狸便乱亭ノート

抽刀断水水更流 挙杯消愁愁更愁
          (李白)

S先生の書

2007-04-03 10:01:31 | 日録




 s先生は、学校の教師でもなければ、議員さんでもない。お医者さんである。ボクの主治医でもあった。今でも小さな街の開業医である。しかし傍らの作家活動のほうが著名になってしまって、著作物の執筆の時間や、講演依頼等を含めると、診療時間はかなり制限されてしまっている。
 先生は絵も描くが、毛筆も堪能である。診察室でも「カルテ」こそボールペンで書くが、手紙やはがき等は、すべて毛筆である。勿論著作の原稿は、パソコンで打つ。それ以外は、提携病院への紹介状ですら、すべて毛筆であった。

 封書であるから、宛名が毛筆で、中の紹介状(今はそれぞれの病院で、記入形式の決まった、症状情報の内容に決まっている様だが)がポールペンでは先生の意に沿わなかったのかも知れないし、先生は毛筆ですらすらっと認めたほうが、労力的にも楽なように見えた。

 ボクもs先生の紹介状で、その病院では、約1ヶ月の入院生活もした。その後の紹介状の窓口に当たる主治医は、決まって呼吸器専門の内科女医さんであった。
「血痰」でお世話になった。
 症状は心配ないという診断だったが、女医先生ボクに、
「どんな、ご返事を書いたら良いでしょう?」と笑っておられた。
「紹介状読めましたか?」と小声で尋ねてみたら、
「とても、とても。s先生は芸術院会員ですから…。」
返信には、大分時間をかけ神経を使っている御様子がありありとわかった。