僕の家の近所には目白通りが通っているが、そこで久しぶりにルノー・メガーヌを見かけた。
この第2世代のメガーヌ、もともとそんなに台数が売れたクルマではなかったが、最近はすっかり姿を消した観がある。
この色はなんという名前だろう。バンパーの黒い樹脂の部分との対比が素敵だ。
クルマが古くなってもなお魅力を増していく、絶妙な色だと思う。
遠目ではあるが、ボディの状態も非常によく保たれているように見える。きっと大事に乗っているんだろうなと思う。
誰しも自分のオリジナルの暮らしを暮らしている中で、気に入ったクルマで生活を構成し、ますますクルマへの愛情が
深まっていく、その過程がとても愉しいと思う。このメガーヌのドライバーもきっとそんな思いを抱いている人ではないだろうか。
子どもの頃に過ごした、横浜市のとある団地に行った。
妻や家族はそれぞれ仕事や学校だったため、カメラ片手にひとりで出かけた。
実は僕は団地が好きだ。子どもの頃から僕はずっと団地で暮らした。
ひとくちに団地といっても建築様式によって何通りかに分類されると思うが、僕にとって団地といえば、
5階建ての棟がいくつも立ち並ぶスタイルの集合住宅である。僕はそんな団地ばかり3か所も移り住んだ。
そのうち2か所は山を切り拓いて開発された団地で、そのため近所のいたるところにちょっとした土手や崖があり、
子どもだった僕には起伏に富んだ地形が格好の遊び場だった。
これらの団地には必ずと言っていいほど住民が集まる商店街(現在のイオンモール的なものとはまったく別の、個人商店の集合体)
があり、郵便局や銀行、学校や図書館などがあって、ひとつの街が形成されていた。
しかし造成から数十年が経過し、入居者も歳を取っていまは空き家も目立ち、僕が子ども時代を過ごした頃の活気はもうない。
それでも建物の外壁はきれいに塗装され、公園や街路はとても清潔で、それが行き交う人々の少なさと相まって、とても独特な
不思議な雰囲気を生んでいる。
そんな団地を訪れると、子どもの頃の思い出とともに、容赦ない時間の経過を目のあたりにして、自分もまた日々老いていく
存在であることを実感するのだ。
団地内にはこうした公園が数多く配置される。いまとなっては遊具で遊ぶ子どももいない。
美しく、どこかさびしくもある町並み。子どもの頃はこの通りがものすごく広く、大きく見えたものだが。
写真には写っていないけれど、母親が通った眼科がこの通りの同じ場所にまだ残っていた。
隣の地区に位置する別の団地群。かつては住民たちが集ったであろう噴水。
空間の広がりを感じる巧みな造園術に感心。ここのショッピングセンターで、父親が三菱コルディアのミニカーを買ってくれた。
坂の多さゆえの立体的な街づくりが見てとれる。
神奈中バスのボディはいつからこの色をしているのか。子どもの頃と変わらぬ色合いがうれしい。
エクストレイルでの出張が続いている。
4月は自宅(東京)から静岡を経由し金沢へ、また別日程で自宅から名古屋、そして名古屋を起点に福井往復と、かなりのペースで距離を重ねた。
この稿を書いている現在、積算距離は84,000kmに届こうというところである。
エクストレイルでどこへ行ったか、その時どんな仕事に取り組んでいたか、何を思っていたか…等々を少しでも記録しておきたくて、できるだけその時の手がかりが写った画像を載せることにしている。誰のためでもなく自分のためなので、他人が見て面白いかどうかは考えないことにしている。
1枚目の写真は静岡で所用を済ませ、夜が来る前にどうにか目的地の富山に近づこうと、東海環状道を疾走しているところ。まだ明るいうちにこの道を走るのは初めてで景色が新鮮だったのを覚えている。
2枚目の写真は別日程で福井の街中。これも夕方が近づいてくる17時すぎの一枚。エクストレイルのハンサムな写りと、空を走る何本もの電線が面白くて載せる気になった。一日の予定を終えて緊張が解け、いまから名古屋へ向けて一走りするという楽しい状況で撮ったもの。
僕は子どもの頃、タクシー運転手になりたかった。クルマを走らせることが仕事だなんて最高だと考えたのである。
