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【映画がはねたら、都バスに乗って】

映画が終わったら都バスにゆられ、2人で交わすたわいのないお喋り。それがささやかな贅沢ってもんです。(文責:ジョー)

「日本沈没」:恵比寿一丁目バス停付近の会話

2006-09-07 | ★田87系統(渋谷駅~田町駅)

おいしいのよねえ、キムカツ。
お前、スマップ大好きだもんなあ。
それは、「キムタク」でしょ。私の言ってるのは「キムカツ」。
キムカツってなんだ?
厳選された豚ロースの美味しい部分だけを超薄切りにして25枚以上重ねたもので、肉のミルフィーユて言ってる人もいるのよ。サクサクとした衣の食感とジューシーな豚肉の味わいはいちど食べたら忘れられない味になるわ。
そんなにうまいのか?
日本が沈没するって言われたら、死ぬ前にキムカツだけはもういちど食べておきたいって思うほどよ。とにかく、この店は毎日人が列をなして並んでいるんだから。
映画の「日本沈没」も逃げ出す人が列をなして並んでたな。
みんな一生懸命山に逃げるのに、逃げ切れず死んでいくのよね。でも、日本国中、大騒ぎなのに会津地方だけはなにごとも起こっていないように静かだったわね。
みんな、会津に逃げりゃ助かるのにな。
その会津との間をクサナギ君はいともたやすく往復したりして。
かと思うと、東京からわざわざリヤカー引いて避難するやつもいたりして。
クサナギ君とシバザキさんの別れのシーンは不自然なほど音楽が盛り上がったりして。
最後の解決のしかたも強引だよな。
東宝映画の「妖星ゴラス」みたいなめちゃくちゃな解決法。
まあ、科学的根拠なく始まった惨事だから科学的根拠なく解決してもいいけどな。
やりたい放題。いいかげんな映画よね。あー、つまらなかった。
そうかな。俺はおもしろかったよ。
うそ!
子どもの頃、東宝のやりたい放題の怪獣映画を見て育った監督が「自分もあんな場面を撮ってみたいよー」ってだだをこねて理屈もなにもなく撮ってみました、っていう感じがやたらほほえましくて、見ている間じゅう、にやにやしっぱなしだったよ。
小学生が精巧なプラモデルつくって喜んでいるようなものね。
そうそう。ほんとに東京も名古屋も京都も函館も沈没シーンは精巧だったよな。
それだけだけどね。
それだけで十分じゃないのか。
やっぱり、キムカツみたいにもっと深い味わいがほしかったなあ。
同じスマップでも、クサナギ君じゃなくて、キムタクじゃないとだめってことか?
だから、あんたが言ってるのは「キムタク」でしょ。私の言ってるのは、「キムカツ」よ。
わかった、わかった、おごりゃあいいんだろ。
ようやくわかってくれたようね。鈍感なんだから。
ああ、日本が沈没する前に、おれの財布が沈没しそうだよ。



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「グエムル 漢江の怪物」:恵比寿駅前バス停付近の会話

2006-09-06 | ★田87系統(渋谷駅~田町駅)

