【映画がはねたら、都バスに乗って】

映画が終わったら都バスにゆられ、2人で交わすたわいのないお喋り。それがささやかな贅沢ってもんです。(文責:ジョー)

「黄色い涙」:フェリー埠頭入口バス停付近の会話

2007-05-03 | ★虹01系統(浜松町駅~ビッグサイト)

「つどい橋」なんて、古風な名前の橋だな。
たくさんの恋人たちが集うようにってことかしら。
恋人たちだけじゃないだろう。若者たちにはいろいろな形の集いがあるはずだ。偶然出会って、ひと夏を一緒に過ごして秋になったら別れて行く・・・。それは恋人たちに限らない。男たちにだってじゅうぶんあり得ることだ。
そうね、映画の「黄色い涙」みたいな出会いもあるのよね。
漫画家と小説家とミュージシャンと画家のひと夏の共同生活の物語。といっても、みんな一流の芸術家になりたいと願っているだけで、現実は一円の金もなく、うだうだとした毎日を過ごしているだけだ。若者特有の根拠のない自信だけを抱えている。
なんとか稼いでいるのは、漫画家だけだもんね。あとの連中は「芸術家は芸術以外で金を稼いじゃいけない」とかうそぶいて、でも金が稼げるほどの才能もなく、偶然知り合った漫画家のボロアパートにぐだぐだと居候しているだけ。
そのうだつのあがらない1960年代の連中を、いまをときめくアイドルグループの嵐が演じるんだから見ものだよな。
そりゃあ、見ものよ。
おそらく、この映画に思いこみを入れて観る人間には、2種類いる。
2種類?
原作の永島慎二の漫画のファンか、嵐のファンか、どっちかだ。
で、あなたはどっちなの?
もちろん、永島慎二ファンだ。
そうそう。この映画の原作って永島慎二の漫画なんだってね。でも、彼ってそんなにファンが多いの?
隠れ永島って言ってな、人前ではそんなことおくびにも出さないけど、彼の漫画ならほとんど持っているっていう熱烈なファンは結構多いはずだ。
どうしてわかるの?
俺がそのひとりだから。
うそ!
いつか見せたろう、「漫画家残酷物語」、「若者たち」、「フーテン」・・・。
ああ、あの昭和風味の地味なコミック。
地味と言うな。コミックと言うな。時代に流されない本物の青春漫画と言え。自分の悩みや思いを素直に吐露した漫画は、私小説ならぬ私漫画として、当時の若者たちの共感を呼び、一世を風靡したもんだ。
一部の人たちの間ででしょ。
そんなことはない。
とか言って、あなたより上の世代の人たちのことじゃない。
まあな。彼の漫画で一番有名なのは「柔道一直線」なんだが、ほんとうはそういう流行を追うような漫画じゃなくて純粋な児童漫画を描きたかった永島慎二は途中で降板、以後、大衆受けしそうなヒット作を意識的に描かなくなってしまった。自分の気持ちに正直な気骨のある漫画家なんだ。
映画の中でもそういうエピソードがあったわね。
二宮和也が演じる漫画家には、永島慎二自身の姿が色濃く投影されている。
居候に転がり込まれた漫画家を、いつもの「しょうがないなあ」という顔つきでひょうひょうと演じていてよかったわ。昭和の話が似合う俳優になって来たわね。
ははあ、おまえはこの映画に思いこみを入れて観る2種類の人間のうちの、嵐のファンのほうだな。
どうしてわかるの?
目に星が見えた。
うそ!
じゃあ、小説家の役の櫻井翔はどうだった?
関西弁といい、丸めがねといい、かわいいとしか形容のしようがないわ。桃のようなお尻まで拝めるんだから、桜井翔様様よ。
うーん、なんか感想がおばさん化してるぞ。ミュージシャン役の相葉雅紀は?
あの帽子に半ズボン。もうサイコウ。ミュージシャン志望のくせにのど自慢では鐘ひとつだなんて、泣いていいんだか笑っていいんだか、わからないくらいだわ。しかもラブシーンまであるんだから。
とは言っても、嵐ファンの手前、濃厚なラブシーンはできなかったけどな。60年代風の主題歌はよかった。あと、画家の大野智は?
ちょっと頭の弱い女につかまって結婚の約束しちゃうのよね。その抜けてる感じ、困った表情がまた憎めない。
唯一、漫画家の居候じゃない酒屋役の松本潤は?
テレビじゃいつも、目からきらきら星の束を飛ばしてる松本潤が、東北出のいも兄ちゃんを演じるんだからこれこそ見ものでしょう。しかも、酒屋のエプロンがすっかり似合って、見違えるように純朴な役。
いも兄ちゃんと言えば、みんな冴えない、田舎出のいも兄ちゃんの役だったな。その役を誰ひとりとして気負うことなく、屈託なく演じているからたいしたもんだと思ったよ。嵐の人の良さが画面全体から感じられた。
ただ、ああいう、鍋でごはんを炊くような貧乏生活ってこの頃ないから、最近の恵まれた十代のファンが見て共感する映画なのかどうか、よくわからないわね。
きょうの晩ご飯のために扇風機を質屋に入れるとか、かつどん一つ食うだけであんなに感激する生活なんてな。昔はよくあったんだけどな。
あのかつどん、おいしそうだったけどなあ。
彼ら貧乏な若者にとっては、三ツ星レストランの有名シェフのフランス料理よりずっとうまかったと思うぜ。
そんな、楽しいんだかつらいんだかよくわからない共同生活もいつか終わり、結局漫画家以外は芸術家の道をあきらめ堅気な職業についていく・・・。
祭りの季節は終わったってことだよ。でも、たった一時期でも若い頃に夢を追った季節があったっていうのは、無駄じゃないと思うぜ。
思い出があれば長い人生も生きていけるわ。
俺には永島慎二、おまえには嵐の思い出がな。
そしてまた、どこかで新たな出会いがあるのよ。
つどい橋でか?
さあ、それはどうかしら。


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ふたりが乗ったのは、都バス<虹01系統>
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