三菱トレディアの続きである。写真は、欧州向け仕様を真横から見たものだが、よく見ると、非常に注意深くデザインされた痕跡が認められる。
具体的には、ノーズ・キャビン・デッキのバランスの巧みさ。ドアの切り方と、窓の形状。ボディ同色のセンターピラー。後輪に被さるホイールハウス。 Cピラー根元に配したエアダクト。その全てに、デザイナーの強すぎるほどのこだわりを感じるではないか。この細部のこだわりは、もっと評価されるべきだろう。デザイナーのこれらのこだわりは見事報われて、一台の端正な実用車が生まれた。おそらく彼は、クルマとは、それが実用車であっても、美しくあるべきと信じて自らの仕事を成したのだ。
特に触れたいのは、トレディアの外観を特徴づける後輪のホイールハウスだ。これは明らかにフランス車を意識したデザイン言語だが、当時の三菱のデザイナーの中には、フランス車的なデザインに傾倒し、熱心に勉強した人がいたのだろう。彼はどんな想いを持ってこのクルマに向き合ったのだろうか… と、そんなことを想像させるクルマである。そういえば、この翌年に投入された2世代目のミラージュも、ボンネットフードの切り方にフランス車を感じさせた。
トレディアは、もはや知る人の少ない、知る人にも失敗作としてのみ記憶されている、そんなクルマである。だが、実はそのはかなげなボディには確かな美が宿っており、その控えめながらも独自の存在感は、いまだに見るべきものがあり、このまま忘れ去られてしまうのはあまりに惜しいと、僕には思えるのだ。
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このトレディアの画像を眺めているうちに、僕はあることを実験してみたくなり、自分のThinkPad X260を立ち上げて、小一時間ほどかかって画像を加工してみた。その成果が、以下に掲げる加工後の画像である。ベージュのボディカラーと相まって、これで一気にフランス車、それも70年代のルノー風となった。せっかくの美しいボディを崩すことにはなったものの、これはこれで憎めない味が出て、満足している。