なに、この川?
渋谷川よ。
だいじょうぶだろうな。
なにが?
この川、「グエムル」みたいな怪物いないだろうな。
たしかに、濁った川の色といい、緑とコンクリートの殺風景な景色といい、「グエムル」がいても不思議じゃない雰囲気ね。
だろ?
そもそも、この渋谷川はどこから流れてきてどこへ流れていくのかよくわからないのよね。
ますます不気味だ。
でも、韓国映画の「グエムル」は怪獣映画の割りに不気味というより滑稽だったわよ。
笑えない喜劇ってやつだな。いや、いい意味で。日本映画でいえば、森崎東の映画みたいだといえばわかってくれるだろうか。
そうそう、つぼをはずした笑いがあちこちに散らばっていて妙な味わいだったわね。
それだけじゃなくて、怪獣映画としても画期的だったな。
どこが?
1954年の「ゴジラ」以来、50年間、日本の怪獣映画っていうのは、必ず警察とか自衛隊とか地球防衛軍とかなんとか博士とか怪獣同士とか、一般庶民と関係ない人ばかりが怪獣と戦うという構図から一歩も出ていないような気がするんだ。ところがこの韓国映画は、一般庶民が怪獣と真っ向から戦うという日本映画が成しえなかった構図を成功させてしまったんだ。
いいじゃないの、一般庶民は国とか軍隊とか力のある者に守ってもらえば。
おいおい、お前は映画から何を学んでるんだよ。国は庶民を守ってくれないって、「蟻の兵隊」を見て痛感したばかりじゃないか。桶川ストーカー事件だって、警察が庶民を守ってくれたか?
じゃあ、どうすればいいのよ。
自分の身は自分で守るしかないんだよ、この映画みたいに。
でも結局守りきれなかったじゃない。
いいや、あのラストこそ希望のラストだ。自分の家族のために立ち上がった者たちに連帯が生まれ、家族の連帯から弱き者たちの連帯、ひいては人類の連帯へと世界が広がっていくだろうことを予感させる希望に満ちたラストなんだよ。
なんかのプロパガンダ映画みたいね。
だって、武器が火炎びんだぜ。
日本のパトレーバーの挿話に似ているっていう批判もあるけど。
日本映画が手をこまねいているから韓国にとられちゃうんだよ。はやく目をつけないからいけないんだよ。
だからって、勝手にパクッていいってことにはならないわ。
もちろん。盗作かどうかはみんなで検証してほしいね。
マスコミとかね。
ちがーう。そういう権威は当てにならないっていうのが、「グエムル」自身のテーマなんだから。
なるほど。庶民で検討していくしかないのね。
でも、あの疾走感は監督自身のものだろう。
ああ、すばしこい怪獣だったわね。
そうじゃなくて、あの怪獣から逃げたり、怪獣を追いかけまわしたりする人々の疾走感だよ。あのカメラワークの素晴らしさ。古今東西、人が走る姿を魅力的にとらえるかどうかが映画として見れるかどうかの分かれ道だからね。
たとえば?
日本映画でいえば「愛の新世界」。夜明けの町を走る疾走感が理屈ぬきに感動的だった。それにひきかえ「黄泉がえり」のクサナギ君の走り。最低だったね。いや、本人の責任じゃなく、監督の責任だよ。
韓国語堪能のクサナギ君ね。
ああ、ぜひクサナギ君主演で日本版グエムルをつくってほしいね。
まねでもいいの?
それはだめ。



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「ゲド戦記」:東三丁目バス停付近の会話

2006-09-05 | ★田87系統(渋谷駅~田町駅)

お、本屋だ。寄って行こう。
違うわよ。紀伊国屋書店て書いてあるけど、ここにあるのは紀伊国屋書店の本社なのよ。オフィスなのよ。
なんだ、残念。
何の本、買いたかったの?
「ゲド戦記」。
映画で観たじゃない。
それで、話、わかったか。
よくわからなかったけど。
よく、じゃあない。全然わからなかった。
あなたは、どこがわからなかったの?
そもそも、あのゲドってやつ、偉そうにしてるけど、何かやったか。主人公でもないのに、タイトルが「ゲド戦記」なんて、看板に偽りありだろう。
でも、テルーの唄、よかったわよね。
CDで聞いたほうがずっといい。あの女の子だって、いままでの宮崎アニメだったらもっと弾けてて魅力的だったと思うぜ。なんであんなに暗くなきゃいけないんだ?
いや、この映画は息子の映画なんだから宮崎駿と比べちゃだめなのよ。宮崎吾朗と宮崎駿は別人なんだから。
それにしちゃあ、色調とか明らかに宮崎駿のまねしてたぜ。
そう、まね。たしかに、まねであって、宮崎駿は超えられなかったわね。
監督の宮崎吾朗はそれをわかっていたから、冒頭で主人公のアレンに父親を殺させちゃったんだな。
どういう意味?
父親がいる限り俺は父親を超えられない。ならば、父親を殺しちゃおう。もちろん実際にはそんなことできないからせめて映画の中で・・・。そういう宮崎吾朗の心情を反映した映画なんだ、これは。
そうかなあ。じゃあ、その後の物語は。
くも女もなにもかも邪魔者は消す。つまり、アニメ界を牛耳るドンになりたいっていう宮崎吾朗の夢を主人公アレンに投影した物語なんだ、きっと。
全然違うと思うけどなあ、ゲド戦記は。
だから原作を読んでほんとはどんな話なのか確かめてみたいんだよ。映画を観たら原作を読みたくなる悪しき典型だな。
そこまでジブリの映画をこきおろすなんて、たいした度胸ね。
あれ、ジブリの映画ってひとくくりにするなよ。宮崎吾朗と宮崎駿は別だって言ったのはおまえだぜ。
そりゃそうだ。


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「トランスアメリカ」:東二丁目バス停付近の会話

2006-09-04 | ★田87系統(渋谷駅~田町駅)

