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デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

瞳を閉じて暫し夢心地 I'll Close My Eyes

2014-08-10 09:41:49 | Weblog
 「マイルスが吹くために作られたような曲だ」とか、「エヴァンスのこれを聴いたあとではどんな演奏もかすむ」とか、「この曲にはビリーの魂が宿っている」と表現されることがある。いわゆる決定的名演や絶対的名唱をさす最上句で、これからその曲をレパートリーにしようとするプレイヤーにとって最良の手本でもある。名演や名唱は曲の解釈と感情の移入は勿論のこと、ある程度の緊張とほど良いリラックスがなければ生まれない。

 ブルー・ミッチェルの「Blue's Moods」を例に挙げると、初のワンホーン作品になることからくる緊張である。初リーダー作「Big6」、続く「Out of the Blue 」、「Blue Soul」の3枚は1曲だけワンホーンもあるが、2管或いは3管編成だった。第4作目にしてフロントに一人で立つとなれば力が入る。複数の管が入ると、たとえアンサンブルでミスをしても目立たないが、トランペット1本となると話は別だ。微妙なビブラートも誤魔化しがきかない。60年録音時、ミッチェルは去る6月18日に85歳で亡くなったホレス・シルヴァーのバンドメンバーだったことからかなりの場数を踏んでいるとはいえ、この録音はプレッシャーがかかっただろう。 
 その緊張を解きほぐしたのは旧知のサイドメンである。ピアノは初リーダー作から付き合いのあるウイントン・ケリーで、この時代最もご機嫌なピアノといっていい。ベースはキャノンボール・アダレイのバンドで活躍中のサム・ジョーンズで、ベースを弾くというより鳴らすという表現が相応しいビッグトーンだ。ドラムはシルヴァーのバンドで仲の良いロイ・ブルックス。そして、一番はリラックスして録音に臨めるようメンバーを手配し、逸るミッチェルにタバコの火を付けたリバーサイドのプロデューサーであるオリン・キープニュースだ。リバーサイドというレーベルがジャズの名門である理由はここにあるような気がする。

 そんなベストといえる環境で録音したのだから当然、名演が生まれる。それも決定的名演だ。イギリスの作曲家ビリー・リードが作った「I'll Close My Eyes」で、淡々とメロディを紡ぐミッチェルにさりげなくコロコロとアクセントを付けるケリー、要所要所を締めるジョーンズ、小気味良いリズムをたたき出すブルックス、ワンホーンの傑作である。この録音から半世紀以上経つがこれを超えるこの曲に出会ったことがない。

コメント (7)
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