ひるがえって今の状況は、当時のもくろみをおそらくより良い形で実現できているわけで、それはとても幸運だと思う。
先週、出張先の静岡市内で久しぶりにP11プリメーラと出会えた。
僕の中では、R31スカイラインやC32ローレルと並んで残存率の高い日産セダンのひとつである。
特に、今回遭遇した初期型モデル・グレーメタリック塗色の車両は、いかにもP11プリメーラという気がする。
フロントフェンダーに「2.0」のデカールがないところをみると、1.8Ciだろう。
カミノではなく、あくまで欧州をこころざす本流プリメーラであるところがうれしい。
僕が大学に入った1995年に、このクルマは成功作であるP10型の後を襲って登場した。
非常に正統的な進化でありながら新型感も十分にたたえるデザインで、間違いのないフルモデルチェンジに思われた。
発表されてすぐ、僕のバイト先のガソリンスタンドにおろしたてのこのクルマで乗りつけた客がいたが、
心なしか彼の顔には、自分の選択に対する絶対的な自信がみなぎっていたことを覚えている。
好調な滑り出しにみえたP11型だったが、しかしクルマの評価は、P10型ほどには高まらなかった。
P10型のようなエッジな魅力(世界一のハンドリング性能を持つセダン)をアピールできなかったことがその原因だが、
僕はこのクルマをずっと心情的に応援し続けていた。
実は2007年ごろ、このクルマの5ドア仕様(英国生産の「プリメーラUK」である)、グレーメタリック塗装の車両が欲しくて
中古車をずいぶん探し回ったことがある。その時はよい縁に恵まれず、一方で新車に乗りたい気持ちもあってティーダを買うことになるのだが、
そんなわけで僕はいつも、このプリメーラを見ると人生における「選ばなかった道」について考えてしまうのだ。
以下、プロによる写真もぜひ載せたい。ライティングのおかげで陰影が効いてボディの質感が高い。またフロントとリアの表情に、日産の中の男っぽい部分がよく出ている。
リアコンビランプとパネルのバランスに、名人のセンスを感じる。「Primera」のロゴも格好良くて好きだ。
この頃はまだ昭和の日産魂がクルマに息づいている気がして、これを買って今日にいたるまで大事に乗るというのは、とても満たされた暮らしだろうなと思う。
名古屋へ出張。
名古屋に通うようになって1年がたつが、目的地の間をあわただしく移動するだけで、街並みをじっくり眺める余裕がなかった。
この日は名古屋支局の机を借りて事務作業をして、それが落ち着いたところで支局を出て、常宿に向かって歩いている、そんな一瞬だった。
時刻は18時頃だったか。歓楽街も近いこのエリアは、昼間の落ち着きをやめて、夜に向けてまた動き始めたようにも見える。
それにしてもこの空はどうだ。もう20年以上も前の映画で「バニラ・スカイ」というのがあった。その中で出てきた空と同じ色をしていると思った。
毎週のようにエクストレイルで長距離ツアーに出ている。今週も名古屋までの往復760kmをこなした。
僕は主夫でもあるので、在宅で仕事をする日は平行して家事もやる。子どもたちの夕食を作り、
彼らが食べ終えた皿を食洗器にセットし、その頃に仕事を終え帰宅する妻を駅まで迎えに行く。
妻をクルマで連れて帰り、ゴミ出しや洗濯物の畳みなど、残りの家事を片付けていると、時計は早くも
21時を指している。 そこから翌日の名古屋での仕事に備えて、夜のうちにクルマで現地に移動する。
新幹線で行けばいいようなものだが、家事を終わらせる頃には名古屋へ向かう新幹線がないから…
というのは言い訳で、要は運転の苦労を引き受けてもクルマで行きたいのだ。
この写真は往路、ちょうど日付が変わるころ、静岡あたりの連続するトンネルを走っている様子。
試しに撮った写真が案外に良い出来に思われたので、記録のために載せておく。
エクストレイルの室内はとても実用的だが、あまりにビジネスライクで少々雰囲気に欠けるきらいがある。
しかし最近は、80,000km走破を前にしてステアリングのテカリやシートのシワなどに、少しだけヤレた表情が
