【映画がはねたら、都バスに乗って】

映画が終わったら都バスにゆられ、2人で交わすたわいのないお喋り。それがささやかな贅沢ってもんです。(文責:ジョー)

「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」:高輪北町バス停付近の会話

2009-02-11 | ★品97系統(品川駅~新宿駅)

あのビル、人間の顔みたいね。
目があって、鼻があって、耳があって・・・。ほんとだ、人間の顔みたいだ。
でも、人間と違ってあの顔は年をとらないのよねえ。うらやましい。
うらやましいか?
うらやましいわよ。特に「ベンジャミン・バトン」とか観た後だと。
あの映画は年をとるんじゃなくて、主人公がどんどん若くなっていく映画だぜ。
うん、ブラッド・ピットが80歳の老人みたいな肉体で生まれて、時が進むにつれてどんどん若くなって、最後には赤ちゃんに戻っていく映画だった。でも、ね。
でも?
そのブラッド・ピットを愛するケイト・ブランシェットは普通の女性だから、反対にどんどん年をとってくる。
それがあたりまえだろ。
若く、はつらつと光り輝くような肌だったケイトが、目じりに皺が増えたおとなになり、背中にしみができた中年になり、やがては寝たきりの老女になるまでの変化を超リアルなメイクでじっくり、じっくり描いていく。大画面であそこまで衰えていく肌を見せつけられると、時間というものの残酷さに思いが行っちゃっう。とても、ひとごととは思えないわ。
ひとごとだろ。お前はケイト・ブランシェットじゃないんだから。比べるのも失礼だ。
でもさあ、恋人はどんどん若くなるのに自分はどんどん老けていくのよ。それって、異常に残酷だと思わない?
いやいや、人と違ってどんどん若くなるほうが残酷だろう。自分の子どもができてもやがては自分のほうがその子より幼くなっちゃうんだぜ。
どっちにしても、時の移ろいは残酷だってことね。
残酷っていうか、致し方ないというか、だからこそ人生は奥深いとも言えるわけで。
美男美女のいちばん美しい時を見せつけられると「時よとまれ、君は美しい!」って叫びたくなっちゃうけど、その瞬間だけが人生じゃないってことよね。
わかってるじゃん。この映画、「数奇な人生」って、サブタイトルがついているけど、それは何もベンジャミン・バトンに限ったものではなく、誰の人生だって数奇なものだってことだ。
主人公がどんどん若返る映画といえば、日本にもあったわね。
そうだっけ?
山田太一が原作の「飛ぶ夢をしばらく見ない」。
ああ。石田えりがどんどん若くなって最後には幼女になってしまう映画だった。
あれは短い時間の中でのできごとだから男のほうは変わらなかったけど、「ベンジャミン・バトン」は一生をかけて男は若くなり、女は老けていくから、こっちのほうがはるかに切ない。
「飛ぶ夢をしばらく見ない」は一瞬の夢みたいな印象だったけど、「ベンジャミン・バトン」はリアルな人生観を後に残す。
それにしても、ブラッド・ピット。見ものは、老けメイクより若づくりだった。
ああ、青年期のブラッド・ピット。肌はつやつや、はじける体。信じがたいことに目の光までが青年になっていた。
ブラッド・ピットが「リバー・ランズ・スルー・イット」より「リバー・ランズ・スルー・イット」してる!
彼も、あのまま美男俳優の道を歩むかと思ったら、いつのまにか性格俳優になって、人の一生はやっぱり数奇だな。
そしていまや、ソフトバンクのCMタレント。
あそこに見えるビルは、ドコモのビルだけど。
それが何か?
いや、別に。



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