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デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

サド・メルとデ・シーカとひまわり

2008-03-16 07:27:20 | Weblog
 中国に有名絵画を複製し販売している村がある、という話題がテレビ番組で紹介されていた。ゴッホの「ひまわり」を僅か30分足らずで描きあげる様はおおよそ芸術とは程遠いが、何十枚ものひまわりが並ぶ光景は壮観で、映画のワンシーンを思い起こさせる。それはソフィア・ローレンが主演した反戦映画の傑作「ひまわり」で、地平線にまで及ぶ向日葵畑が画面いっぱいに広がるあのシーンに涙した人は多い。イタリアの監督ヴィットリオ・デ・シーカが、10年の歳月をかけた不屈の名作で、名作を生むには時間が必要である。

 そのデ・シーカ監督の息子、マニュエル・デ・シーカは数々の映画音楽を手がけた作編曲家で、サド・ジョーンズ&メル・ルイス・オーケストラにスコアを提供したのが写真のアルバムだ。B面に及ぶ5曲構成の「First Jazz Suite」は、ルイスのドラムソロから始まり、ブラス陣が一体になったアンサンブルが重なり、管のソロに続く。ビッグバンドの典型的手法なのだが、一味違うのは、ローランド・ハナのピアノ、ジョージ・ムラーツのベースとルイスのドラムを前面に押し出すアレンジなのだ。従来の管重視を覆しリズムを強調したスタイルは、組曲のタイトル通り、ジャズの始まりはそのリズムにあることを暗示しているのだろう。

 ヴィレッジ・ヴァンガードがオフの毎週月曜日にスタジオミュージシャンが集まり、リハーサルバンドとして出発したサド・メル・バンドは、数年の間に音楽的に充実したレギュラーオーケストラに成長した。ビッグバンド成功の秘訣は、一流のプレイヤーを揃えることよりも、優れたアレンジャーに恵まれることだという。エリントンやベイシー、バディ・リッチのバンドのようにメンバーが移動しても長期間活躍するバンドの例を見ると明らかである。サド・メルが、サド・ジョーンズの編曲中心でややマンネリ化した時期にマニュエルに編曲を委ね、バンドに新風を吹き込んだアイデアには、ジャケットのように大きな拍手をおくりたい。

 複製には著作権があり、作者が没後50年経たないとコピーできないという世界ルールがあるが、件の村では没後34年のピカソも売られている。コピーする事に、罪悪感がないと言われているお国柄らしい。黄色い絨毯を敷き詰めたような複製には笑っていられるが、同じ黄色でも中国から飛んでくる黄砂には困りものだ。
コメント (25)
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