出てきたように思われて、それがうれしいのである。
今回の出張は、2日間名古屋に滞在、取引先の社長たちとの懇親会に参加し、ついでにその日は名古屋に後泊して、
翌日の早朝に帰京した。暗いうちに名古屋を出発、やはり静岡の掛川あたりから空が明るくなってきたので
休憩がてらクルマの外観を撮影。その際に、飛び石によるフロントガラスのキズに気づいてしばし落ち込む。
でも、こうしたキズも僕とクルマが時間(と距離)を重ねた証左なのであり、そう考えれば少しは救われるというものだ。
先日、富山へ出張した際、クルマを使って行った。
現地でレンタカーを借りることも考えたが、翌日に名古屋へ移動する必要があり、富山でクルマを借りて名古屋で
返却するとひどく不経済なので、自分のエクストレイルで行くことにした。
写真は、エクストレイルの後席でリモート会議をしたときにふと撮影した一枚。
エクストレイルの後席は存外に広く、バックレストをやや倒してアームレストを引き出すと、ちょっとしたラウンジ
気分が味わえる。出張中に適当な場所が確保できないとき、僕はしばしばエクストレイルの後席でPC作業やリモート会議をする。
そして僕は、この位置から見える、写真に写っているステアリングホイールのデザインが好きなのである。
このステアリングはT32型エクストレイルの前期型に使われていたもので、後期のD型も悪くないが、このステア
リングのスポーティさが気に入っている。デザインの質感と、ステアリングスイッチの使いやすさを両立しているのが良い。
この日、車内でリモート会議を終えたあと、激しい雨の降る北陸道を一路、名古屋まで走り抜いた。
名古屋に着いたときはすでに日付も変わっていたが、雨に洗われて綺麗になったボディを前に、僕は満足だった。
今日は、ある買い物をした。それが非常に納得のいく買い物だったので、少々唐突とは思うがここに記録しておきたい。
東プレが「REALFORCE」ブランドで出しているキーボードを買った。
REALFORCEは非常に様々な機種があり、自分に合ったものを選ぶのはどうしても慎重になるのだが、
2回におよぶ実機試し打ち(出張先のビックカメラ含む)と、競合製品との比較、あとはもちろん予算を考慮して、
キー押下圧30gの静音仕様、色はブラックに決めた(型番R3SA13)。
本当はアイボリー色のクラシカルな外観のものが欲しかったのだが、現在のラインナップには存在せず、
ブラックでもマット塗装とキーに印刷された文字の色味が悪くなかったのでそれにした。
なにせ税込み23,540円のキーボードであるから、実際に使ってみるまでは自分に合うかどうかヒヤヒヤものだったが、
使い始めてものの10分で、自分の選択は間違っていなかったことを確信した。鍵盤の上で指を縦横無尽に躍らせて、
それでいて狙った通りの文字があやまたず画面に映し出されるのは目にするのは、非常に快である。
こいつをしばらく使ってみようと思う。お金を払うときには、ああもうこれで引き返せないな…と思ったが、
幸いにも引き返すことにならずに済みそうである。
日産セレナ(C27型)のガソリン車を1か月借り受け、その間に3400kmほど乗り倒すという経験をした。
僕は東京に住むが、この1か月で浜松往復、名古屋往復、福井往復をそれぞれ何度か繰り返すうちに、気付けば相当な距離をこなしていた訳だ。
仕事での移動がメイン、また深夜時間帯を移動に充てたりしたため、車内でのPC事務作業や着替えなども何度か経験した。
結果、この種の大空間を持つクルマはどう使えばその真価を発揮するのか、よく理解できた。これは確かに、生活で生じるいろんなタスクをうまく処理していこうとする人にぴったりの道具である。
これについては稿を改めて深く考えてみたい。
写真は東海北陸道を移動中に撮ったもの。もちろん冬タイヤを履いている。記録のため写真も載せておく。
たまには自分のクルマも登場させようと思う。僕は日産エクストレイルに乗っており、現在オドメーターは66,000kmというところ。
それまでは日産ティーダに乗っていたが、家族で頻繁にキャンプに行くようになって、よりモノが積めるクルマが必要になり買い替えた。
