デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

マイルスになりたかった男、ドン・チードル

2017-01-22 09:17:08 | Weblog
 「MILES AHEAD / マイルス・デイヴィス 空白の5年間」。この映画のタイトルからどのような内容をイメージするだろうか。年表を手繰ってみると1975年9月5日のセントラル・パークでの演奏を最後に長い沈黙に入り、「Man With the Horn」で復帰したのは1981年だった。病気説や死亡説まで流れるなか試行錯誤を重ねたであろう空白を音楽的観点から描いた作品と思ったら度肝を抜かれる。

 ジャズファンにとっては神様のマイルスだが、一般的には知名度が低く上映されない地域もあるので、DVD化されてから観る方のためにネタバレしない範囲で紹介しよう。フィクションであることは予想していたもののいきなりカーチェイスに銃撃戦だ。おまけに中途半端な濡れ場もある。マイルスが主人公でなければB級のギャング映画と言っていい。そこにフランシス・テイラーやギル・エヴァンス、テオ・マセロというマイルスを取り巻く実在の人物が出てくるので、どこまでが作り物なのかわからなくなる。帝王ならこんなことがあったとしても不思議ではないと思わせるところが巧い。

 ギルとの信頼関係は映画でもよく描かれている。タイトルにもなっている1957年録音の「Miles Ahead」を取り出した。ジャケットは2種類あるが、こちらがオリジナルだ。俺のレコードジャケットに白人の女の写真を載せるなとマイルスが怒ったので後に違うジャケットに差し替えられている。予備知識がないまま聴くと一人の作曲者が組曲風に書いたのではないかと錯覚するほど流れがいいが、実は収録されている10曲は別々の作曲家によるものだ。それを違和感なくアルバムトータルで聴かせるのが音の魔術師と呼ばれたギルの手腕だ。そのなかを悠々と吹くマイルスの美しいこと。

 この映画、ドン・チードルが製作、監督、脚本、主演と全てをこなしている。「ラット・パック / シナトラとJFK」ではサミー・ディヴィスJr.になり切っていたが、この映画にはジャケット写真から飛び出してきたマイルスがいた。007の作者イアン・フレミングは生まれ変わったらサミーになりたいと語っていたが、チードルに同じ質問をしたら嗄れ声で即答するだろう。「MILES !」
コメント (14)
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