法律の周辺

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障害者の逸失利益について

2007-04-07 16:09:19 | Weblog
障害者は逸失利益「ゼロ」 交通事故死で両親,怒りの提訴 Sankei Web

NHKオンライン “障害理由に低賠償は不当”

 死亡による逸失利益は,生命の価値そのものではなく,死亡した被害者が将来的に獲得すると思われる経済価値を,差引き,引直しなどをしながら算出したもの。とはいえ,「死してなお・・・」というご両親のお気持ち,分からないではない。
障害者の逸失利益については,例えば,横浜地判H4.3.5がある。事案は,県立擁護学校高等部に通う高校2年の自閉症の生徒が,学校の水泳の授業中に溺死したというもの。適切な蘇生措置が講じられなかった点などに過失があるとして横浜地裁は県の過失責任を認めた。横浜地裁,逸失利益については,亡くなった生徒の卒業後の進路としては地域作業所に進む可能性が高かったとして,その年間平均工賃をもとに算出している。以下,逸失利益に係る判示部分。

 一般に,不法行為により死亡した年少者の逸失利益については,あらゆる証拠資料に基づき,経験則等に照らしてできうる限り蓋然性のある額を算出するのが相当である。
 これを本件についてみるに,一郎が自閉症で,本件事故当時満十六歳であったことは当事者間に争いがなく,《証拠略》によれば,原告らは一郎が伊勢原養護学校に入学した当時,卒業後の一郎の進路として地域作業所へ入所させることを希望し,その旨主治医である篁にも話していたこと,原告甲野花子は,警察官に対する供述調書中で「将来一郎に特に何をさせようという考えは持っておらず,好きなことをさせようと思っている」旨述べていること,一郎には授業中突然席を離れて教室の外へ出ていく等の行動が見られたほか,時に自傷行為に及んだり,混乱状態に陥って奇声を発して飛び跳ねたりすることもあり,昭和五七年におけるIQは五五であったこと,昭和六二年度の伊勢原養護学校の卒業生三六名中,地域作業所に入所した者は一二名であること,神奈川県立の精神薄弱養護学校高等部の昭和六〇年度から昭和六二年度までの卒業生の進路状況については,地域作業所に入所した者の割合が一番高くて三三パーセント前後であるのに対し,一般企業への就職者の割合は二五パーセント程度であること及び自閉症児が将来健常児と同様の就職をする割合は二〇パーセント未満であることが認められる。以上の事実によれば,一郎の卒業後の進路としては,地域作業所に進む蓋然性が最も高いと認められるから,一郎の死亡による逸失利益の算定に当たっては右作業所入所者の平均収入を基礎とすべきである。原告らは一郎が調理師になる希望を有していた旨主張し,《証拠略》によれば,一郎及び原告らが希望としてはそのような考えも有していたことが認められるが,右認定の事実に照らし,逸失利益算定の基礎としては右主張は到底採用することができない。


なお,記事の事案は,ヘルパーが運賃を支払っている間に被害者が道路に飛び出したというもの。過失相殺の関係で,被害者本人の過失のほかに,被害者側の過失も一応問題にはなるが,ヘルパーは,最判S42.6.27などのいう「被害者の身分ないしは生活関係上一体をなすとみられるような関係にある者」とは言えない。仮にヘルパーに過失があったとしても,被害者側の過失としては否定されよう。


日本国憲法の関連条文

第十三条  すべて国民は,個人として尊重される。生命,自由及び幸福追求に対する国民の権利については,公共の福祉に反しない限り,立法その他の国政の上で,最大の尊重を必要とする。

第十四条  すべて国民は,法の下に平等であつて,人種,信条,性別,社会的身分又は門地により,政治的,経済的又は社会的関係において,差別されない。
2  華族その他の貴族の制度は,これを認めない。
3  栄誉,勲章その他の栄典の授与は,いかなる特権も伴はない。栄典の授与は,現にこれを有し,又は将来これを受ける者の一代に限り,その効力を有する。

民法の関連条文

第七百九条  故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は,これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

(財産以外の損害の賠償)
第七百十条  他人の身体,自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず,前条の規定により損害賠償の責任を負う者は,財産以外の損害に対しても,その賠償をしなければならない。

(近親者に対する損害の賠償)
第七百十一条  他人の生命を侵害した者は,被害者の父母,配偶者及び子に対しては,その財産権が侵害されなかった場合においても,損害の賠償をしなければならない。

(使用者等の責任)
第七百十五条  ある事業のために他人を使用する者は,被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし,使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき,又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは,この限りでない。
2  使用者に代わって事業を監督する者も,前項の責任を負う。
3  前二項の規定は,使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。

(共同不法行為者の責任)
第七百十九条  数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは,各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う。共同行為者のうちいずれの者がその損害を加えたかを知ることができないときも,同様とする。
2  行為者を教唆した者及び幇助した者は,共同行為者とみなして,前項の規定を適用する。

(損害賠償の方法及び過失相殺)
第七百二十二条  第四百十七条の規定は,不法行為による損害賠償について準用する。
2  被害者に過失があったときは,裁判所は,これを考慮して,損害賠償の額を定めることができる。

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