江戸時代の旅人は急な坂道を登ってきて、視界が開ける峠で一息つきました。そこには峠の茶屋があり、四方を見渡しながら、旅の疲れを癒したものです。現代でも、ドライブインなどがあって眺望の素晴らしさを感じさせるところが多いと思います。はるかに下界を見下ろしていると、気分爽快!心に刻まれる旅の思い出になるのでは....?
日本列島は山また山の地帯が多く、必然的にそこを通る道は峠を越えていくことになります。昔から峠は難所で、無事に越えられることを願って、神が祭られたりしていました。また、分水嶺ともなり、境界ともなってひとつの区切りとなっていました。したがって、争いの場となり、古戦場となっているところもいくつかあります。関所がおかれ、通行が制限された時代もあります。眺望のよさだけでなく、信仰や歴史を感じさせるのも峠なのです。
そんな中で、井出孫六が、1982年(昭和57)に発表した随筆「日本百名峠」には、日本の素晴らしい峠が選ばれていますので、ぜひ旅行の際に、訪れてみることをお勧めします。
〇「日本百名峠」とは?
井出孫六が、昭和時代後期の1982年(昭和57)に、桐原書店から刊行した随筆の書名で、その中で紹介された100の峠のことを指します。選定の基準は、景観や歴史、峠にまつわるエピソードなどを考慮して、全国千余に及ぶなかから470余の峠を拾い出し、1道1都2府43県からくまなく峠の代表を選出する事を原則として、100峠を選び出したものでした。
☆「日本百名峠」の中のお勧め
(1)発荷峠(秋田県鹿角市・鹿角郡小坂町)標高631m
秋田県の大湯温泉側から曲がりくねった山道を登ってきて、峠から見る十和田湖は緑のなかに紺碧の湖水をたたえ、その美しさは例えようもありません。十和田八幡平国立公園に指定され、東北では3番目の広さがある十和田湖は、周囲46.0km、面積61.1k㎡、最大水深327.0m(日本第3位)で、紅葉の素晴らしいところでした。ここから、湖におりる道はヘアピンカーブの連続です。
(2)暮坂峠(群馬県吾妻郡中之条町)標高1,086m
ここは、標高1,086mの高所に位置するので冷涼で、峠の茶屋もあって一服休憩することもできますが、若山牧水著『みなかみ紀行』に描かれていることで有名です。文中では、雪景色の中を沢渡温泉に向かって、弟子の門林兵治(文中ではK-君)と2人徒歩で越えたところです。牧水は、「...やがてひろびろとした枯芒の原、立枯の楢の打続いた暮坂峠の大きな沢に出た。」と印象を書いています。草津温泉から暮坂峠を越え沢渡温泉に至る道端には、その文中に挿入された歌の碑がたくさん立てられ、自然環境もよく残されていて、当時の旅を追想させる所です。別に、この時の印象を詠った「枯野の旅」という詩が残されていて、これを刻んだ立派な詩碑と牧水の旅姿の像が、1957年(昭和32)峠に立ちました。牧水が通った10月20日には毎年ここで、盛大な牧水祭が催され、牧水ゆかりの人々が集い、「枯野の旅」の詩の朗読があり、参加者にはナメコ汁が振る舞われるそうです。
(3)碓氷峠(長野県北佐久郡軽井沢町・群馬県安中市)標高1,180m
