「人類の終焉、人工知能の時代が始まる…」―スペイン出身の監督ガベ・イバニェスが挑んだ近未来SF「オートマタ」(3月5日公開)のキャッチコピーです。2044年、太陽風の増加によって砂漠化が進んだ地球。生き残った人類は、わずか2100万人。人類存亡の危機の中、生き残りをかけて、画期的な人型ロボット・ピルグリム7000型[オートマタ]が開発される。ただし、数多くのロボットが人間社会に入るために、A.I.(人口知能)ともいえるバイオカーネルに、ふたつの制御機能(プロトコル)が組み込まれる。<制御機能1:生命体への危害の禁止>、<制御機能2:自他のロボットの修正(改造)の禁止>の2項目である。
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オートマタから人間を守るために作られたプロトコルは変更不可能で、修正(改造)しようとすれば、バイオカーネルそのものが壊れてしまう。だが、この第2プロトコルが失われ、内部を多数改造されたオートマタが相次いで発見される。一体、誰が改造しているのか? その首謀者の目的は何なのか? 開発したROC社保険部から調査員ジャック・ヴォーカン(アントニオ・バンデラス)が派遣され、謎を追う。オートマタは、砂漠化を防ぐ巨大防御壁の建設や、機械式の雲を作るなどの作業に携わっている。そのためヴォーカンは、防御壁を作る建設現場に向かい、奇妙な現象に出くわす。だが突然、ROC社長から調査中止の謎の指示が届き、女性技師デュプレ博士(メラニー・グリフィス)からは驚きの実験結果がもたらされる。やがてデュプレはギャングに射殺され、ヴォーカンも狙われる。そのあげく、ヴォーカンは娼婦用オートマタ、クリオらに出会い、茫漠とした荒野に踏み込んで行く…。
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脚本(共同)も手がけたイバニェス監督は、SF小説の巨匠アイザック・アシモフの作品から着想を得たという。同時に、ハリウッドの古典的なフィルム・ノワールからもヒントを得たとか。同監督は、CG、3Dアーティストとして活動を開始、視聴覚効果監督としてのキャリアを持つ。そのため、ロボットの自己進化、人類の破滅というテーマとともに、ロボット(アンドロイド)のビジュアル化がみごとだ。デュプレ博士は言う―「猿の脳が、われわれの知性まで進化するのに約700万年かかった。でも第2プロトコルのないロボットなら、数週間で同じ進化を果たせる」と。なかでも、ドラマの鍵を握るオートマタ、クリオがチャーミング。ヴォーカンは、追い詰められたロボットを人間の手から救おうと試みるのだが…。
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ヴォーカンは、常に脳裡に美しい海を思い浮かべる。それは、砂漠化した終末世界と対比をなす。彼が守ろうとするのは、妻レイチェル(ビアギッテ・ヨート・スレンセン)と生まれたばかりの娘だ。作品中、この3人が唯一人間的な側面を示す。イバニェス監督は語る―「この映画のなかでは、人工知能が人間の知能と同じレベルまで達した瞬間が描かれる。ロボットは自ら学習するようになり、人間には成し得ないほどの知識を身に着けようとする」と。そして、混沌のなかでロボットの感情が芽生え、人間の持つ道徳心が失われていく様子が浮きぼりにされる。ロボットの人形作りにも、そのような感情の変化が反映されたという。
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本作は、ブルガリア=アメリカ=スペイン=カナダ合作となっている。出演者は、アントニオ・バンデラスがスペイン出身、メッセージ性の強い脚本に惚れ込んで製作も兼任した。また、妻を演じるビアギッテ・ヨート・スレンセンはデンマーク映画界のミューズ。メラニー・グリフィスや、刑事役のディラン・マクダーモットはアメリカの俳優。スタッフも、各国から参加した。更に、主なロケ地となったのはブルガリアで、同国とアメリカ、スペインが混じったチームになったそうだ。しかし、ロボットの自己進化⇒人類の破滅というアイデアは素晴らしいが、ストーリー展開が単純で、不明な点も散見されるのが残念。そういえば、私たちが使っているノートパソコンでも、日々、自己進化しているよね。(★★★+★半分)
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