クリストファー・ノーラン監督(兼脚本・製作)の「インセプション」(7月23日公開)は、“夢”を主題にした異色のサスペンス・アクションです。“INCEPTION”とは“初め、発端、開始、開設”という意味。ここでは“開設”という概念に近い。主人公コブ(レオナルド・ディカプリオ)は、他人の頭の中に侵入してアイデアを盗むという新型犯罪のプロ。あるとき彼は、日本人のサイトーと名乗る男(渡辺謙)から、いままでとは逆の仕事を依頼される。ライバル企業の御曹司の頭に侵入して「父親が築いた巨大企業をつぶす」という考えを“植えつける”というミッションだ。コブは、犯罪歴の消去と、故郷の子供のもとに帰してもらうことを条件に、それぞれの分野のプロを集めて困難な任務に挑む…。
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現実そっくりの精密な世界を夢の中に作り上げる設計士、夢の中で姿を変えてターゲットをだます偽造師、夢の世界を安定させるべく深い眠りをもたらす薬を作る調合師。彼らが、ターゲットの頭の中に作り上げた夢の世界に侵入するくだりが最大の見どころ。何段階にも重ねあわされた夢の世界。そのパラレルワールドを往復するコブ一味。彼らは、相手の防御機能が生み出した戦闘部隊と戦いを交えながら、目的に向かって突き進む。更に、コブが亡き妻モル(マリオン・コティヤール)と共有する夢の世界も登場。何層もの夢のレベルが錯綜して、映画を見終わったあと、観客のまわりに再び戻ってきた日常は、果たして本当に現実なのか、と錯覚させるような不思議な世界がつむがれていきます。
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クリストファー・ノーランは、記憶障害におちいった男が妻を殺した犯人を追う「メメント」(00年)で注目を浴びた。以後、「インソムニア」(02年)、「バットマン・ビギンズ」(05年)、「プレステージ」(06年)、「ダークナイト」(08年)など話題作を発表。“夢”というテーマは、10年越しの懸案だったとか。常に彼は、意識下の世界とか、微妙な心理状態といった主題にこだわり続けているようだ。今回は、ロケ地も東京、ロンドン周辺、パリ、タンジール、ロサンゼルス、カルガリーと広範囲に及ぶ。夢の世界の構築ともなれば、CGによる画面作りは不可欠。偽造された夢の世界と、その壊れやすいもろさが、夢幻性をさそう。だが欲をいえば、ハリウッド映画お得意のドンパチ、ドッカーン!のシーンは少し控えて、もっと無意識のレベルの奇怪さに踏みこんで欲しかったという気もします。
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