職場の長が、部員全員に緊急のミーティングを召集した。
何事かと思ったら、大きくなった会社組織の見直しに関する部長による講習だった。
パソコンをプロジェクターにつないで、ホワイトボードに画面を次々と映し、説明をするのだが、部長自身があまり良く理解していない様子で、二言目には、「このあたり、僕もよく理解していないので、後でまたよく見といてください。データの保管場所は後でメールでお知らせします。」と言っていた。
私のような老骨は、黙って見ているだけだったが、明らかに新組織の説明としては不十分で、部員はまったく理解できていないことは、彼らの表情を見れば一目瞭然であった。
部長は、上の役員から、大至急部員全員が新組織を理解するように講習会を大至急開き、それが終了したら講習参加者の署名と共に連絡せよ、と指示されたそうだ。
後で工場長がやってきて、部員が確かに理解しているかチェックするそうだ、とも言っていた。しかし、その割には説明がおろそかで、私は見ていて他の同僚たちが哀れであった。
そもそも新組織を図解した組織図のタイトルが「マトリックス体制」となっていて、ここの部員達の英語アレルギーの実態を知っている私には、「あちゃーっ、タイトルが理解できないだろうなあ・・」と最初から気が重くなった。

こんな風に単純化した図なら良かったのに、いきなりゴチャゴチャした図解が映されたので、全員スタートからチンプンカンプンだったようだ。
いわゆるピラミッド型の組織図には表せないほど、今の組織が複雑化して各部署が絡み合った動きになっているのは事実で、それを何とか単純化して各人が理解した上で仕事をしていかないと、無駄は大きくなる一方であるのは十分理解できる。

要するに、縦と横の行列図にして、その相関を分かりやすく組織したいらしい。
部長が上手く説明できないのは、その組織図に表示されている用語がカタカナ用語ばかりで、英語音痴の部長にはその意味が分からないためであろう。
ストラジーとかソルーションとか、エスカレーションプロセス、コア・ファンクション、キーファンクションなどなど・・・。
言葉を聞いてどういうことかサッとイメージできる人と出来ない人では、理解度に天と地の開きが出来ることは言うまでもない。これに加えて、私も閉口しているアルファベット3文字の略語がはびこっている。
「abbreviation」というサイトで3文字略語を調べることは可能だが、その種類は膨大で、更に困ったことに社内だけで使用される3文字略語が実に豊富だ。更に更に困ることは、そのアルファベットの意味することを社員に聞いても、彼らのほとんどはそれを説明できないのだ。
少し前、経営者は「ガバナンス」とか、「コンプライアンス」という言葉を多用して悦に入っていたものだ。コンプライアンス、コンプライアンスと連発しながら、平気で談合だとかデータ改ざんだとか悪いことをし続けている。
鎖国を解いて外国の学問・技術を輸入し始めたとき、それまでの日本にはなかった概念が怒涛の如く流れ込んできた。「翻訳語」といわれる言葉は、当時の知識人が苦労してそれまでになかった概念を漢字で表した新語である。
このあたりの話が興味深く書かれた本が手元にある。「翻訳語成立事情」という岩波新書で、柳父 章という評論家がもう30年以上前に著した本だ。
「society」「individual」「right」はそれぞれ「社会」「個人」「権利」という意味で、今や誰も知っている言葉だが、これを江戸時代の人に見せても、みんな首をかしげるだけである。なぜなら、そのような概念は当時の日本にはなかったからである。
福沢諭吉などは「right」という言葉を「通義」と訳し広めようとしたが、成果は上がらず、今では「権利」という翻訳語が人口に膾炙している。
このように、新しい概念を漢字で翻訳してそれが定着していけば、みな同一のイメージを持って理解できるのだが、何せ今はその余裕がない。したがって、ほとんどがカタカナにするだけで目から感じてイメージすることができない。
洋画のタイトルなどその典型であるが、これは単にその業界の怠慢かもしれない。
経営者や管理職たちは、社員に理解を求める前に、こういう外来語を多用することをつつしみ、まずその言葉の意味を噛み砕いて説明し理解させることが大切なのではないか。
「何か分からないことがあったら、遠慮せず聞いてください。」と最後に部長は言っていたが、聞けば教えてくれるのかどうか・・・それはそこにいた部員達が一番分かっていたようだ。
何事かと思ったら、大きくなった会社組織の見直しに関する部長による講習だった。
パソコンをプロジェクターにつないで、ホワイトボードに画面を次々と映し、説明をするのだが、部長自身があまり良く理解していない様子で、二言目には、「このあたり、僕もよく理解していないので、後でまたよく見といてください。データの保管場所は後でメールでお知らせします。」と言っていた。
私のような老骨は、黙って見ているだけだったが、明らかに新組織の説明としては不十分で、部員はまったく理解できていないことは、彼らの表情を見れば一目瞭然であった。
部長は、上の役員から、大至急部員全員が新組織を理解するように講習会を大至急開き、それが終了したら講習参加者の署名と共に連絡せよ、と指示されたそうだ。
後で工場長がやってきて、部員が確かに理解しているかチェックするそうだ、とも言っていた。しかし、その割には説明がおろそかで、私は見ていて他の同僚たちが哀れであった。
そもそも新組織を図解した組織図のタイトルが「マトリックス体制」となっていて、ここの部員達の英語アレルギーの実態を知っている私には、「あちゃーっ、タイトルが理解できないだろうなあ・・」と最初から気が重くなった。

