。今年は以下の5名の作家が登場していました。

金氏徹平(1978-)
高橋万里子(1970-)
立花文穂(1968-)
手塚愛子(1976-)
彦坂敏昭(1983-)



全体を通して見ると、その「解きほぐすとき」というキーワードも分からないわけではありませんが、この手のグループ展はむしろ頭を真っ白にして、まさに感性の趣くままに見た方が気軽に楽しめます。高橋万里子のポートレートでは、前半部の人形をモチーフとした作品よりも、彼女の母を捉えたという連作7点のシリーズの方がより魅力的です。スポットライトを強く浴びた一人の女性が、ポーズこそ異なれども、何やら『考える人』のような面持ちにて写し出されています。独得の焦点のぼやけた肖像と、その背景に写る深い影が、あたかも女性の思考の揺らぎ、または逡巡する様子を差し示しているようにも思えました。しばらく眺めていると、彼女より由来するどことない不安感を覚える作品です。作家とモデルとの親密性が、見る側にも作品との一体感をもたらしているのかもしれません。



金氏徹平では混在する素材によって生み出された奇怪な構造物に、まるでホワイトチョコかホイップクリームのような白色塗料(石膏か樹脂でしょうか。)を塗りかけた作品が印象に残ります。オモチャの車やパイプ、それにどこでもあり得るようなプラスチックケースやカゴを組み上げて、さながら巨大ウエディングケーキとも建物ともいえるようなオブジェを生み出していました。そしてそれと同様の趣向による、6点の小品もまた可愛気です。何個かに連なるハサミが白に浸り、またビールの泡ような王冠型の白がグラスより飛び跳ねていました。各素材の本来の質感を喪失させ、白の持つ力で特異な美しさをもたらすその手法に感心させられます。それに白関連としては、日常に潜む意外な美感を軽妙に写真へ表した「white heat」も見応えがありました。シャッターの閉まる地下街の白い蛍光灯や、白い泡に包まれた洗車中の車があれほどの美しく思えたのは初めてです。

5名の中で最も惹かれたのは、横11メートルにも及ぶ巨大な織物がともかく圧倒的な手塚愛子でした。「層の機」(2008)と名付けられたそのタペストリーには、花や鳥などのモチーフがモザイク状になって雅やかに描かれています。黄色やオレンジなどの華やかな色調とは裏腹に、どこか宗教画の大作を見ているような気持ちにもさせられる不思議な作品です。またもう一点、赤と深い緑の油彩が対になった「空白と充満を同時にぶら下げる」(2004)も見応えがありました。桔梗の花のようなシルエットや、レースのような模様が、暗い色調より仄かに浮かび上がっています。あたかも実際にレース、もしくは糸をキャンバスへと織り込んでいるかのようです。

金氏はワンダーサイト渋谷(~3/2)、また手塚は第一生命南ギャラリー(~3/11)で、それに高橋は川崎市民ミュージアム(~3/30まで)でそれぞれ個展、もしくはグループ展を開催しています。機会があればその展示も見に行きたいと思いました。(彦坂は3/7より資生堂art eggで個展。)

4月13日までの開催です。
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