旧中山道の峠で、長野・群馬の県境に熊野神社があり、その前にちょうど県境にまたがって建っていた茶屋「しげの屋」で食べた名物ちから餅の味は忘れられません。そばにある見晴台からの眺望はすばらしいのです。近くのJR線は以前はアプト式で越えた難所でしたが、長野行き新幹線の開通とともに軽井沢と横川間は廃止されてしまいました。
(4)野麦峠(岐阜県高山市・長野県松本市)標高1,672m
昔、飛騨から信濃へ製糸女工が徒歩で越えてきた峠で、『ああ野麦峠』のタイトルで映画・ルポルタージュとしても知られています。峠からの乗鞍岳の眺望がすばらしいのですが、飛騨から信州へ向かう最大の難所で、標高1672mあり、冬期に越えるのは至難で、谷底に転落したり、病で倒れる工女が多数いました。峠にはお助け小屋が復元され、石地蔵や供養塔が残り、また、「野麦峠の館」には、当時の峠越えを再現したコーナーもあり、当時の厳しかった野麦越えの旅を追想させてくれます。晴れれば、乗鞍岳の眺望がすばらしく、『あゝ野麦峠』の碑も立っています。
(5)倶利伽羅峠(富山県小矢部市・石川県河北郡津幡町)標高277m
旧北陸街道の峠ですが、源平の古戦場の一つとして知られています。この戦いは、1183年(寿永2)5月に源義仲軍と平維盛率いる平家軍との間で戦われました。この攻撃で義仲軍が数百頭の牛の角に松明をくくりつけて敵中に向け放つという奇策を行い、平家軍は、将兵が次々に谷底に転落して壊滅し、平維盛は命からがら京へ逃げ帰ったとされています。周辺には、平維盛の本陣が置かれた猿ヶ馬場や倶利伽羅不動寺、五社権現、源平供養塔などがあります。
(6)宇津ノ谷峠(静岡県静岡市・藤枝市)標高151m
中世から交通の要衝として和歌にも詠われ、現在でも、蔦の細道、旧東海道、明治のトンネル、宇津ノ谷隧道(昭和第一トンネル)、新宇津ノ谷隧道(昭和第二トンネル)、平成宇津ノ谷トンネルと6つの峠越えルートがありますが、古代から中世の古道である蔦の細道で越えてみたいところです。阿仏尼は、鎌倉時代の1279年(弘安2)10月25日に宇津の山(宇津ノ谷峠)越えましたが、『十六夜日記』には、ここで同行していた阿闍梨(阿仏尼の実子)の知り合いである山伏に行き会い、2首の歌を添えた都への手紙を託したと書かれています。阿仏尼一行が通ったと思われる古道が今も残されていて、「蔦の細道」として遊歩道となっていますが、当時の雰囲気がよく残り、道の険しさを追想できるところでした。この道は、『伊勢物語』に書かれて以来、多くの旅人が歌を詠んでいて、峠には在原業平の歌碑が建てられています。また、藤枝市側の登り口にある「つたの細道公園」には、ここに縁のある歌人の木製で作られた歌碑が並んでいます。尚、このルートは、2010年(平成22)に国の史跡「東海道宇津ノ谷峠越」に指定されました。
(7)磨針峠(滋賀県彦根市)標高170m
中山道の鳥居本の宿場を過ぎると旧街道は右手の山のほうへ登っていき、磨針峠(摺針峠)を越えます。その一番高い所に摺針明神があり、ここからの眺望はすばらしものでした。琵琶湖が一望のもとに見渡され、江戸方面から峠を登ってきた旅人は目を見張ったに違いありません。安藤広重の版画にも描かれている中山道の名所でもありました。
