189:辞めっちまえ
二日酔いの翌日、恭二は吉村に呼ばれた。指定された喫茶店に入ると、タバコの煙が充満していた。吉村は恭二が座ったとたん、速射砲のようにまくしたてた。
「二日酔いで休む。業績は上がらない。おまえは怠け者だ。早いうちに見切りをつけて、しっぽを丸めて帰りな。おまえがいると、生産性がガタ落ちになる。一流大学の学士さんには、この仕事は向いていない。さっさと辞表書いて、退散することだ」
退職勧告をされている。線香花火のように、頭の暗部で、何かが弾けた。返すべき言葉はなかった。線香花火の燃えかすが、抑止力の上に落ちた。
「わかりました。辞表は郵送します」
絞り出すような声で、恭二はそう告げた。映画の最後の場面みたいに、「完」という文字が脳内を支配した。急に吉村があわてた。
「まあ、短気を起こすな。おれが同行してやるから、もう少し辛抱してみることだ」
一度火がついてしまった恭二には、そんな言葉は受け入れられない。
「辞めさせていただきます。短い間でしたが、お世話になりました。足を引っ張って、申し訳ありませんでした」
恭二はそう告げると、席を立った。「待てよ、瀬口」という声が、背中から聞こえた。おれは会社を辞めるんだ、と他人ごとのように思った。空しさとさばさば感が、同時に押し寄せてきた。
アパートに戻り、辞表を書いた。大家さんのところへ行き、退去を伝えた。荷物は全部置いていくので処分してください、とお願いした。MRに未練はなかった。そして長崎にも、未練はなかった。
おれは負け犬。落伍者だ。どんな顔をして、留美の待つ家へ帰ればいいのか。恭二は事態を意外に冷静に受け止めながら、このいきさつをどう物語ろうかと考えている。
二日酔いの翌日、恭二は吉村に呼ばれた。指定された喫茶店に入ると、タバコの煙が充満していた。吉村は恭二が座ったとたん、速射砲のようにまくしたてた。
「二日酔いで休む。業績は上がらない。おまえは怠け者だ。早いうちに見切りをつけて、しっぽを丸めて帰りな。おまえがいると、生産性がガタ落ちになる。一流大学の学士さんには、この仕事は向いていない。さっさと辞表書いて、退散することだ」
退職勧告をされている。線香花火のように、頭の暗部で、何かが弾けた。返すべき言葉はなかった。線香花火の燃えかすが、抑止力の上に落ちた。
「わかりました。辞表は郵送します」
絞り出すような声で、恭二はそう告げた。映画の最後の場面みたいに、「完」という文字が脳内を支配した。急に吉村があわてた。
「まあ、短気を起こすな。おれが同行してやるから、もう少し辛抱してみることだ」
一度火がついてしまった恭二には、そんな言葉は受け入れられない。
「辞めさせていただきます。短い間でしたが、お世話になりました。足を引っ張って、申し訳ありませんでした」
恭二はそう告げると、席を立った。「待てよ、瀬口」という声が、背中から聞こえた。おれは会社を辞めるんだ、と他人ごとのように思った。空しさとさばさば感が、同時に押し寄せてきた。
アパートに戻り、辞表を書いた。大家さんのところへ行き、退去を伝えた。荷物は全部置いていくので処分してください、とお願いした。MRに未練はなかった。そして長崎にも、未練はなかった。
おれは負け犬。落伍者だ。どんな顔をして、留美の待つ家へ帰ればいいのか。恭二は事態を意外に冷静に受け止めながら、このいきさつをどう物語ろうかと考えている。