ベルギー出身のジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌの兄弟監督は、「ロゼッタ」(99年)と「ある子供」(05年)でカンヌ国際映画祭パルムドールを受賞、同映画祭で5作品連続主要賞を獲得している名コンビだ。その作風は、庶民の視点に立って悲劇的な状況下から再生する人間を描くという姿勢に貫かれている。彼らの新作は、育児放棄された子供を主題にした「少年と自転車」(3月31日公開)で、第64回カンヌ国際映画祭グランプリを受賞した。03年に「息子のまなざし」のプロモーションで来日した際に、少年犯罪についてのシンポジウムで聞いた“赤ちゃんの頃から施設に預けられた少年が、親が迎えに来るのを屋根にのぼって待ち続けていた”という話に着想を得て製作された作品だそうです。
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主人公は、もうすぐ12歳になる少年シリル(トマ・ドレ)。彼の願いは、自分を児童養護施設に預けた父親を見つけ出し、一緒に暮らすこと。あるときシリルは、美容院を経営する女性サマンサ(セシル・ドゥ・フランス)と出会い、週末だけの里親として彼女の家で過ごすようになる。彼は自転車で街を駆け回り、サマンサとともに父親を探し出すが、父には「二度と会いに来るな」と拒まれる。サマンサは、シリルが実の親に再び捨てられる姿を目の当たりにして、これまで以上に彼と真摯に向き合い始める。やがて、シリルの頑なな心も変化し始めるが、ある事件をきっかけにして、彼は窮地に追い込まれる…。
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親から見放され、すべての大人に不信の眼差しを向け、犯罪に走るシリル。彼が、父親を求めて自転車で走り回る姿が切ない。一方、ふとしたことで彼と知り合ったサマンサは、恋人と袂を分かってでもシリル少年を守ろうと、善意で少年の心を癒そうとする。ダルデンヌ兄弟は、余計な解釈を加えずに、彼らの交流をシンプルかつ直截な演出でつづっていく。育児放棄→養護施設→里親→少年のあがき。こうした暗いドラマを、ダルデンヌ兄弟は、一陣の爽やかな風が吹き抜けるようなタッチで映像化している。「この映画を、おとぎ話のようなものにしたかった。悪者たちが少年の幻想を打ち砕いた後、サマンサが妖精のように現れる…」とジャン=ピエールが言うように、作品全体に作者の愛があふれている。
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シリル少年に扮するのは、100人余りの候補者からオーディションで選ばれたトマ・ドレ。誰も信用できずに、反抗的な視線で街を疾走する姿が強烈な印象を残す。いっぽう、サマンサ役のセシル・ドゥ・フランスはベルギー出身で、「シスタースマイル/ドミニクの歌」(09年)で好演。パワフルで繊細なキャラクターが魅力的だ。彼女は言う-「ダルデンヌ兄弟の、現実や社会の描きかたは素晴らしいと思う。それに彼らは、ベルギーそのものです。彼らは、計り知れない繊細さをもって、私たちの国を描いています」。そして、ハートウォーミングなドラマの終局。そこには、社会を冷徹に断罪するよりも、はるかに強い説得力が満ちあふれているように思われます。五つ星採点で★★★★+★半分。
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「少年と自転車」公開を記念して、“ダルデンヌ兄弟特集上映”が開催されます。開催期間は3月24日~30日。開催場所は東京・渋谷のBunkamuraル・シネマ。「イゴールの約束」(96年)、「ロゼッタ」、「息子のまなざし」(02年)、「ある子供」、「ロルナの祈り」(08年)の5作品を上映。
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