☆「日本百名峠」一覧
1 石北峠(北海道上川郡上川町・北見市)
2 美幌峠(北海道網走郡美幌町・川上郡弟子屈町)
3 狩勝峠(北海道空知郡南富良野町・上川郡新得町)
4 発荷峠(秋田県鹿角市・鹿角郡小坂町)
5 矢立峠(青森県平川市・秋田県大館市)
6 八幡平(岩手県八幡平市・秋田県鹿角市・仙北市)
7 国見峠(岩手県岩手郡雫石町・秋田県仙北市)
8 笛吹峠(岩手県遠野市・釜石市)
9 五輪峠(岩手県花巻市・遠野市・奥州市)
10 仙人峠(岩手県遠野市・釜石市)
11 花立峠(山形県最上郡最上町・宮城県大崎市)
12 山刀伐峠(山形県最上郡最上町・尾花沢市)
13 板谷峠(山形県米沢市・福島県福島市)
14 笹谷峠(宮城県柴田郡川崎町・山形県山形市)
15 苅田峠(宮城県刈田郡蔵王町・七ヶ宿町・山形県上山市)
16 金山峠(宮城県刈田郡七ヶ宿町・山形県上山市)
17 大内峠(福島県大沼郡会津美里町・会津若松市・南会津郡下郷町)
18 六十里越(福島県南会津郡只見町・新潟県魚沼市)
19 金精峠(栃木県日光市・群馬県利根郡片品村)
20 細尾峠(栃木県日光市)
21 三国峠(群馬県利根郡みなかみ町・新潟県南魚沼郡湯沢町)
22 暮坂峠(群馬県吾妻郡中之条町)
23 十石峠(群馬県多野郡上野村・長野県南佐久郡佐久穂町)
24 十文字峠(埼玉県秩父市・長野県南佐久郡川上村)
25 雁坂峠(埼玉県秩父市・山梨県山梨市)
26 妻坂峠(埼玉県飯能市・秩父郡横瀬町)
27 境ノ明神峠(茨城県久慈郡大子町・栃木県那須郡那珂川町)
28 横根峠(千葉県鴨川市・富津市・安房郡鋸南町)
29 小仏峠(東京都八王子市・神奈川県相模原市)
30 御殿峠(東京都八王子市・町田市)
31 足柄峠(神奈川県南足柄市・静岡県駿東郡小山町)
32 長尾峠(神奈川県足柄下郡箱根町・静岡県御殿場市)
33 大菩薩峠(山梨県甲州市・北都留郡小菅村)
34 御坂峠(山梨県笛吹市・南都留郡富士河口湖町)
35 鳥井峠(新潟県東蒲原郡阿賀町・福島県耶麻郡西会津町)
36 倶利伽羅峠(富山県小矢部市・石川県河北郡津幡町)
37 朴峠(富山県南砺市)
38 谷峠(石川県白山市・福井県勝山市)
39 木の芽峠(福井県南条郡南越前町・敦賀市)
40 野麦峠(岐阜県高山市・長野県松本市)
41 大門峠(長野県茅野市・小県郡長和町)
42 関田峠(長野県飯山市・新潟県上越市)
43 針ノ木峠(長野県大町市・富山県中新川郡立山町)
44 修那羅峠(長野県東筑摩郡筑北村・小県郡青木村)
45 徳本峠(長野県松本市)
46 和田峠(長野県小県郡長和町・諏訪郡下諏訪町)
47 碓氷峠(長野県北佐久郡軽井沢町・群馬県安中市)
48 杖突峠(長野県茅野市・伊那市)
49 権兵衛峠(長野県塩尻市・上伊那郡南箕輪村)
50 鳥居峠(長野県塩尻市・木曽郡木祖村)
51 馬籠峠(長野県木曽郡南木曽町・岐阜県中津川市)
52 青崩峠(長野県飯田市・静岡県浜松市)
53 天城峠(静岡県伊豆市・賀茂郡河津町)
54 宇津ノ谷峠(静岡県静岡市・藤枝市)