僕は本来小さなクルマが好きで、ティーダに4人家族とそのキャンプ道具を満載し、ボディをうんと沈ませて300km先の目的地を目指すのがたまらなく楽しかったのだが、キャンプ道具というのは際限なく増殖していくもので、THULEのルーフボックスをもってしてもティーダでは積載能力が足りなくなったこと、またT32型エクストレイルのフロントマスクを憎からず思っていたこともあり、2014年にほぼ衝動買いに近い形で購入に至ったのだった。
僕は生来の貧乏性で、新しいクルマを最初から豪快に使うことができない。身銭を切って買ったにもかかわらず、「運転させていただきます」という気分で過剰なほど丁寧に乗る期間が1-2年ほど続いただろうか。どうやら当初の遠慮もなくなり、ようやく自分のものになった感覚が得られたのは30,000kmを超えたあたりからであった。
それにしてもこのフロントマスクは、日産はよくやったと思う。日産のファミリーグリル「Vモーション」の初期のもので、グリル中央の意匠だけでSUVの骨太感を十分に表現している。これがなければ、吊り目のヘッドライトをハニカムグリルで結んだだけの平凡な造形になってしまうが、バンパーにめり込むように配された彫りの深いVアクセサリー、ヘッドライト内の目力強いランプ配置、そして左右に水平なフード前端の見切り線とがあいまって、多くの共感を得られるハンサムな造形が完成した。
このフロントマスクは世界中で成功裡に受け入れられたが、同時にプロのデザイナーからも高く評価された。デザイン上の付加要素を最小限にとどめながら、日産車の独自性と、美しさまでもを両立させたことが、きわめて知的な仕事だというのだ。たとえばトヨタのデザインはアルファードのようにとにかく「付け足す」ことで形を成立させる傾向が強いが、日産はアリアに見られるように「削ぎ落とす」もしくは「最小限の付加」を強く意識していると感じられる。おそらく日産デザインの目指すところは「格好いい」にとどまらない「美しさ」にあるのだろう。僕はその志の高さ、目線の高さにとても共感するが、最大公約数のカスタマーから支持を得られるのは残念ながらやはりトヨタのデザインポリシーではないかと思う。アルファードの販売台数を示すだけでそれは証明できる。カスタマーの審美眼はプロのそれほど鋭くないし、鋭さを期待すべきでもない。それは僕にとってとても残念なことだが、一方でアルファードの意匠の下品さを最もよく知るのは、実は当のトヨタ自身なのである。
金沢へ出張した。現地での足として何を借りようかと案じ、そうだカローラはどうだろうと思い、今回借り出したのがカローラツーリング・ハイブリッドX。
最近出たような気がしていたが、調べたらすでに現行型が発売されて丸4年が過ぎていた。ひと昔前なら、もうフルモデルチェンジを迎える頃なのだ。
レンタカーだから非ハイブリッド仕様だろうと期待せずにいたが、嬉しい誤算だった。しかも今年7月に新車登録され、オドメーターもまだ5,000kmを刻んだばかりの新車であった。Aピラーの傾斜がきつく、乗り込むときに頻繁にピラーに髪が触れること、ドアを閉めるときに外板パネルのビビり音がすること、この2点が気になった。しかし、今回運転した180kmの行程のなかで、気になることといえば左記2点だけだったことも事実だ。動力性能は二重マル、室内空間も豊か、艤装の品質問題なし、各種操作系も気に障るところはない。内外装のデザインは好みの問題だが、フロントマスクとリアビューに見られる、十分個性的でありながら嫌われない造形のサジ加減は上手いと思う。
印象的なのは動力性能だ。1800ccガソリンエンジンとモーターの組み合わせは、実用車として十分すぎるパワーをこのクルマに与えており、出来の良いシャシーが余裕でそれを受け止める。調べてみるとハイブリッド車はリアサスにダブルウィッシュボーンを備えており、これが懐の深い走りに寄与しているようだ。実は石川の海沿いの道をここには書けない速度で走り、能登半島の山の中で縦横無尽にこのクルマを振り回したのだが、このクルマの柔にして剛のシャシーは、一瞬たりとも動きに破綻を見せず終始安定したパフォーマンスを発揮した。カローラといえば平穏な日常を支える道具として世界に浸透しているが、そんなクルマが(ハイブリッド仕様とはいえ)最廉価グレードにしてこれほどのドライビングプレジャーを持っているなんて、誰が想像できるだろう。