こんな風に単純化した図なら良かったのに、いきなりゴチャゴチャした図解が映されたので、全員スタートからチンプンカンプンだったようだ。
いわゆるピラミッド型の組織図には表せないほど、今の組織が複雑化して各部署が絡み合った動きになっているのは事実で、それを何とか単純化して各人が理解した上で仕事をしていかないと、無駄は大きくなる一方であるのは十分理解できる。

要するに、縦と横の行列図にして、その相関を分かりやすく組織したいらしい。
部長が上手く説明できないのは、その組織図に表示されている用語がカタカナ用語ばかりで、英語音痴の部長にはその意味が分からないためであろう。
ストラジーとかソルーションとか、エスカレーションプロセス、コア・ファンクション、キーファンクションなどなど・・・。
言葉を聞いてどういうことかサッとイメージできる人と出来ない人では、理解度に天と地の開きが出来ることは言うまでもない。これに加えて、私も閉口しているアルファベット3文字の略語がはびこっている。
「abbreviation」というサイトで3文字略語を調べることは可能だが、その種類は膨大で、更に困ったことに社内だけで使用される3文字略語が実に豊富だ。更に更に困ることは、そのアルファベットの意味することを社員に聞いても、彼らのほとんどはそれを説明できないのだ。
少し前、経営者は「ガバナンス」とか、「コンプライアンス」という言葉を多用して悦に入っていたものだ。コンプライアンス、コンプライアンスと連発しながら、平気で談合だとかデータ改ざんだとか悪いことをし続けている。
鎖国を解いて外国の学問・技術を輸入し始めたとき、それまでの日本にはなかった概念が怒涛の如く流れ込んできた。「翻訳語」といわれる言葉は、当時の知識人が苦労してそれまでになかった概念を漢字で表した新語である。
このあたりの話が興味深く書かれた本が手元にある。「翻訳語成立事情」という岩波新書で、柳父 章という評論家がもう30年以上前に著した本だ。
「society」「individual」「right」はそれぞれ「社会」「個人」「権利」という意味で、今や誰も知っている言葉だが、これを江戸時代の人に見せても、みんな首をかしげるだけである。なぜなら、そのような概念は当時の日本にはなかったからである。
福沢諭吉などは「right」という言葉を「通義」と訳し広めようとしたが、成果は上がらず、今では「権利」という翻訳語が人口に膾炙している。
このように、新しい概念を漢字で翻訳してそれが定着していけば、みな同一のイメージを持って理解できるのだが、何せ今はその余裕がない。したがって、ほとんどがカタカナにするだけで目から感じてイメージすることができない。
洋画のタイトルなどその典型であるが、これは単にその業界の怠慢かもしれない。
経営者や管理職たちは、社員に理解を求める前に、こういう外来語を多用することをつつしみ、まずその言葉の意味を噛み砕いて説明し理解させることが大切なのではないか。
「何か分からないことがあったら、遠慮せず聞いてください。」と最後に部長は言っていたが、聞けば教えてくれるのかどうか・・・それはそこにいた部員達が一番分かっていたようだ。