55 本坂峠(愛知県豊橋市・静岡県浜松市)
56 伊勢神峠(愛知県豊田市)
57 鈴鹿峠(三重県亀山市・滋賀県甲賀市)
58 長野峠(三重県津市・伊賀市)
59 磨針峠(滋賀県彦根市)
60 花折峠(滋賀県大津市)
61 堀越峠(京都府南丹市・福井県大飯郡おおい町)
62 京見峠(京都府京都市)
63 箕峠(和歌山県伊都郡かつらぎ町)
64 札立峠(和歌山県有田郡有田川町・海草郡紀美野町)
65 暗峠(奈良県生駒市・大阪府東大阪市)
66 芋峠(奈良県高市郡明日香村・高取町・吉野郡吉野町・大淀町)
67 伯母子峠(奈良県吉野郡野迫川村・十津川村)
68 洞ヶ峠(大阪府枚方市・京都府八幡市)
69 竹ノ内峠(大阪府南河内郡太子町・奈良県葛城市)
70 和泉葛城越 (大阪府岸和田市・和歌山県紀の川市)
71 船坂峠(兵庫県赤穂郡上郡町・岡山県備前市)
72 鍵掛峠(鳥取県西伯郡伯耆町・日野郡江府町)
73 四十曲峠(鳥取県日野郡日野町・岡山県真庭郡新庄村)
74 赤名峠(島根県飯石郡飯南町・広島県三次市)
75 乙女峠(島根県鹿足郡津和野町)
76 人形峠(岡山県苫田郡鏡野町・鳥取県東伯郡三朝町)
77 物見峠(岡山県津山市・鳥取県八頭郡智頭町)
78 上根峠(広島県安芸高田市)
79 欽明寺峠(山口県岩国市)
80 桟敷峠(徳島県三好市・三好郡東みよし町)
81 三坂峠(愛媛県松山市・上浮穴郡久万高原町)
82 地芳峠(高知県高岡郡檮原町・愛媛県上浮穴郡久万高原町)
83 相栗峠(香川県高松市・徳島県美馬市)
84 八木山峠(福岡県飯塚市・糟屋郡篠栗町)
85 冷水峠(福岡県飯塚市・筑紫野市)
86 仲哀峠(福岡県京都郡みやこ町・田川郡香春町)
87 三瀬峠(佐賀県佐賀市・福岡県福岡市)
88 仁田峠(長崎県雲仙市・南島原市)
89 日見峠(長崎県長崎市)
90 高森峠(熊本県阿蘇郡高森町・上益城郡山都町)
91 日ノ尾峠(熊本県阿蘇市・阿蘇郡高森町)
92 湯山峠(熊本県球磨郡水上村・宮崎県東臼杵郡椎葉村)
93 岳滅鬼峠(大分県日田市・福岡県田川郡添田町)
94 鉾立峠(大分県竹田市)
95 三国峠(大分県豊後大野市・佐伯市)
96 国見峠(宮崎県西臼杵郡五ヶ瀬町・東臼杵郡椎葉村)
97 中山峠(宮崎県東臼杵郡椎葉村)
98 耳取峠(鹿児島県南さつま市)
99 本茶峠(鹿児島県奄美市・大島郡龍郷町)
100 多幸山フェーレー岩(沖縄県中頭郡読谷村)
日本列島は山また山の地帯が多く、必然的にそこを通る道は峠を越えていくことになります。昔から峠は難所で、無事に越えられることを願って、神が祭られたりしていました。また、分水嶺ともなり、境界ともなってひとつの区切りとなっていました。したがって、争いの場となり、古戦場となっているところもいくつかあります。関所がおかれ、通行が制限された時代もあります。眺望のよさだけでなく、信仰や歴史を感じさせるのも峠なのです。
そんな中で、井出孫六が、1982年(昭和57)に発表した随筆「日本百名峠」には、日本の素晴らしい峠が選ばれていますので、ぜひ旅行の際に、訪れてみることをお勧めします。
〇「日本百名峠」とは?