僕は1980年代の日本車が好きだ。特に昔から好きなクルマが、このホンダ・ワンダーシビックである。
僕は時々このクルマのカタログを取り出して眺めては、このクルマに乗る自分を想像してみたりする。
50歳が射程圏内となり、自分の生活のすべてを(オモチャではない)本物で構成したいと希う僕にとって、
このクルマがもう少し大人っぽい外観を備えていたら、僕はほんとにこのクルマを買ってしまうと思う。
このクルマが欲しい気持ちから、画像をあれこれ加工していたら下記のようなワンダーシビックができあがった。
こんなワンダーシビックがいま新車で買えたらなあと思う。これが買えたら、一生大切に乗るのだけど。
僕はときどき広島に出張する。高校の修学旅行で来て以来、約30年ぶりの広島は水の豊かな美しい街で、僕は高校生の時、広島という街を自分の中に刻み込まず、ただ通り過ぎてしまったことを深く恥じた。 広島出張のたび、僕は無理やりにでも自分の時間を作って、一人で街を歩くことにしている。
今回もそうやって市内を歩いていたら、きれいなマツダ・ランティスと遭遇した。
ランティスは2種類のボディを持っており、そのうち5ドアクーペ(以下クーペ)のほうはマニアックなファンが多くついた車種である。しかし、今回僕が遭遇した4ドアハードトップ(以下ハードトップ)は、さしてファンを抱えるわけでもなく、実際ここ何年も見かけたことはなかった。もはや日本を走る車両数もだいぶ少なくなっているのではないだろうか。
このクルマが発売されたのは1993年で、ハードトップと同時に投入されたクーペは、その外観デザインの美しさが話題となった。確かに、「323F」(日本名ファミリア・アスティナ)の発展形を思わせるハッチゲート付きのボディは凝縮感に富み、この手のスタイリッシュな車種の少ない欧州では日本以上に評判をとったとも聞いた。
それに対し、ハードトップは特に話題にならなかった。当時、世の中にはカローラセレス/スプリンターマリノ(トヨタ)、プレセア(日産)、エメロード(三菱)といった多くの「カリーナEDコンセプト」に基づく4ドア車があふれていたが、このハードトップもよくあるカリーナEDの亜種と受け止められた。実際、評論家筋の評判も冴えなかった。そしてそのまま時は流れ、背の低い4ドアという車型は誰にも見向きもされなくなっていくのだ。
久しぶりにまじまじとこのクルマを眺めると、ふくよかな曲面を湛えたボディがやけに美しく見える。当時はクセが強いと思ったリアコンビランプもさほど気にならない。セダンというボディに実用性を求めなくなって久しいが、そんな時代にあってカリーナEDコンセプトをマツダ流に解釈したこのクルマはなかなか魅力的だと思った。たしかにランティス・ハードトップは評論家からは高い評価を受けなかったが、日常の足として長きにわたりこのクルマを静かに愛しているオーナーのことを思うと、結局クルマなんて実際に自分の懐を痛めて買う人が、自分で気に入って好きに乗ればそれでいいのだという気がしてきた。誰が何を言おうと、このランティス・ハードトップとオーナーとの間に積み上げられた時間に他人がケチをつけることはできないのである。この広島で、僕が修学旅行で訪れた翌年に投入されたこのクルマと出会い、僕はこの30年間を一気に飛び超えた気持ちで広島の街中に立ち尽くしていた。
先日、日産サクラを見て以来、僕の中で日産の存在感が高まっている。
だから、今回奈良に出張したとき、現地の足として迷わずにノートe-POWERをレンタカーで借り出した。グレードは普及版の「S」である。
