わくわく CINEMA PARADISE 映画評論家・高澤瑛一のシネマ・エッセイ

半世紀余りの映画体験をふまえて、映画の新作や名作について硬派のエッセイをお届けいたします。

「フィリップ・ガレル監督 愛の名作集」2作連続公開!

2012-06-15 19:59:50 | 映画の最新情報(新作紹介 他)

Photo フィリップ・ガレルはフランスの異色監督です。1948年、パリ生まれ。16歳から映画を作り始め、70年代にアンディ・ウォーホルのミューズだった歌姫ニコと結ばれ、実験的な映画を二人で生み出す。ジャン=リュック・ゴダールを師と仰ぎ、ジーン・セバーグ、ジャン=ピエール・レオ―、カトリーヌ・ドヌーブらの名優と傑作を発表。「恋人たちの失われた革命」(05年)などでヴェネチア国際映画祭で受賞。リアルな言葉と日常の風景から“愛の誕生と喪失”を一貫して描き続けてきた。その彼の私小説のような作品「愛の残像」と「灼熱の肌」が、東京・渋谷の〔シアター〕イメージフォーラムで連続上映されます。
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「愛の残像」(08年/6月23日から上映)は、パリを舞台にした若い写真家フランソワ(ルイ・ガレル)と人妻で女優のキャロル(ローラ・スメット)との激しい愛の物語。男女の心理の綾を、モノクロ映像で官能的にとらえる。それは、ぎりぎり究極の愛、しかも奔放で憂鬱。革命という言葉が多用され、現状脱却できない男と女の苛立ち、裏切りと自己崩壊を真摯な姿勢で見つめる。自殺したキャロルの姿が鏡に映り、フランソワを招き入れようとするシーンに、生と死、夢と現実を超越した愛が凝縮される。主演のルイ・ガレルは監督の息子、ローラ・スメットは歌手ジョニー・アリディと女優ナタリー・バイの娘です。
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「灼熱の肌」(11年/7月21日から上映)は、監督の亡くなった友人で画家のフレデリック・パルドをモデルにした作品。やはり、息子ルイ・ガレルとイタリアの大女優モニカ・ベルッチを主演に据えて、友情と激烈な愛を描き出す。パリに住む売れない俳優ポール(ジェローム・ロバール)と恋人エリザベート(セリーヌ・サレット)が、ローマに住む画家フレデリック(ルイ・ガレル)と妻で美しい女優のアンジェル(モニカ・ベルッチ)を訪ねる。そして、照りつける太陽のもと、欲望と官能のドラマが繰り広げられる。ガレルが師と仰ぐゴダールの「軽蔑」への返歌ともいえる作品になっています。Photo_2
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 シネマテーク・フランセーズの元館長アンリ・ラングロワは、ガレル監督を「ヌーヴェルヴァーグ以降の世代で最も重要な映画作家の一人」と評したそうです。エンターテインメント性とモラルを拒否して、愛の崩壊の向こうに人間性の何たるかを見つめる。それは、ポスト・ヌーヴェルバーグの姿勢といってもいい。ガレルは言う-「ゴダールは、私には到底成しえなかったことをしている。私の目標は、政治的な愛の映画を撮ること。愛と政治の両方を包括する一つの大きな集合を、集団の論理に従って作りださねばならない」。肉体と精神の分裂の彼方に魂の再生を見る…まさに孤高の映画作家といっていいでしょう。


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