わくわく CINEMA PARADISE 映画評論家・高澤瑛一のシネマ・エッセイ

半世紀余りの映画体験をふまえて、映画の新作や名作について硬派のエッセイをお届けいたします。

主役は一畑電車のデハニ50形「RAILWAYS」

2010-05-24 16:27:44 | 映画の最新情報(新作紹介 他)

T0008489p 鉄道ファンならずとも惹きつけられるのが、「RAILWAYS」(5月29日公開)に登場するクラシックなローカル電車です。島根県東部を走るバタデン(一畑電車)の名物は、荷物室を備えた日本最古級の電車・デハニ50形。“デハニ”とは、“電動車”“イロハのハ(=普通車)”“荷物室あり”の略。1928~1929年に4台が製作され、80年の歴史を持つ、オレンジ色の車体が印象的な電車だ。いまは営業用としては引退し、昨年、この映画の撮影のために使われたそうだ。その郷愁をさそうような、素朴な車体と動きに魅せられる。
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 映画自体は、パターンどおりのヒューマン・ドラマ。家庭も顧みず懸命に働き、一流企業で地位を得た49歳の男・肇(中井貴一)が、家族の中で孤立し、仕事にも疑問を覚える。やがて、田舎で一人暮らしをする母親が倒れたという知らせに、故郷の島根県に帰郷。子供の頃に夢見た、バタデンの運転士に転職することを決意。そして、50歳を目前に入社試験を受け、若手に混じって研修に参加、憧れだったバタデンを運転することになる。ローカル電車の運転士の訓練が、東京の京王電鉄の訓練センターで行われるというくだりには、ちょっとビックリ。その他のエピソード、妻(高島礼子)や娘(本仮屋ユイカ)、母親(奈良岡朋子)とのドラマ部分や、大企業内でのゴタゴタ騒ぎの描写はありふれて単調だ。Img274
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 だが、デハニ50形の登場とともに、画面はがぜん生き生きとしてくる。それは、平凡極まりないストーリーから解放されるせいだ。田園地帯をのんびりと走るオレンジ色の古い車両、駅間の距離も短く、1時間に1本というローカル線の、のどかなたたずまい。そして、さまざまな乗客とのふれあい。事件といえば、肇と同じ新入りの若い運転士(三浦貴大)の存在くらい。彼はプロ野球選手を目指していたが、挫折して以来、心を閉ざしているという設定だ。肇と、この青年との世代のギャップが、のどかな風物に彩りを加える。監督・脚本(共同)を手がけたのは、島根県出身で「守ってあげたい!」(99年)、「白い船」(02年)などの錦織良成。「ALWAYS 三丁目の夕日」のROBOTが企画・制作した作品です。


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