井出孫六が、昭和時代後期の1982年(昭和57)に、桐原書店から刊行した随筆の書名で、その中で紹介された100の峠のことを指します。選定の基準は、景観や歴史、峠にまつわるエピソードなどを考慮して、全国千余に及ぶなかから470余の峠を拾い出し、1道1都2府43県からくまなく峠の代表を選出する事を原則として、100峠を選び出したものでした。
☆「日本百名峠」の中のお勧め
(1)発荷峠(秋田県鹿角市・鹿角郡小坂町)標高631m
秋田県の大湯温泉側から曲がりくねった山道を登ってきて、峠から見る十和田湖は緑のなかに紺碧の湖水をたたえ、その美しさは例えようもありません。十和田八幡平国立公園に指定され、東北では3番目の広さがある十和田湖は、周囲46.0km、面積61.1k㎡、最大水深327.0m(日本第3位)で、紅葉の素晴らしいところでした。ここから、湖におりる道はヘアピンカーブの連続です。
(2)暮坂峠(群馬県吾妻郡中之条町)標高1,086m
ここは、標高1,086mの高所に位置するので冷涼で、峠の茶屋もあって一服休憩することもできますが、若山牧水著『みなかみ紀行』に描かれていることで有名です。文中では、雪景色の中を沢渡温泉に向かって、弟子の門林兵治(文中ではK-君)と2人徒歩で越えたところです。牧水は、「...やがてひろびろとした枯芒の原、立枯の楢の打続いた暮坂峠の大きな沢に出た。」と印象を書いています。草津温泉から暮坂峠を越え沢渡温泉に至る道端には、その文中に挿入された歌の碑がたくさん立てられ、自然環境もよく残されていて、当時の旅を追想させる所です。別に、この時の印象を詠った「枯野の旅」という詩が残されていて、これを刻んだ立派な詩碑と牧水の旅姿の像が、1957年(昭和32)峠に立ちました。牧水が通った10月20日には毎年ここで、盛大な牧水祭が催され、牧水ゆかりの人々が集い、「枯野の旅」の詩の朗読があり、参加者にはナメコ汁が振る舞われるそうです。
(3)碓氷峠(長野県北佐久郡軽井沢町・群馬県安中市)標高1,180m
旧中山道の峠で、長野・群馬の県境に熊野神社があり、その前にちょうど県境にまたがって建っていた茶屋「しげの屋」で食べた名物ちから餅の味は忘れられません。そばにある見晴台からの眺望はすばらしいのです。近くのJR線は以前はアプト式で越えた難所でしたが、長野行き新幹線の開通とともに軽井沢と横川間は廃止されてしまいました。
(4)野麦峠(岐阜県高山市・長野県松本市)標高1,672m
昔、飛騨から信濃へ製糸女工が徒歩で越えてきた峠で、『ああ野麦峠』のタイトルで映画・ルポルタージュとしても知られています。峠からの乗鞍岳の眺望がすばらしいのですが、飛騨から信州へ向かう最大の難所で、標高1672mあり、冬期に越えるのは至難で、谷底に転落したり、病で倒れる工女が多数いました。峠にはお助け小屋が復元され、石地蔵や供養塔が残り、また、「野麦峠の館」には、当時の峠越えを再現したコーナーもあり、当時の厳しかった野麦越えの旅を追想させてくれます。晴れれば、乗鞍岳の眺望がすばらしく、『あゝ野麦峠』の碑も立っています。
(5)倶利伽羅峠(富山県小矢部市・石川県河北郡津幡町)標高277m
旧北陸街道の峠ですが、源平の古戦場の一つとして知られています。この戦いは、1183年(寿永2)5月に源義仲軍と平維盛率いる平家軍との間で戦われました。この攻撃で義仲軍が数百頭の牛の角に松明をくくりつけて敵中に向け放つという奇策を行い、平家軍は、将兵が次々に谷底に転落して壊滅し、平維盛は命からがら京へ逃げ帰ったとされています。周辺には、平維盛の本陣が置かれた猿ヶ馬場や倶利伽羅不動寺、五社権現、源平供養塔などがあります。
