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北上次郎『新刊めったくたガイド大全』(角川文庫)

2019-04-09 | 書評「き」の国内著者
北上次郎『新刊めったくたガイド大全』(角川文庫)
「本の雑誌」一九七九年二月号より一九九四年一二月号にて、読書界の信頼、人気ともにナンバーワンを誇る評論家・北上次郎が読んで読んで読みまくった名書評が遂に文庫に。名もない本、忘れられた本…、厖大な本の山から、埋もれた傑作が今甦る。(「BOOK」データベースより)

◎北上次郎にハズレなし

「本の雑誌」は、創刊からの愛読書です。当初は発行人・目黒考二、編集人・椎名誠として出発しています。紙質が悪く写真が不鮮明で、素人っぽい雑誌でした。もっともその路線は今も堅持されていますが。当時は、椎名誠も無名であり、現在「本の雑誌」で健筆を振るう北上次郎も不在でした。のちに椎名誠が時流にのって多忙になり、「本の雑誌」は実質的に目黒考二が切り回すことになります。
 今回取り上げる北上次郎『新刊めったくたガイド大全』(角川文庫)は、目黒考二の著作です。目黒考二はいくつかのペンネームを使い分けています。当初はSFの書評を手がけていました。やがて冒険小説にターゲットを絞り、最近では中高年の男女を主人公とした「人生シミジミ系」小説に的を絞っています。
 私が北上次郎を評価し、尊敬するようになったのは、この路線に乗り換えてからです。私がいちばん興味のあるジャンルを紹介し続けてくれる北上次郎は、まるで専属のブックナビゲーターとして輝き始めました。

 北上次郎の紹介する本にはハズレなし。これが私の評価です。編集人としての目黒考二も、高く評価しています。坪内祐三や群よう子をデビューさせたり、「青木まりこ現象」(本屋へ行くと尿意をもよおす)を起こしたりと、本に限らず本好きの読者を特集したりもしました。

北上次郎は1946年生まれで、私とは同じ年齢です。会ったことはありませんが、彼の著作はすべて買い求めるほどの大切な存在です。北上次郎が編んだ次のシリーズは、中学生になった孫にプレゼントしました。納得のいくラインアップです。
・14歳の本棚・部活学園編(新潮文庫)
・14歳の本棚・初恋友情編
・14歳の本棚・家族兄弟編

◎最後の一行に、涙

北上次郎『新刊めったくたガイド大全』(角川文庫)は、「本の雑誌」1979年2月号から1994年12月号までに掲載された書評が網羅されています。SFや冒険小説が好きな方は、ぜひ探し出してください。北上次郎の書評の特長は読者としての北上の興奮を、ストレートに伝える筆さばきにあります。一例だけ引いておきます。

――志水辰夫『行きずりの街』(新潮社)がいい。『オンリィ・イエスタディ』『深夜ふたたび』と、読者の感情移入を拒否するキャラクターをあえて採用してきた稀代のヘソ曲がりり作家が、前作『帰りなん、いざ』に続いて今度もストレートで勝負!(P354)

北上次郎はちょっと著者をこきおろし、優しい眼差しに戻します。「…がいい」と書かれると、ついつい買って読みたくなってしまいます。透徹した読書眼は、確実にお勧めの一冊を選んでくれます。「最後の一行に、涙」などの表現も、北上次郎の熱い書評の表われです。
「本の雑誌」を買うときは、北上次郎のページを立ち読みします。そして紹介されている本を探します。今回は『新刊めったくたガイド大全』(角川文庫)を取り上げましたが、本書についてはほとんど語っていません。北上次郎の書評にふれていただくために、ペンをとったのですから、紹介する著作は何でもかまいませんでした。

ぜひ「本の雑誌」を買い求め、北上次郎が紹介する最新の本に触れてみてください。そして冒険小説やSF好きの方は、古書店で『新刊めったくたガイド大全』を探し出してください。今書棚から、板東齢人『バンドーに訊け!』(文春文庫)を引き出してきました。板東齢人は小説家・馳星周が「本の雑誌」で書評を書いていたときの名前(本名)です。文庫化されたとき、北上次郎は目黒考二になって解説を手がけています。「本の雑誌」は彼らの友情の証でもあるのです。
山本藤光2019.04.09

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