都営アパートの下に都バスの車庫があるなんて、しゃれてるね。
人の住まいはバスの住まいでもあるってことね。
都内をぐるぐる走るバスだって、帰るべきところはあるってことだな。
何が言いたいわけ?
「トランスアメリカ」って、何を言いたい映画だろうと思っていたけど、いま、はっきりわかったってことだよ。
性転換で女性に変わる直前の男性が自分に息子のいることを知って、父親ではなく母親として会いに行って親子でアメリカを旅する映画でしょ。
そう。性転換とゆがんだ親子関係がテーマの映画なんて、うさんくさい感じがするじゃない。ところが、観たあとは、やけにさわやかな印象なんだな。どうしてだろうと思ってたんだけど、その謎がいま解けたのさ。
どういうこと?
つまり、「帰るべき場所に帰ろう」というとてもシンプルな話だったんだ。体は男性で心は女性ということに悩んできた主人公は、ほんとの自分に戻るだけ。性転換なんていうとおおげさだけど、自分が帰るべき場所に帰るだけなんだ。息子のほうも最初は母親の姿で現れた人間が実は父親だったと知って混乱するけど、親は親。子を思う気持ちに男も女もないと知って、よりを戻す。つまり、帰るべきところに帰る。だから、後味がいいんだ。
なんかあたりまえ過ぎない?
いや、いい映画のテーマっていうのは実は案外シンプルなものなんだ。それをどうおもしろく見せるかで映画の価値は決まると思うんだ。
たしかに見せ方はおもしろかったわよね。主演のフェリティシィ・ハフマンの何気ないしぐさが本当に女になりたい男そのものって感じで、アカデミー賞は彼、いや、彼女にあげればよかったのにって思うくらいよ。
アカデミー女優賞にするか、男優賞にするかで、もめたんじゃないのか。
まさか。でも、それくらい、ほんとは女なのか男なのか、わからなかったわね。
おまえもほんとは男だったりして・・・。
まあ、失礼な。そういう視線で人を見るなっていう映画だったんじゃないの?
いや、俺はどっちでもかまわないよ。人間、誰にでもひとつくらい欠点はあるもんだ。
それって、昔の「お熱いのがお好き」っていう映画のセリフじゃない。
ばれたか。


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「蟻の兵隊」:渋谷車庫前バス停付近の会話

2006-09-03 | ★田87系統(渋谷駅~田町駅)

あそこに見える煙突は何?
渋谷の清掃工場だ。
へえ、こんな都心に清掃工場があるんだ。
ああ、渋谷のゴミはここに集まるんだ。ゴミは捨てればゴミだが、生かせば資源になる。
じゃあ、ゴミのように捨てられた兵隊を日本軍は資源として再利用したってこと?
「蟻の兵隊」の話か。
そう、戦争が終わっても日本軍に命令されて中国兵として内戦を戦ったのに、結局脱走兵とみなされて国に捨てられた人のドキュメンタリー。
ひどい話だよな。国って、人を捨てるんだぜ。
寝たきりで言葉も話せない老人のくやしさをこめた雄たけび、見た?聞いた?
壮絶だよな。言葉でなく、叫びでここまで怒りや悲しみを露にした姿なんて、初めて見たよ。正直、震えたよ。
人間とはこういうものかという、底の底を見たようで、まさしく言葉も出ないわね。
被害者であるはずの主人公が一瞬、加害者日本軍の顔になって中国人を責めるところも、よくぞ撮ったとしかいいようがないな。
そう、一瞬で被害者が加害者に変わるのね。戦争に苦しめられた側の人なのに、ちょっとした立場の違いでああも態度が変わっちゃうの。日本軍人に戻っちゃうの。人間の本質をかいま見たようでぞっとしたわ。
戦争の本質って、人間の本質と同じってことか?
うーん。難しいことはわからないけど、あの部下をほっぽっといて逃げちゃった上官とかも、最低よね。戦争って、なにもかもが最低よ。
「ヨコハマメリー」といい、「蟻の兵隊」といい、一瞬こちらがひるむような瞬間があって、今年はドキュメンタリーの当たり年だな。
「ミュンヘン」「ホテル・ルワンダ」「イノセント・ボイス」「ジャーヘッド」「蟻の兵隊」と並べれば、戦争映画の当たり年とも言えるわ。
戦争は決して終わっちゃいない。延々と続いているということだ。
「男たちの大和」みたいに、戦争責任を無視して、昔は大変だったね、なんて感慨にふけっている映画に比べれば、これらの映画のなんと神々しいこと。
まさに戦争映画の金字塔だな。
え、金字塔ってなに?
まあ、あそこに立つ煙突みたいなものだ。
なんだか、日本に捨てられた人たちを供養するお線香にも見えるわね、あの煙突は。
そう、いまだにあの人たちは脱走兵としか認めてもらえてないんだもんな。何度も言うけど、国は人を捨てるってことだ。
せめて、あなたは私を捨てないでね。
そーゆー話じゃないだろ。


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