【映画がはねたら、都バスに乗って】

映画が終わったら都バスにゆられ、2人で交わすたわいのないお喋り。それがささやかな贅沢ってもんです。(文責:ジョー)

「イントゥ・ザ・ワイルド」:魚籃坂下バス停付近の会話

2009-02-21 | ★品97系統(品川駅~新宿駅)

あそこに見えるのはテレビ屋か?もうすぐアナログテレビは見れなくなっちゃうし、地デジ対応テレビでも買っていくか?
それより、これを機会にテレビのない生活でもしてみたら?
そんな野蛮な生活できるかい!
そういう人にこそ見てほしいのよねえ、ショーン・ペン監督の「イントゥ・ザ・ワイルド」。
物質的な豊かさを捨てて荒野をめざす青年の映画だろ。ようやく観ましたよ。
感動した?
全然。「20世紀的な生活にはおさらばだ」とか大仰に言ってるけどさあ、これって70年代のヒッピーたちとあんまり変わらないんじゃないの?実際、アメリカン・ニュー・シネマにたびたび登場したような人物も出てくるし。
「イージー・ライダー」とか「バニシング・ポイント」みたいな匂いがしないこともないけどね。
LOVE&PEACE!
でも、ああいう映画ほど不健全じゃない。
そう。妙に健全というか、清潔感のあるのが気にいらないね。
でも、人間はこれ以上物質的な豊かさを求めていいのかという根源的な問いかけがあって、地球環境の危機が叫ばれている今こそ真剣に観るべき映画だと思うわよ。
冗談じゃない、アル・ゴアじゃあるまいし。流行に乗ってるだけじゃないのか。
流行じゃなくて、これからの人類につきつけられた問題なのよ。
おまえは、環境団体の回し者か?そもそもこいつ、両親の愛情を受けないで大きくなったんで、世の中をすねて荒野をめざしたんだろ?
ずいぶん大雑把な見方ね。もっと人間の本質的な欲求から湧き出してきた行動だと思うけど。
でも、映画を観てるとそう見える。
表面的に観ないで。これまで常識的とされた成功に背を向ける生き方もあるってことよ。
でも放浪の果ての結論が「幸福が現実となるのは、それを誰かと分かち合った時だ」とかなんとか言うんじゃ、あまりにコンサバティブで椅子からひっくり返っちゃうぜ。
聞いてりゃ、ずいぶん貶すのね、この思索的な映画を。
時制を交差させながら展開するから、なにか頭良さそうな映画に見えるかもしれないけど、時系列順に物語ったほうがよっぽど素直で共感できたはずだ。
あなたにはこういう自然回帰志向がないってこと?
ない。実話らしいが、この映画の役者より最後にチラッと出てくる本物の青年のほうが何十倍も魅力的な顔立ちをしている。こういう行動を取らざるを得ない恐れとかおののきとか喜びとかには、もっともっと深いものがあるだろうに俺にはそれが感じられなかった。
目を見張るような大自然もあれば、圧倒的に魅力的な人間たちも出てきたのに、あなたにはそういうものを感じ取るセンスが欠けているのね。アナログを理解できないデジタル人間なんじゃないの?
ああ、やっぱり、俺には地デジ対応テレビが必要だな。買っていくか?




この記事、まあまあかなと思ったら、クリックをお願いします。



ふたりが乗ったのは、都バス<品97系統>
品川車庫前⇒品川駅前⇒高輪北町⇒泉岳寺前⇒高輪一丁目⇒魚籃坂下⇒古川橋⇒四ノ橋⇒光林寺前⇒天現寺橋⇒広尾橋⇒日赤医療センター下⇒西麻布⇒墓地下⇒青山斎場⇒赤坂高校前⇒青山一丁目駅前⇒北青山一丁目アパート前⇒権田原⇒信濃町駅南口⇒信濃町駅前⇒左門町⇒四谷三丁目⇒四谷四丁目⇒新宿一丁目⇒新宿二丁目⇒新宿三丁目⇒新宿追分⇒新宿駅東口⇒新宿駅西口