2001年9月11日に起こった同時多発テロ以降、当時のアメリカのブッシュ政権は、イラク政府が大量破壊兵器をひそかに保有し、世界にテロを輸出する悪の枢軸のひとつだとして、03年3月20日にイラクに宣戦を布告した。だが、イラクが大量破壊兵器を所有していないことは、その後徐々に明らかになった。アメリカ映画「フェア・ゲーム」(10月29日公開)は、この事実を暴いた実録ポリティカル・サスペンスです。
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主人公は、CIAの秘密諜報員ヴァレリー・プレイム(ナオミ・ワッツ)と、その夫で元アフリカ・ニジェール大使のジョー・ウィルソン(ショーン・ペン)。ヴァレリーは、潜入捜査の結果、イラクに核兵器開発計画がないことを突きとめる。いっぽうジョーも、国務省の依頼で同様の調査結果を得た。だが、ブッシュ政権は夫妻の報告を無視し、イラクに宣戦布告。ジョーは、真実を公表するためニューヨーク・タイムズに調査報告を寄稿、一躍論争を巻き起こす。すると、政府が報復に乗り出し、ワシントンのジャーナリストたちにヴァレリーがCIAの諜報員であることがリークされる。それによって世間の批判を浴び、孤立無援に陥るヴァレリー。その時から、権力を相手に夫妻の過酷な闘いが始まる…。
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全編、事実を連ねて、真相を明確にしていく語り口が、ハリウッド映画にしては珍しく挑戦的だ。監督(兼撮影)は、「ボーン・アイデンティティー」(02年)、「Mr. & Mrs.スミス」(05年)のダグ・リーマン。本作は、07年に出版されたヴァレリー・プレイムの回顧録や、周辺の人物へのリサーチを行って製作されたという。表向きは証券会社勤務と偽っていたヴァレリーが、身分を暴露され“プレイム事件”として世を騒がせ、家族や各国の協力者にも危険が迫り、夫婦関係も崩壊寸前まで追いつめられていく過程がスリリングだ。
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映画は、ヴァレリー&ジョー夫妻のやりとりや、夫婦関係の危機を中心に展開する。権力側の理不尽に対する怒りの感情がやや弱い気もするが、それもハリウッド映画の限界か。でも、ヴァレリーの正体暴露を指示したのは、チェイニー副大統領の首席補佐官だったことが明らかにされるくだりには、思わず唖然とさせられる。国家に裏切られたヴァレリーは、CIAを退職後、家族とともに南部サンタフェで暮らしているとか。それにしても、友邦国を巻き込んで他国を侵略することをやめないアメリカの姿勢にはウンザリさせられる。その理由は、石油などの資源を狙ってか、それとも武器・弾薬の大量消費によって自国の経済活性化をはかるためか。本作を見ると、そんなことにまで考えが及んでしまいます。
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