法律の周辺

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「強烈な反対」の表明について

2007-04-28 21:38:31 | Weblog
NHKオンライン 中国“最高裁判決は無効”

 日本・中国間の戦後処理は,中国が国内の正統政府に係る争いからサンフランシスコ講和会議に招請されなかったため,昭和27年4月28日の中華民国との日華平和条約及び昭和47年9月29日の中華人民共和国との日中共同声明に拠ることとなった。
後者の日中共同声明5項には,「中華人民共和国政府は,中日両国国民の友好のために,日本国に対する戦争賠償の請求を放棄することを宣言する。」とある。確かに,放棄の対象となる請求主体が一義的に明らかとはいえない。
この点につき,第二小法廷は,「公表されている日中国交正常化交渉の公式記録や関係者の回顧録等に基づく考証を経て今日では公知の事実となっている交渉経緯等を踏まえて考えた場合」として,サンフランシスコ平和条約の枠組みと異なる取決めがされたものと解することはできないと判断。そのサンフランシスコ平和条約の第14条(b)には,「この条約に別段の定がある場合を除き,連合国は,連合国のすべての賠償請求権,戦争の遂行中に日本国及びその国民がとった行動から生じた連合国及びその国民の他の請求権並びに占領の直接軍事費に関する連合国の請求権を放棄する。」とある。

第二小法廷,国家間の合意で国民の請求権を制限できるかについては,次のように判示している。

 被上告人らは,国家がその有する外交保護権を放棄するのであれば格別,国民の固有の権利である私権を国家間の合意によって制限することはできない旨主張するが,国家は,戦争の終結に伴う講和条約の締結に際し,対人主権に基づき,個人の請求権を含む請求権の処理を行い得るのであって,上記主張は採用し得ない。

 おっ,と思ったのは以下の部分。なるほど,この検討も欠くことはできない。

 上記のような日中共同声明5項の解釈を前提に,その法規範性及び法的効力について検討する。
 まず,日中共同声明は,我が国において条約としての取扱いはされておらず,国会の批准も経ていないものであることから,その国際法上の法規範性が問題となり得る。しかし,中華人民共和国が,これを創設的な国際法規範として認識していたことは明らかであり,少なくとも同国側の一方的な宣言としての法規範性を肯定し得るものである。さらに,国際法上条約としての性格を有することが明らかな日中平和友好条約において,日中共同声明に示された諸原則を厳格に遵守する旨が確認されたことにより,日中共同声明5項の内容が日本国においても条約としての法規範性を獲得したというべきであり,いずれにせよ,その国際法上の法規範性が認められることは明らかである。
 そして,前記のとおり,サンフランシスコ平和条約の枠組みにおいては,請求権の放棄とは,請求権に基づいて裁判上訴求する権能を失わせることを意味するのであるから,その内容を具体化するための国内法上の措置は必要とせず,日中共同声明5項が定める請求権の放棄も,同様に国内法的な効力が認められるというべきである。


強制連行された方々のご苦労は想像に余りある。ただ,概略,「中国政府が日中共同声明で個人の権利を放棄したというのは勝手な解釈」は,共同声明の当事国の報道官の談話としてはいかがなものか・・・。

最後になったが,判決の末尾には次のようにある。太字は管理人による。

 なお,前記2(3)のように,サンフランシスコ平和条約の枠組みにおいても,個別具体的な請求権について債務者側において任意の自発的な対応をすることは妨げられないところ,本件被害者らの被った精神的・肉体的苦痛が極めて大きかった一方,上告人は前述したような勤務条件で中国人労働者らを強制労働に従事させて相応の利益を受け,更に前記の補償金を取得しているなどの諸般の事情にかんがみると,上告人を含む関係者において,本件被害者らの被害の救済に向けた努力をすることが期待されるところである。

判例検索システム 平成19年04月27日 損害賠償請求事件


日本国憲法の関連条文

第七十三条  内閣は,他の一般行政事務の外,左の事務を行ふ。
一  法律を誠実に執行し,国務を総理すること。
二  外交関係を処理すること。
三  条約を締結すること。但し,事前に,時宜によつては事後に,国会の承認を経ることを必要とする。
四  法律の定める基準に従ひ,官吏に関する事務を掌理すること。
五  予算を作成して国会に提出すること。
六  この憲法及び法律の規定を実施するために,政令を制定すること。但し,政令には,特にその法律の委任がある場合を除いては,罰則を設けることができない。
七  大赦,特赦,減刑,刑の執行の免除及び復権を決定すること。

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