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わくわく CINEMA PARADISE 映画評論家・高澤瑛一のシネマ・エッセイ

半世紀余りの映画体験をふまえて、映画の新作や名作について硬派のエッセイをお届けいたします。

マスターズ甲子園に賭ける男たち「アゲイン 28年目の甲子園」

2015-01-17 14:08:01 | 映画の最新情報(新作紹介 他)

 大森寿美男監督は、映画デビュー作「風が強く吹いている」(09年)で、箱根駅伝をテーマに爽やかな青春ドラマを見せてくれた。彼の2作目が「アゲイン 28年目の甲子園」(1月17日公開)です。重松清の原作をもとに、憧れの甲子園を目指す高校野球部のOB/OGたちの姿を描く感動物語。この“マスターズ甲子園”は、高校野球部の卒業生が、世代、性別、甲子園出場経験の有無、元プロ・アマチュアなど、キャリアの壁を乗り越えて出身校別にチームを結成、甲子園球場を目指す大会だ。2004年に神戸大学発達科学部に大会事務局が発足し、いままで11回を積み重ね、元高校球児たちの第二の夢の場所となっているという。
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 元高校球児・坂町晴彦(中井貴一)のもとに、亡くなった元チームメートの娘・美枝(波瑠)が訪ねてくる。そして、マスターズ甲子園の学生スタッフとして働く彼女から大会への参加をすすめられるが「いまさら」と断る。28年前の事件―坂町たちが甲子園に行けなかった原因は、実は美枝の父が起こした暴力事件にあったのだ。それは思い出したくない過去であり、美枝には話したくなかった。だが、父の思いを追い求める美枝と接するうち、坂町は離れて暮らす娘と向き合ってこなかったことに気付く。そして、思い出を締め出すことで、自分を欺き続けてきたことも。しかし、あの夏に決着をつけなければ前に進めない。坂町は、ピッチャーの高橋(柳葉敏郎)ら元チームメートと再び甲子園を目指すことを決意する。
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 ドラマの縦糸となるのは、中年の元球児たちが未体験の甲子園出場を目指して悪戦苦闘する姿と、彼らの高校時代のフラッシュバックだ。横糸になるのは、彼らオヤジ球児たちをめぐる親子、夫婦、チームメートらとの相克です。たとえば、中井貴一演じる坂町は川越学院野球部の元キャプテン、離婚した妻が亡くなって以来、一人娘の沙奈美(門脇麦)とも絶縁状態。恋人と同棲している沙奈美は、事ごとに坂町に反発する。また、仲間の高橋はリストラにあい就職活動中。美枝の父親は、27年間出されることがなかった年賀状をチームメートに書き続け、離婚してからは娘と離れて暮らし、故郷の東北で3:11の震災で命を落とす。元チームメート内では、美枝の父が起こした過去の事件をめぐって騒動が起こる。
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 しかし、こうした登場人物の因果関係が、型通りのメロドラマになってしまっていることは否めない。マスターズ甲子園では“甲子園キャッチボール 親子編・旧友編”と題して、大会出場者が大切な人とキャッチボールを行うプログラムがあるという。劇中、坂町が駆けつけた娘とキャッチボールをするくだりなどにはホロリとさせられる。だが、それ以外の地方大会をはじめとする試合のシーンなども物足りない。作品全体が、いまふうの装いを持つ、お涙ちょうだいのプロットで成り立っている。実際のマスターズ甲子園のドキュメント・シーンも取り込んで、もっと締まったドラマ作りをしていたら面白くなったのに、と残念だ。
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 そんな中で見どころを探すと、若い出演者たちの魅力だ。たとえば、チームメートの期待を裏切った父親の軌跡をたどる美枝に扮した波瑠がチャーミングで、好演を見せる。亡くなった父の野球への思いを察し、坂町らを誘う際のひたむきさ。そして、父が起こした事件の秘密を知った時の衝撃。波瑠は、そんな純粋な娘の心理の移ろいを巧みに表現する。また、坂町の高校生時代を演じる工藤阿須加の父親は元プロ野球選手の工藤公康で、熱血漢ぶりを見せる。ロケーション撮影は、越谷市民球場など埼玉各地、美枝の父の地元とされる石巻、神戸大学発達科学部のグラウンド、阪神甲子園球場などで行われている。(★★★+★半分)



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