goo blog サービス終了のお知らせ 

デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

ウォーホルが描いたケニー・バレルのブルージーなギター

2009-11-08 08:01:31 | Weblog
 キャンベル・スープの缶、コカ・コーラの瓶、ドル紙幣、モンローの肖像、アメリカ文化をモチーフにした作品を描いたアンディ・ウォーホルは、ポップアートの旗手として知られる。日常風景の一部である日用品も視点を変えるだけで強い主張をするから不思議なものだ。ウォーホルがレコードジャケットを手掛けた「バナナ」にしても何の変哲もないが、いつでも目にするものほど切り取ると鮮やかに映るのがポップアートである。

 ジャズファンお馴染みのウォーホル作品といえば、ケニー・バレルの「ブルー・ライツ」だろうか。昨今エロティックな写真を使ったジャケットのジャズアルバムが闊歩しているが、線だけで写真以上にエロスを表現できるのがウォーホルだ。ジャケットからはストリングスが入ったイージーリスニングを思わせるが、内容はルイ・スミス、ティナ・ブルックス、ジュニア・クックの3管をフロントに配した典型的なハードバップで、デューク・ジョーダン、ボビー・ティモンズ、サム・ジョーンズ、アート・ブレイキーというリズム隊の布陣はブルーノート・オールスターズのセッションでもある。バレルはバッキングでもソロでもブルージーなことこの上ない。

 地方で活躍するミュージシャンがジャズの本場であるニューヨークに進出する機会は、大物がツアー中にたまたま耳にし、そのままバンドに加わるケースが多く、バレルもディジー・ガレスピーの目にとまったことがジャズギターのシーンに躍りだすきっかけになる。ブルース・フィーリング横溢したギタリストは、ウエス・モンゴメリー、グラント・グリーン等、挙げるときりがないが、泥臭くなく都会的で洗練され、それでいて土の香りが漂うジャズギタリストも珍しい。56年のデビューアルバムから数えて50枚近くのリーダー作を残しているが、1枚も駄作がないし、もし駄作と呼ばれるものがあるとすれば、それはサイドメンの不調によるものだろう。

 ウォーホルは自身について聞かれたとき、「僕を知りたければ作品の表面だけを見てください。裏側には何もありません」と答えている。芸術は表面的なものであり、芸術家の内面を探ったところで作品の価値が変るものではないことを語ったものだ。一見しただけでそれとわかるウォーホルのポップアートと同じように、一音だけでケニー・バレルとわかるブルージーなギターは例を見ない。