(夏目漱石風)
入院三日目の朝、血液検査の結果が問題ないといふことで吉雄は退院することになった。 すぐに身の回りのものをバッグに詰め込んで、福大病院から地下鉄に乗り込んだ。
薬院大通り駅を降りて通りに出ると、刺すやうな日差しと包み込むやうな暑さが吉雄に襲いかかった。入院中はついぞ知らなかった猛暑だ。吉雄はここから自宅までの道のりをバスに乗ろうかそれとも奮発してタクシーにするかと思案したが、ともかく家の方角に歩きながら考えやうと思った。
日陰を選びながら歩いたが、考えるのは全く別のことばかり。気付いた時には道のりの半ばまで来ていた。吉雄はえいここまで来たなら歩いてやれと思った。二日間寝ていた割には身体が軽いのもあって歩くのもそれほど気にはならなかった。
帰宅すると亜樹がエアコンの効いた涼しい部屋で仕事をしていた。
「存外早かったんですのね」
「ああ。地下鉄だとあっという間だね」
「駅からはバスに乗ったんですの」
「いやぁそれがさ、バスにするかタクシーにするか思案しながら歩いてたらもう家まで来ちゃったよ」
「まぁ。ずいぶん歩いたでしょ」
「なにたいした距離じゃないよ君」
「お腹空いてらっしゃるでしょ。お昼は早くにしますね」
「うん頼むよ。とりあえずシャワーを浴びるよ。こう暑くっちゃかなわない」
2日間の汗と垢を流して涼しい居間に戻ると、吉雄は生き返る心地だった。
「ツール・ド・フランスを録画してますわ。ゆっくりご覧なさいな」
「そうだな。たまにはゆっくりさせてもらうか」
「そうなさいな。そして少しお眠りになるといいですわ」
「いやもう寝るのには飽きたよ」
午後はテレビを見たり本を読んだりと吉雄は随分と骨を休めることができた。留守をしたのはわずか2日のことだったが、吉雄には家がひどく懐かしく感じられた。
「己が城」
心地よき いくさの後の 己が城
蔵
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