僕にとっては現行の「E13型」ノートe-POWERに乗るのはこれが初めてとなる。旧E12型のe-POWERモデルには何度か乗った経験があり、正直そのパワートレインには感心したわけではなかった。(E12ノートが2012年に出た時から、そのきれいなボディデザインには好印象を抱いていたが。)
ところが今回、京都で車両を受け取り、奈良までの高速道路の上で驚いた。
とにかく「速い」のである。そしてきわめて静粛のうちにその速さが実現するのだ。
0km/hから80km/hはあっという間。そして100km/hは単なる通過点で、120km/hで巡行体勢。ちなみにこの時点で、持てる力の6割程度しか使っていない印象だ。
さらにアクセルを踏み増すと、驚くべきことに140km/h以上のゾーンまでまったく苦しまずに速度を積み上げていくのだ。その時にはさすがにエンジン音が高まるが、エンジン音と車速がきちんとリンクして共に増加していくから違和感はない。僕にとって旧型ノートe-POWERで不満だったのは、アクセルを踏み込んでもスピードがついてこず、やたらにエンジン音が高まることだったから、新型の進歩は大いに気に入った。
ハンドリングは、軽快さをイメージしていたが、逆だった。どっしりしている。よく言えば大きいクルマに乗っているようにも思える。
エンジンとモーターの両方を搭載することでフロント荷重は相当に重いはずだ。それでも、分銅を振り回している感じはしない。そのかわり、マツダ車のようなステアリング操舵に敏感な感覚は薄い。ややナマクラな感じなのだ。 僕はこのナマクラな感じは嫌いではない。マツダ2(旧称デミオ)に乗った時、その敏感な操舵感が最初は面白かったが、1時間で飽きた。そして2時間経つ頃には、その敏感さが少々うとましく感じられ、運転に疲れたことがあるからだ。
マツダ2の、そういっては悪いが底の浅いハンドリングを思い出しながら、僕はノートのほうにより本格的な自動車らしさを感じた。日産はGT-RやZを擁しており、押しも押されぬスポーツカーメーカーだ。でありながら、実はノートのような実用車や、キャラバンのような荷役グルマこそクルマの本流だ、と考えている一派が社内にいるのではないかと想像する。彼らは、クルマのことをおもちゃと考えておらず、大衆の良き道具、暮らしを便利にする欠かせない道具と捉えているのではないだろうか。ノートの一見ナマクラな、しかし結果的にはリラックスして運転できるハンドリングからそんな想像をたくましくしているうちに、目的地の奈良市内に着いてしまったのである。
日産から新しい軽自動車が出てきて、名をサクラ SAKURAというそうな。
このサクラは100%電気自動車でもあるという。
これまで軽自動車にはあまり魅力を感じたことがなかったが、サクラには初めて購買欲をかきたてられたので、この週末は横浜の日産ギャラリーに行って実物を見てきた。
これまでの軽自動車の歴史を振り返って、僕が欲しいと思ったクルマは、初代トゥデイと現行ジムニーぐらいだろうか。そのほかにも、いいなと思ったクルマがないわけではないが… 上に挙げた2車は、軽自動車というより、「たまたま軽に分類されている、よくできたコンパクトカー」だと思う。
日産サクラは、初代トゥデイと現行ジムニーに続く、欲しいと思える軽自動車である。このサイズで美しいデザイン完成させたことがすごいと思う。フロントマスクはアリア顔で、評判が悪かろうはずもないが、このクルマの最大の白眉はリアビューである。軽のサイズでクルマをデザインしようと思うと、どうしても可愛らしさに逃げがちとなるが、日産のデザイナーはこのサイズでも大人の鑑賞に耐える意匠ができることを証明したと思う。
このクルマの外観が自動車としての魅力を十分に備えていることは納得したので、あとは電気自動車としての性能になるが、これはあまり期待するのは酷だろうと思う。僕は会社から貸与されたリーフに業務用途で1年間/5,000km乗った経験があるが、電気自動車はまだ不便だなという立場の者である。車両供給難の昨今、サクラがレンタカーとして配備されるのは少し時間がかかると思うが、ディーラーの短時間の試乗ではなく、数日間ほど腰を据えて乗ってみたいと思っている。
ホンダ 初代トゥデイ