狸便乱亭ノート

抽刀断水水更流 挙杯消愁愁更愁
          (李白)

筑波山

2007-04-05 21:40:50 | 本・読書


関東の名山といわれる筑波山の容姿は、山を中心にして、東・西・南・北から眺めてみて、ひとそれぞれの好みにも依るが、ボクはこのカメラアングルがいちばん好きだ。

 この写真は、連日のように筑波山周辺の「花」を撮り続けている、T氏から送られてきたものである。
撮影した場所については触れられていないが、恐らく西側から撮ったものと想像出来る。筑波山の枕詞になっている「ふたなみ」男体、女体の双峰が重なるようになっているからである。
 もう少し場所を南に移すと、長塚節の「土」に出てくる舞台となるが、勿論現在では、その小説に描かれている頃をイメージすることは全く出来ない。

尤も、〝長塚節〟を知らない人も多くなってしまい、〝長塚ブシ〟と民謡と感違えする人も多いとか…、昭和も遠くなったけれど、明治は更に更に遥か彼方となってしまった。

長編小説『土』は、明治43年(1910)に『東京朝日新聞』に連載されたもので、ボクの中学1年の時の『国語』教科書に載っていたが、岩波文庫の『土』は所持しているけれど、まだ読み終えていない。

      
小春の岡    長塚 節
 小春の日光は岡の畑いっぱいにさしてゐる。岡は田と檪林と鬼怒川の土手とで囲まれ、他の一方は村から村へ通ふ街道へ傾いてゐる。
 田は岡に添うて狭く連なってゐる。田圃を越して、竹薮交じりの村の林が
田に添うて延びてゐる。竹薮の間から草家がぽつぽつと見えかくれする。箒草を中途から伐り離したやうに枝をひろげた欅の木が、そこにもこゝにもすくすくと突ったってゐる。
 田にはもう掛稲は稀で、竹の「をだ」だけがまだ外されずに立ってゐる。「をだ」には黄昏に鴨でも来てとまる位のことだろう。見るから寂しげである。
(中略)土手の篠に上には、対岸の松林が連なって見える。更にその上には、筑波山が一脚を張り、他の一脚を上流まで伸ばして聳えてゐる。小春の筑波山は、常盤木の部分を除いては赭く焦げたやうである。その赭い頂上に、點を打ったやうに観測所の建物がぽっちりと白く見える。やゝ不透明な空気は、針の尖でつゝくやうに其の白い一點を際立って眼に映じさせる。(「国語」巻二岩波書店)