2021年6月20日、政府が何度目かの新型コロナ「緊急事態宣言」を解除した。代わりに21日から「蔓延防止等重点措置」が東京都などに適用される。
感染症の専門家たちは「第5波」襲来を懸念している。コロナ対策を担当する政府の西村康稔・経済再生担当大臣は「そういう事態になればためらうことなく緊急事態宣言を発する」と言った。そういうことなら緊急事態宣言を延長すればいいのだが、緊急事態の継続は蔓延防止よりも金がかかるし、何よりも世間体が悪い。
蔓延防止等重点措置では、飲食店の酒提供が認められる。政府の方針では午後夜8時まで、東京都は午後7時まで。飲酒はコロナ蔓延と関係があるとされている。そういうことであれば、飲食店での酒提供には自粛を求め、なぜ家での飲酒や酒造会社の製造に自粛を求めないのか。アルコール依存とは無縁の筆者などは不思議に思う。「白玉の歯にしみとほる秋の夜の酒はしづかに飲むべかりけり 若山牧水」
米国は1920年から33年まで禁酒法を施行した。アメリカの禁酒法と聞いて、いま思い浮かべるのは、酒の密造や密売で大儲けをしたアル・カポネのようなギャングと、ギャングを追いかけたFBIの物語だけだ。何年か先には、2020年代の日本の酒自粛運動は、やみくもにオリンピックを開こうとした無知蒙昧な一味と、彼らのよこしまな野心を知りながら「首魁の勝負」を止めきれなかった野党と政府系医療関係者のドタバタ劇として語られることになろう。その可能性は大きい。
酒場といえば日暮れの新橋あたりを遊弋する勤め帰りの勤労者がよみがえるだろう。日本の企業やそこで働く給与所得者に関心を持つ外国の学者をかつてなんどか新橋に案内した。酒場のカウンターでうさばらしに余念のない勤め人も、家に帰れば「お父さん」である。
6月20日は「父の日」だった。
この日の朝日新聞朝刊「天声人語」は父の日を話題にした。
「転勤の娘(こ)の背に春の陽(ひ)は徹(とお)る良き友を得よ良き上司得よ」
この歌を詠んだ男性の死後、家族が残された歌を歌集として自費出版した。その歌集で「転勤の娘」を案じた父の歌を見つけた娘がこの日の天声人語の筆者だった。
「名も無き父が詠んだ『転勤の娘』は、実は私である。これまで10回の転勤で、上司はともかく友には恵まれた。今回、普段の筆者に代わり担当したことをお断りしておく」と天声人語は文末で言う。「上司はともかく友には恵まれた」の「上司はともかく」につい笑ってしまった。いつぞやの国会で武田総務相が国会で答弁に立つ総務省の幹部に「記憶がないと言え」と叫んだという新聞記事を思い出した。お父さんは自己都合に合わせて、仕事場でこんなふうな上司を演じる人でもあるのだ。
(20216.20 花崎泰雄)
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