(6)宇津ノ谷峠(静岡県静岡市・藤枝市)標高151m
中世から交通の要衝として和歌にも詠われ、現在でも、蔦の細道、旧東海道、明治のトンネル、宇津ノ谷隧道(昭和第一トンネル)、新宇津ノ谷隧道(昭和第二トンネル)、平成宇津ノ谷トンネルと6つの峠越えルートがありますが、古代から中世の古道である蔦の細道で越えてみたいところです。阿仏尼は、鎌倉時代の1279年(弘安2)10月25日に宇津の山(宇津ノ谷峠)越えましたが、『十六夜日記』には、ここで同行していた阿闍梨(阿仏尼の実子)の知り合いである山伏に行き会い、2首の歌を添えた都への手紙を託したと書かれています。阿仏尼一行が通ったと思われる古道が今も残されていて、「蔦の細道」として遊歩道となっていますが、当時の雰囲気がよく残り、道の険しさを追想できるところでした。この道は、『伊勢物語』に書かれて以来、多くの旅人が歌を詠んでいて、峠には在原業平の歌碑が建てられています。また、藤枝市側の登り口にある「つたの細道公園」には、ここに縁のある歌人の木製で作られた歌碑が並んでいます。尚、このルートは、2010年(平成22)に国の史跡「東海道宇津ノ谷峠越」に指定されました。
(7)磨針峠(滋賀県彦根市)標高170m
中山道の鳥居本の宿場を過ぎると旧街道は右手の山のほうへ登っていき、磨針峠(摺針峠)を越えます。その一番高い所に摺針明神があり、ここからの眺望はすばらしものでした。琵琶湖が一望のもとに見渡され、江戸方面から峠を登ってきた旅人は目を見張ったに違いありません。安藤広重の版画にも描かれている中山道の名所でもありました。
☆「日本百名峠」一覧
1 石北峠(北海道上川郡上川町・北見市)
2 美幌峠(北海道網走郡美幌町・川上郡弟子屈町)
3 狩勝峠(北海道空知郡南富良野町・上川郡新得町)
4 発荷峠(秋田県鹿角市・鹿角郡小坂町)
5 矢立峠(青森県平川市・秋田県大館市)
6 八幡平(岩手県八幡平市・秋田県鹿角市・仙北市)
7 国見峠(岩手県岩手郡雫石町・秋田県仙北市)
8 笛吹峠(岩手県遠野市・釜石市)
9 五輪峠(岩手県花巻市・遠野市・奥州市)
10 仙人峠(岩手県遠野市・釜石市)
11 花立峠(山形県最上郡最上町・宮城県大崎市)
12 山刀伐峠(山形県最上郡最上町・尾花沢市)
13 板谷峠(山形県米沢市・福島県福島市)
14 笹谷峠(宮城県柴田郡川崎町・山形県山形市)
15 苅田峠(宮城県刈田郡蔵王町・七ヶ宿町・山形県上山市)
16 金山峠(宮城県刈田郡七ヶ宿町・山形県上山市)
17 大内峠(福島県大沼郡会津美里町・会津若松市・南会津郡下郷町)
18 六十里越(福島県南会津郡只見町・新潟県魚沼市)
19 金精峠(栃木県日光市・群馬県利根郡片品村)
20 細尾峠(栃木県日光市)
21 三国峠(群馬県利根郡みなかみ町・新潟県南魚沼郡湯沢町)
22 暮坂峠(群馬県吾妻郡中之条町)
23 十石峠(群馬県多野郡上野村・長野県南佐久郡佐久穂町)
24 十文字峠(埼玉県秩父市・長野県南佐久郡川上村)
25 雁坂峠(埼玉県秩父市・山梨県山梨市)
26 妻坂峠(埼玉県飯能市・秩父郡横瀬町)
27 境ノ明神峠(茨城県久慈郡大子町・栃木県那須郡那珂川町)
28 横根峠(千葉県鴨川市・富津市・安房郡鋸南町)
29 小仏峠(東京都八王子市・神奈川県相模原市)
30 御殿峠(東京都八王子市・町田市)
31 足柄峠(神奈川県南足柄市・静岡県駿東郡小山町)
32 長尾峠(神奈川県足柄下郡箱根町・静岡県御殿場市)
33 大菩薩峠(山梨県甲州市・北都留郡小菅村)
