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デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

パパ・ジョーの印税はどこに消えた

2013-06-16 10:44:00 | Weblog
 カバン一つと古びたギターを抱えてアメリカに渡り、ハーレムに居を構えたブルース・シンガー、大木トオルさんの著書「伝説のイエロー・ブルース」(文藝春秋刊)に、ドラマーのルイス・ヘイズに紹介されてあるドラマーを訪ねるくだりがある。「ワンルームにベッド一つ、こわれた白黒テレビ、小さなラジオ」それだけが所帯道具で、「汚れたナイトガウンにプンと鼻をつくアルコールの匂い・・・」

 これがあの名ドラマー、ジョー・ジョーンズの成れの果てなのか、と。大木さんでなくとも目を疑う光景だ。「ジョーのレコードは、いまもレコード店にならび、そのアルバムはロングセラーをつづけている。印税さえコンスタントに入っていれば、なにもこんな貧しい生活を送る必要はないのだ」と疑問に思う。その謎にヘイズが答えている。「教育もなく、文字の書けない名ドラマーは、マネージャーやレコード会社のお偉方から一時金やピカピカ光るキャデラックをあてがわれて、印税契約をしなかった」と。ハーレムに暮し、ミュージシャン仲間から信頼された人でなければ遭遇できない悲しい事実に愕然とした。

 著書は1983年の出版なので、これは1985年に亡くなる数年前のことだろうか。ベイシー楽団のオール・アメリカン・リズム・セクションを支えたパパ・ジョーと呼ばれた偉大なドラマーの録音は無数にあるが、「アワー・マン・パパ・ジョー」と題されたアルバムは77年に日本で企画されたもので、当時66歳の正確無比なドラミングをとらえている。プロデューサーはマックス・ローチのマネジャーを務めている小沢善雄氏、コーディネイターはベイシーのコレクターとして著名な上野勉氏、そして録音は当時一番「原音再生」に近づいたPCM録音である。最近の安易な日本企画や無味乾燥な音とは一線を画した本物のジャズと音を楽しめる。

 今は原盤印税やアーティスト印税は保護されているので、パパ・ジョーのようなケースは少ないと思われるが、当時はこのような黒人ミュージシャンの無知に付け込んだ不当な搾取が当然だった。悲しくて怒りを覚えるが、このアルバムが売れたら印税は幾らになるかとか、この曲がヒットしたら幾ら儲かるか等と目先の皮算用をする音楽より、金銭を充てにせず夢中で打ち込んだ音楽のほうが数段優れているのは言うまでもない。