インフレーションの語源は、市場に牛を売り行く前に、その牛に塩を食べさせ、塩辛くて喉が渇いた牛が、市場に出る前にガブガブと水を沢山飲んで体重が増えたために、実際の牛の重量より膨らませて儲かったという、”実際の価値より膨らませる”という経済用語です。また、この逸話は余りにも有名で、ご存じの方々も多いと思います。
さて、昨今石油価格をはじめとする資源の価格や農産物価格が軒並み上昇して、その実態価値より膨らんでいる値段となるインフレーションが起こっているようです。こんなインフレーションになると、我々庶民の基本生活費である食費や光熱費が上がってしまい、家計が赤字になっているご家庭が多いと思います。特に、虎の子の退職金を少しずつ崩して生活されていらっしゃる年金生活者の方々やパート労働者、派遣労働者の方々にとっては、日に日に切実、深刻な状態になって来ていることかと思います。こんなロクでもないインフレという、ある意味では人為的な悪魔のような経済の動きですが、実は得をしている人々が結構いるのです。えっ!、そんな人達もいるの?得をしている人達はみんな悪い人達ばかり?なんて思われる方々も多いかと思いますが、実際には投機筋や便乗値上げで儲けている人達ばかりが得をする訳でもないのです。
例えば、住宅ローンを固定金利で借りていらっしゃる方々などは、インフレが加速すればする程、金利ギャップが大きくなって、実質金利や返済額そのものさえが軽減されてしまいます。極端な話、2,000万円の借金が年7%程度のインフレ率でも、10年で元金が半減してしまいます。しかし、最も得をする者がいます。それも生半可な数値ではない程得をするのです。そんな人って居るのかって?ええ、本当にいます。
それは、何と我が日本国政府なのです!えっ!何で政府が得をするの?って思われる方々が多いでしょうが、実はインフレで一番得をするのが日本政府なのです。それも、自国通貨の乱発の通貨インフレによる国家の信用失墜ではないインフレならば、日本政府は本当に得をします。
もう、皆さんお分かりですよね。そう、日本政府には500兆円以上にのぼる借金があるのです。それも、今の税制や財政状態ではとても返済の見通しが立てられない金額なのです。国民一人当たり400万円ほどの負担ですから、それぞれのご家庭に別途住宅ローンがあるのようなものです。
ところが、これが、インフレが進むと加速度的軽減されてしまいます。途中、金利負担で一時的に苦しく見えることもありますが、ちょっとだけ通貨や国債を増発してしまえば、さらっと躱せてしまいます。先ほどの年7%程度のインフレだと、国民所得も数値上はどんどん増えますから、見た目の税収金額がどんどんと増えて国の借金が10年で半減されてしまいます。特に、日本のように対外債務のない国家で、国債の累積発行額が多い国にとっては、実はインフレは大歓迎なのです。
ひと頃、一部の経済学者がインフレターゲットなどと言っていましたが、実は政府にとって莫大なメリットがあったからこそ、こういった発言が続いていたのです。
でも、インフレは概ね、一般の国民にとっては誠に辛いことばかりです。物価の上昇に比べて給料がさほど上がらず、実質的に所得減になり生活が苦しくなります。また、高齢者にとっては事態はもっと深刻です。虎の子の退職金や預貯金がどんどん目減りします。物価上昇のペースに、年金支給額だけでは到底追い着きません。勤労者も同じです。やっと手に入れたマイホームを変動金利で借りた場合、その住宅ローンの金利はどんどん上がって行き、利息が払えずに破綻寸前になる方々も沢山出てくることでしょう。そんな、国民の辛苦ばかりの中で、政府、それも財政当局だけがほくそ笑んでいるとしたら、皆さんは政府を本当に許せるのでしょうか?