34 御坂峠(山梨県笛吹市・南都留郡富士河口湖町)
35 鳥井峠(新潟県東蒲原郡阿賀町・福島県耶麻郡西会津町)
36 倶利伽羅峠(富山県小矢部市・石川県河北郡津幡町)
37 朴峠(富山県南砺市)
38 谷峠(石川県白山市・福井県勝山市)
39 木の芽峠(福井県南条郡南越前町・敦賀市)
40 野麦峠(岐阜県高山市・長野県松本市)
41 大門峠(長野県茅野市・小県郡長和町)
42 関田峠(長野県飯山市・新潟県上越市)
43 針ノ木峠(長野県大町市・富山県中新川郡立山町)
44 修那羅峠(長野県東筑摩郡筑北村・小県郡青木村)
45 徳本峠(長野県松本市)
46 和田峠(長野県小県郡長和町・諏訪郡下諏訪町)
47 碓氷峠(長野県北佐久郡軽井沢町・群馬県安中市)
48 杖突峠(長野県茅野市・伊那市)
49 権兵衛峠(長野県塩尻市・上伊那郡南箕輪村)
50 鳥居峠(長野県塩尻市・木曽郡木祖村)
51 馬籠峠(長野県木曽郡南木曽町・岐阜県中津川市)
52 青崩峠(長野県飯田市・静岡県浜松市)
53 天城峠(静岡県伊豆市・賀茂郡河津町)
54 宇津ノ谷峠(静岡県静岡市・藤枝市)
55 本坂峠(愛知県豊橋市・静岡県浜松市)
56 伊勢神峠(愛知県豊田市)
57 鈴鹿峠(三重県亀山市・滋賀県甲賀市)
58 長野峠(三重県津市・伊賀市)
59 磨針峠(滋賀県彦根市)
60 花折峠(滋賀県大津市)
61 堀越峠(京都府南丹市・福井県大飯郡おおい町)
62 京見峠(京都府京都市)
63 箕峠(和歌山県伊都郡かつらぎ町)
64 札立峠(和歌山県有田郡有田川町・海草郡紀美野町)
65 暗峠(奈良県生駒市・大阪府東大阪市)
66 芋峠(奈良県高市郡明日香村・高取町・吉野郡吉野町・大淀町)
67 伯母子峠(奈良県吉野郡野迫川村・十津川村)
68 洞ヶ峠(大阪府枚方市・京都府八幡市)
69 竹ノ内峠(大阪府南河内郡太子町・奈良県葛城市)
70 和泉葛城越 (大阪府岸和田市・和歌山県紀の川市)
71 船坂峠(兵庫県赤穂郡上郡町・岡山県備前市)
72 鍵掛峠(鳥取県西伯郡伯耆町・日野郡江府町)
73 四十曲峠(鳥取県日野郡日野町・岡山県真庭郡新庄村)
74 赤名峠(島根県飯石郡飯南町・広島県三次市)
75 乙女峠(島根県鹿足郡津和野町)
76 人形峠(岡山県苫田郡鏡野町・鳥取県東伯郡三朝町)
77 物見峠(岡山県津山市・鳥取県八頭郡智頭町)
78 上根峠(広島県安芸高田市)
79 欽明寺峠(山口県岩国市)
80 桟敷峠(徳島県三好市・三好郡東みよし町)
81 三坂峠(愛媛県松山市・上浮穴郡久万高原町)
82 地芳峠(高知県高岡郡檮原町・愛媛県上浮穴郡久万高原町)
83 相栗峠(香川県高松市・徳島県美馬市)
84 八木山峠(福岡県飯塚市・糟屋郡篠栗町)
85 冷水峠(福岡県飯塚市・筑紫野市)
86 仲哀峠(福岡県京都郡みやこ町・田川郡香春町)
87 三瀬峠(佐賀県佐賀市・福岡県福岡市)
88 仁田峠(長崎県雲仙市・南島原市)
89 日見峠(長崎県長崎市)
90 高森峠(熊本県阿蘇郡高森町・上益城郡山都町)
91 日ノ尾峠(熊本県阿蘇市・阿蘇郡高森町)
92 湯山峠(熊本県球磨郡水上村・宮崎県東臼杵郡椎葉村)
93 岳滅鬼峠(大分県日田市・福岡県田川郡添田町)
94 鉾立峠(大分県竹田市)
95 三国峠(大分県豊後大野市・佐伯市)
96 国見峠(宮崎県西臼杵郡五ヶ瀬町・東臼杵郡椎葉村)
97 中山峠(宮崎県東臼杵郡椎葉村)
98 耳取峠(鹿児島県南さつま市)
99 本茶峠(鹿児島県奄美市・大島郡龍郷町)
100 多幸山フェーレー岩(沖縄県中頭郡読谷村)